株式会社 楽日
取材・文:木村早苗 撮影:里永愛

公開日:2017/11/20

働き方インタビュー

音楽業界に新しい価値観を提供するため、コミュニケーションからデザインする

株式会社 楽日

加藤晴久 代表取締役

音楽・アニメなどのエンタメ業界を中心にグッズの企画、デザイン、製作、販売をはじめ、「モノづくり」に焦点をあてた共創メディア「LUCKAND(ラカンド)」、連携するショップ&ギャラリーを運営するなど、“create the future”をテーマに活動を続けてきた株式会社 楽日 (LUCK’A Inc.)。創設10周年のタイミングで、これまで制作に携わってきたバンドTシャツを集めたイベント「BAND T-shirts Museum」を開催し、デザインという方向から音楽業界に新しい価値観を提供し続けている。「アーティストの気持ちを引き出すことを常に意識しています」と語る、株式会社 楽日(以下、楽日)代表取締役の加藤晴久さんに、アーティストと仕事をする醍醐味や楽日のこれからのビジョンなどについてうかがった。

アーティストが音楽活動を続けるため、血が通ったプロダクトをつくる


Q.楽日の事業内容を教えてください

加藤:おもに、音楽とアニメに関わるデザイン業とギャラリーカフェ運営です。起業した理由は人や情報が集まるような店をつくるためでしたが、アパレル業界やデザイン事務所時代に経験した音楽業界の方々との仕事が魅力的で、まずは邦楽インディーズに特化したバンドTシャツのデザイン業からはじめました。今年で10周年ですが、3年目に縁あってアニメ部門も加え、5年目にギャラリーカフェを開店して現在の形になりました。

株式会社 楽日 代表取締役の加藤晴久さん

株式会社 楽日 代表取締役の加藤晴久さん

邦楽に特化したのは、ふだん着たいと思えるカッコいいTシャツがまだあまりなかったからでした。10代の頃にメロコアという音楽に出会った僕は、Green Day「Dookie」のTシャツのかっこよさに衝撃を受けました。そして、Tシャツがバンドの音楽と個性を伝える象徴だと気づいたのです。でも邦楽ではどうも様子が違う。邦楽のバンドも日常で着用できるTシャツにすればいいのに、そして、バンドを知る機会にも繋がる存在に押し上げたいと思いました。そんな思いから始めた音楽部門ですが、手がけるデザインはいまはCDジャケットからプロダクトまで広範囲に渡ります。CDの販売数が減り続けるいま、アーティストが音楽活動を続けるには、楽曲だけでなくプロダクトにも血が通ったものでなくてはいけません。その制作面に自分たちのノウハウを活かし、貢献したいと考えています。

アーティストグッズをトータルディレクション

アーティストグッズをトータルディレクション

Q.加藤さんはどのような立場でお仕事をされていますか

会社の経営も行いますが、いまも新規のバンドとの初回打ち合わせやライブにはすべて顔を出しています。デザインはもちろん、バンドの見せ方やグッズ展開の知識が求められていると感じるからです。バンドが大きくなるために必要なことを見極め、最短距離で最良な結果を出すためには、ある程度厳しいことを言える立場でいる必要もあります。言うなればコンサルタント業務でもありますよね。でも僕自身は、アーティストが納得し自信を持ってユーザーに提供できるものづくりが一番だと思うので、彼らの想いやニュアンス的なものを引き出すことを常に意識しています。

Q.お仕事のモットーは?

社長面をしないことと自分の尺で測らないこと。スタッフの個性を潰さないよう、社内ではニュートラルな接し方を心がけています。それから、人に会う時は相手を考えつつ自分の好きなものを身につけること。服や小物をきっかけに会話が生まれることってありますよね。その時点で打ち解けられるので、話もスムーズに進むんです。打ち合わせでもそうです。バンドメンバーとはものづくりのクリエイターとして刺激しあえる関係でいたいから、何かデザイン的な刺激を持ち帰ってもらえるようなものを身につけます。例えば、僕のTシャツを見て「そんな加工もできるんですね」と発見してもらえたらすてきだなと。

3つ目は、バンドに寄り添いつつも客観性やユーザー目線を忘れないこと。バンドも自分たちを客観的に見続けることは難しいものです。メンバーやファンが歳をとり、若いファンが増える過程で発信の仕方がブレることもあります。そんな時こそ、外側の僕らがいかに俯瞰で見られるかが大事です。意向を汲む一方で時代やバンドの見え方を俯瞰してデザインやアイテムを考える。そんな、ファンにきちんと届くものづくりを意識しています。

アーティストの成長に関われる嬉しさがあるから毎日がんばれる


Q.このお仕事の魅力や醍醐味は?

デザイナーやグッズのクリエイティブディレクターの立場でバンドと一緒に歩み、夢を見させてもらえること。彼らの成長過程に僕らが少しでも関われていると思うと嬉しくて、毎日がんばれます。大きなホールの物販に列ができ、ファンが僕らが制作したTシャツを着て盛り上がる光景、アンコールでメンバーがTシャツを着て出る瞬間なんてたまらないですよ。

いまは制作できるアイテムも増え、アーティストのアイデンティティをトータルで示せるようになりました。近年関わっているMrs. Green Appleもそうですが、個別アイテムというよりはプロダクト一括でというご要望が増えています。ですからデザイナーもメンバーとのコミュニケーションは不可欠です。ライブで作品を体感し、それをデザインやプロダクトへと落とし込む。その過程には、彼らのアイデンティティがきちんと伝わるアイキャッチ的な要素を見つけ、展開させる力量も必要です。またメンバーの思いとプロダクションの意向がぶつかれば解決策を提示し、三方良しの結果に納める対応もします。苦悩もありますが、ここまでバンドに深く関われる仕事は貴重だと思います。

Mrs. Green AppleのバンドTシャツ

Mrs. Green AppleのバンドTシャツ

Q.御社のスタッフは、各案件にどのような形で関わるのでしょう?

デザイナーは、マーチャンダイザーと一緒にバンドメンバーとの打ち合わせから参加し、その場の空気感やメンバーから伝わってくるニュアンスを感じるとことから始まります。そこからモチーフを起こしたり、プロダクトにデザインを落とし込んで提案をしていきます。

そのほかのスタッフもみんな「少しでも音楽業界に携わる仕事がしたい!」という思いが強く、具体的にこの仕事というよりは、ものづくりの世界に興味があって門を叩いてきます。そのスタッフに合ったパスを送ることで、“好きこそナントカ”でそれぞれがチカラを発揮してくれています。パスを出す前にそのスタッフのストロングポイントをいち早く見抜くことが僕の役割だと思っています。

Q.思い出深いお仕事やバンドを教えてください。

どれも2つとして同じ仕事はないので迷いますが、強いて言えば2013年に開催されたスピッツさんの横浜サンセットですかね。約16年ぶりの単独野外ライブとあって、かなりプレミアムなこのイベントのグッズ全般をデザインから製作まで任せていただくことになり、さすがにプレッシャーを感じたのを今でもはっきりと覚えています。当日はほとんどの商品が開演前に売り切れとなり、安堵と同時に達成感と感謝の気持ちでいっぱいでした。あとは思いっきりスピッツさんのライブを堪能させてもらいました。ほんと偉大な存在です。

さまざまな現場を体験することで、よりリアルにデザインに落としこめる


Q.楽日のビジョンと今後について

2つあります。まずはフリーマガジン「LUCKAND」を広く知っていただくこと。いまこうしてものづくりができるのは、支えてくださる工場や職人さんのおかげです。でも、イベント産業が拡大した際に大量に安く作れる海外発注が増え、国内の工場がたくさん倒産しました。今は安く早くになって国内製造に切り変わってきましたが、価格は据え置きなので工場側も厳しい状況です。この状況を打開するには、職人さんの確かな技術とパソコンやスマートフォンを巧みに扱うスピード感を持つ若い世代が必要です。

そこで、学生さんに視野を広げてもらうため、表立って見えないけどクリエイティビティに富んだものづくりを行う工場があること、エンタメに触れる術は東京だけでなく身近な場所にもあると「LUCKAND」で伝えようと決め、専門学校や美大を中心に配布を始めたのです。20年に渡るものづくり人生の恩返しを、全国の工場や業界全体の活性化によって実現できれば嬉しいのですが。

LUCK AND

LUCKAND

もうひとつはTシャツ展の全国展開です。邦楽バンドTシャツのデザインに込められた思いをごく一般の人々に今後どう伝えるべきか、長い間考えてきました。10周年イベントの「BAND T-shirts Museum」ではLP型パッケージのTシャツをレコードラックに入れ、かつてのジャケ買いの楽しさ、自分がインスピレーションで選んだアートワークからバンドを知り、楽曲を聴くという、新たな価値観を提唱する仕掛けを考えました。ありがたいことに先月の大阪編では、述べ5000人近くの来場者が会場に足を運んでくれて、ふだん接する機会のないお客さんたちのたくさんの笑顔見ることができたので、またほかの土地でも開催できればと思っています。

BAND T-shirts Museum

BAND T-shirts Museum

Q.このお仕事を別の言葉で表すとしたら?

コミュニケーションデザインでしょうか。基本はアーティストとグッズ制作者の関係ですが、僕はそこにさらに新しい価値観を提供したいんです。そのハブになるのが、弊社のギャラリーカフェとフリーペーパー「LUCKAND」です。例えば、バンド紹介の記事ならヴォーカルとジャケットを描いたイラストレーターの対談を設け、記事にし、さらに展示も行う。そうすれば、対談から新たなビジョンにつながる可能性もありますよね。そんなインプットやアウトプットができる機会や場の提供も、重要なコミュニケーションデザインだと思っています。

アーティストのプロダクト制作はおもしろい仕事です。ただ、表面的なグラフィックデザインはできてもグッズなどのデザインまでできるデザイナーは少ない状況です。弊社のいちばんの強みは、工場でものの構造やコストとデザインの関係を学び、実際のグッズへと還元できるところです。生産背景を知り、工場を見学し、打ち合わせに参加し、ライブを見る。各現場を体験することで、よりリアルにデザインを感じられるでしょう。知識量が仕上がりに明らかに出る世界ですから、よりストイックにデザインの追求もできます。机上だけに終わらないデザイナーとして、プロダクトデザインの奥深さを楽しめる場ではないでしょうか。

PROFILE
株式会社 楽日
2007年設立。音楽アーティストにまつわるアートワークやグッズ企画、およびデザイン制作から商品の製作まで、トータルディレクションを行う。ワンストップのモノづくりで、クライアントやユーザーに満足のいくモノを生み出している。
http://www.lucka.jp/

加藤晴久 代表取締役

2007年4月、株式会社楽日(ラッカ)を設立する。数多くのアーティストのプロダクト・ディレクションを行う。2011年、かねてからの目標であった、カフェとギャラリーの複合店を奥原宿にオープンさせる。2016年12月、自身が編集長を務めるモノづくり媒体、共創メディア「LUCKAND」の発行に伴い、「LUCKAND-Gallery Cafe&Bar-」の名義で店をリニューアルし、未来のクリエイターたちの交流の場所として発信をはじめる。現在もなお代表という仕事の傍ら、自らクライアントと打ち合わせをし、企画・ディレクションと第一線でアーティストグッズ制作に携わっている。

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