

公開日:2026/08/07

クリエイティブはどのような場所で生まれるのか?さまざまな企業のオフィスを訪問し、その環境をインタビューする連載企画「クリエイティブが生まれる場」。
今回は、2026年4月に開設し、同年5月に全フロアがオープンしたLINEヤフー株式会社の赤坂オフィスを訪問した。16フロア・約7,000席を誇るオフィスは、LINEとヤフーの合併後、初めてゼロから立ち上げた大規模拠点だ。
数字から想像するのは圧倒的なスケールだが、実際に歩いてみると細やかな配慮が印象に残る。その時々に応じた過ごし方を選べる環境は、クリエイティブをどのように支えるのだろうか。空間デザインを主担当として進めた同社の佐藤晋平さんと、プロジェクト全体を率いた坂口卓さんに話をうかがった。
――まずはお二人のご経歴と、赤坂オフィス立ち上げではどのような役割を担ったのか教えてください。
坂口卓さん(以下、坂口):私は新卒で建設会社に入り、クライアントのオフィスづくりに長く携わってきました。その後、ゲーム会社で国内外の拠点立ち上げを経験し、2013年にヤフーへ入社しました。現在は総務ユニットリードで総務を担当しています。今回のプロジェクトでは、全体責任者として、進行管理やクオリティチェック、予算管理などを担当しました。

坂口卓さん
佐藤晋平さん(以下、佐藤):私は、もともとは設計事務所で建築設計に携わっており、LINEに空間デザイン部門ができると聞き、転職しました。現在は、横断的なデザイン組織に所属し、ブランドデザインを担う部門の中で、ビジュアルデザインのチームと並んで空間領域のデザインを担当しています。

佐藤晋平さん
佐藤:赤坂オフィスプロジェクトでは意思決定のスピードを高めるため、デザイン面の主担当として参加しました。2024年末に出社していたところ、坂口さんのチームから声をかけられたのが始まりです。オフィスを手がけたのは2021年以来だったので、ちょうど久しぶりにオフィスを設計したいと思っていた時期でした。
――赤坂オフィスはどのような経緯で開設することになったんですか?
坂口:きっかけは、2024年12月に「出社頻度を上げていく」という方針が全社に発表されたことです。リモートワーク中心の働き方から原則週3日の出社へ移行するため、コロナ禍で縮小していたオフィススペースを改めて確保することが目的でした。
2025年1月に新オフィスプロジェクトが正式に始まり、約1年4カ月で16フロア・およそ7,000席のオフィスを開設するという、かなりタイトなスケジュールでした。

赤坂オフィスを訪れた際に最初に出会うエリア「RECEPTION」(写真提供:LINEヤフー)
――全部門の声を取り入れて作り上げたオフィスだとうかがいました。どのような体制で進めたのでしょうか?
坂口:プロジェクトの中心は、人事総務側のプロジェクトチーム、デザインを担当する佐藤、外部の設計パートナーです。さらに、実際に働く社員の視点を取り入れるため、全部署横断の「オフィス分科会」を立ち上げ、営業やエンジニアなど各部門の社員に参加してもらいました。
LINEヤフーは、経営トップの考えをそのまま空間にするような、トップダウン型のオフィスづくりをする会社ではありません。社長から示されたのは、「イケてるオフィスにしてほしい」というシンプルな方向性だけでした(笑)。

坂口:現場に委ねられているからこそ、プロジェクト側の論理だけでは、社員が本当に求めるものとずれてしまう可能性があります。そこでワークショップを重ね、出社体験をよくするための意見を集めました。
分科会のみなさんは、出社体験を良いものにしようと前向きで、建設的な意見が多く集まりました。ただ、予算や工期の都合はもちろん、オフィスが提供すべきものかどうかをプロジェクトチームが見極めて最終判断し、多くの声を全体の使いやすさにまとめていきました。
――分科会で集まった声はコンセプトにどう結びついたのでしょうか?
佐藤:ワークショップから生まれたのが、「Talk」「Boost」「Easy」という3つのキーワードです。気軽に話せること、アイデアや仕事が前へ進むこと、迷わず快適に使えることを表しています。そこから、「Stay Closer, Go Further」をオフィスのコンセプトに据えました。
LINEヤフーのコーポレートロゴにも使われているこのコンセプトには、人と人との距離が近づき、その先の価値創出へとつながっていくという想いが込められています。3つの言葉と会社の方向性が自然につながりました。
――約7,000席を短期間で作る上でどのような考え方を軸にしたのでしょうか?
佐藤:執務エリアはあえてシンプルにしました。全フロアで基本のレイアウトを共通化し、壁はできるだけ立てず、家具で空間を仕切っています。工期やコストを抑えられますし、将来の増設や使い方の変化にも対応しやすくなります。実は条件が多い執務エリアは、設計の方向を定めやすいんです。

執務エリア(写真提供:LINEヤフー)
佐藤:逆に、社内レストランや受付、ラウンジのように選択肢が多い場所は答えが1つに決まらない。設計としては難しい一方で、よりクリエイティブな部分でもあります。働く場所をシンプルに整えた分、その「余白」の設計にこそ力を注ぎました。
――執務エリア以外ではどのような考えが反映されていますか?
佐藤:執務席へ向かう前に必ず通る共用エリア「CONNECT STREET」は、ロッカーやカウンターを置いて、人が自然に行き交う動線にしました。席に着くまでに同僚やほかの社員の姿が目に入り、立ち話や相談が始まることもあります。偶発的な出会いを日々の動線の中に組み込みました。

執務エリアへ向かう途中に必ず通る「CONNECT STREET」。ロッカーやカウンター、食事などができる場所を日常の動線上に配置し、人が自然と顔を合わせる状況を作っている
佐藤:一方で、一人で食事をしたい人も、静かに作業したい人もいます。その時の業務や気分に合わせて居場所を選べることも大切にしています。

別の階の「CONNECT STREET」。1人で食事や作業ができるカウンターは、奥行き約50cm。「広ければ快適というわけではなく、1人で過ごすにはこのくらいがちょうどいいんです」と佐藤さん。内装は4種類あり、椅子や照明もフロアごとに変えている
坂口:また、各執務エリアには、100名ほどが集まれる「CONNECT HUB」もあります。こちらも使い方は各部門に委ねているので、朝礼に使う部門もあれば、新卒配属の時期に研修スペースに作り変えていた部門もありました。

「CONNECT HUB」。フロアによってさまざまな使い方がされている(写真提供:LINEヤフー)
――靴を脱いで横になれる「POOL LOUNGE」は、どのような発想から生まれたのでしょうか?
佐藤:「POOL LOUNGE」は、私自身も気に入っている場所です。在宅勤務で少し休憩する際にベッドに身を預けるような感覚を、会社でも作れないかと考えました。

靴を脱ぎ、クッションに身を預けて休める「POOL LOUNGE」。寝転がると、下からの照明で植栽の影が天井に映り込み、癒しを感じられる空間となっている(写真提供:LINEヤフー)
佐藤:以前のオフィスにも横になれる場所はありましたが、寝ている姿が周囲から見えてしまい、あまり使われませんでした。その反省から、壁の高さを上げて視線をきちんと遮っています。低い壁の方が開放的で、遠くから見れば美しいかもしれない。でも、実際に使う人が安心して休めることを優先しました。
――サインやピクトグラムにも、LINEヤフーらしい工夫が感じられますね。
佐藤:サイン計画は社内のビジュアルデザインチームと一緒に進めました。ピクトグラムも含め、ゼロから設計しています。社員数がとにかく多いので、画面上できれいに見えるだけではなく、10m先からでも案内がわかるか、動線の中で迷わず認識できるかが重要です。
グラフィックデザイナーは平面上の精度に強く、空間デザイナーは素材や光、視線、距離を考えます。それぞれの専門性を持ち寄り、見え方や素材を調整しました。

オリジナルのピクトグラム(画像提供:LINEヤフー)
佐藤:コーポレートロゴに使われている62度の角度「イノベーションエッジ」は、ピクトグラムなどにも取り入れています。ただ、すべてに厳密に当てはめると、かえって見づらくなることもあります。全てにおいて62度を絶対にするのではなく、使いやすさを優先しながら、形や線の傾きにブランドらしさを残しました。

サインの右下の角度も62度になっている(画像提供:LINEヤフー)
――LINEとヤフー、2つの会社の経験は赤坂オフィスにどう活かされましたか?
坂口:ヤフーは、紀尾井町の本社で最大約7,000席規模のフリーアドレスに挑戦してきた過去がありました。社員同士の偶然の出会いから、新しい発想を生み出したいという狙いでした。
ただ、実際には業務上の関わりがない人へ自然に話しかけるのは難しいんですよね。座る場所がある程度決まっている方が、日々の仕事は進めやすいということもわかりました。
佐藤:LINEでは、個々の拠点となる席を用意しながら、別にラウンジを設ける考え方を取り入れていました。ヤフーとLINEは異なる道を歩んできましたが、今回の赤坂オフィスではそれぞれの利点と課題を持ち寄ることができたと感じています。
部門ごとの拠点を基本としながら、「CONNECT STREET」や「CONNECT HUB」で人との接点を生み出すようにしています。2社の試行錯誤があったからこそ、短期間でも現在の形にたどり着けたのだと思います。

20階にある佐藤さんデザインのストレッチのできる椅子
――短い工期の中で、デザインをまとめる難しさもあったのではないでしょうか?
佐藤:やはり、意思決定のスピードはなかなか大変でしたね。外部パートナーとの打ち合わせで初めて見た案に、その場で考えを整理してフィードバックし、翌週には次の案を出してもらう。迷いながら判断する場面も少なくありませんでした。
一方で、外部の設計パートナーとは、とても良い関係を築けました。こちらの指示通りに図面を作るのではなく、「やってみたがこうした方が良いのでは?」と提案を返してくれるんです。私もそれに対して図面を引いて別案を出す。いわば、イエスマンのいないチームでした。互いに遠慮せず案を出し合えたことが、完成度につながったと思います。
――オープン後、社員のみなさんはどのように使っていますか?
佐藤:想像以上に、使いこなすのが上手です。引っ越しして1週間ほどで、社員が「CONNECT STREET」にお弁当を持ち寄り、ランチ会を開いているのを見かけました。会社が細かく指示をしなくても、自分たちが過ごしやすい形を考え、前向きに工夫してくれています。
20階の「FIELD 20」は、技術イベントの期間中、開発と発表の両方に使われていました。家具や植栽の位置も変わり、見たことのないテーブルやたくさんのお菓子が並んでいて(笑)。作り手が想定した使い方を超えて、社員の手で場所が更新されていくのは面白いですね。

20階の多目的スペース「FIELD 20」。家具の多くは可動式で、打ち合わせや開発、発表、社内イベントなど、用途に合わせて構成を変えられる
――LINEヤフーでは、どのような人たちが働いているのでしょうか。
坂口:当社の社員の半数がエンジニア・デザイナーです。サービスやプロダクトを開発し、ユーザーに届けることが事業の根幹にあります。
佐藤:好奇心が強く、思いついたアイデアを前向きに試す人が本当に多いですね。既存の仕事の進め方やルール、空間をそのまま受け入れるのではなく、自分たちがより使いやすい形へ工夫していく。そうした姿勢が、オフィスの使われ方にも現れていると感じます。
坂口:部署を越えたサークル活動も盛んですし、チームの懇親会や部門イベントへの補助など、コミュニケーションを後押しする制度もあります。
社内レストランで夕食の提供を始めたところ、社員同士が食事を囲んで会話を楽しんでから帰る姿も見られるようになりました。空間だけでなく、制度や運用も含めて、人がつながる環境を作っています。

朝食から昼食まで利用できる21階のダイニング。1人で落ち着いて過ごす場所から、複数人で集まる場所まで、さまざまな座席が用意されている

こちらは昼食から夕食まで利用できる13階のダイニング。手軽に利用できるビュッフェや軽食に加え、懇親会向けコースメニューも提供される(写真提供:LINEヤフー)
――IT企業に自社の空間づくりを行う部門があるのは珍しいと思いますが、インハウスで空間を設計する面白さはどんなところですか?
佐藤:当社のように、企業の中に空間設計の専門職がいる例は珍しいですよね。インハウスの面白さは、社員というユーザーの近くにいられること。社員がどう働き、どこで1人になりたくて、どんな場所なら自然に使うのか。特にこの会社は多種多様な人がいるので、エンジニアの働き方や特性について知っている設計者はあまりいないと思います(笑)。
また、作って引き渡して終わりではなく、その後の運用にも関われます。自分で仕事の奥行きや軸を広げられることは、インハウスならではです。
坂口:私も前職でさまざまな企業のオフィスを設計してきましたが、外部からでは掴みにくい感覚を日々の中で知ることができます。作ってからの運用の方が大変ですから。

――最後に、この赤坂オフィスを通じて、社員のみなさんに期待することを教えてください。
佐藤:すごいサービスを作ってほしいですね(笑)!それは結果ですけど、業務に集中することも、人と話すことも、気分転換や休憩も、その時必要なことにしっかり入っていける場所であってほしいと思っています。そうした日々の積み重ねが、いいアウトプットにつながっていくといいですね。
坂口:私たちにとって、オフィスを作ること自体がゴールではありません。オフィスは、会社や社員が前に進むためのツールです。社員のみなさんに使い倒してもらい、「ここで新しいサービスやプロダクトが生まれた」と言えるようになって、初めて作った意味がある。ここから会社が成長していく姿を見られたら一番嬉しいです。


2016年LINE入社。設計事務所にて国内外の建築の設計業務に従事し、LINE入社後は、LINEの新宿ミライナオフィス、四谷オフィスなど歴代オフィスの設計やイベントの会場デザインを手がける。

2013年ヤフー入社。建設会社、ゲーム会社で国内外のオフィス立ち上げを経て、ヤフー入社後は、ヤフーの歴代オフィスやPayPay設立時のオフィス構築などを手がける。