エイトブランディングデザイン
タイトルロゴ:かねこあみ 編集:堀合俊博(JDN)

公開日:2020/07/29

働き方インタビュー

【HOW WE WORK REMOTELY vol.7】エイトブランディングデザイン

エイトブランディングデザイン

西澤明洋 ブランディングデザイナー

コワーキングスペースやシェアオフィスの普及、時差出勤・フレックス制度といった働く時間の変化、さらには働き方改革による副業の解禁など、ここ数年、さまざまな働き方についての議論が進んできました。そんな中、COVID-19の感染拡大という状況を受けた急速なリモートワークへの切り替えが進む2020年は、これからの働き方について考えていく大きな区切りとなる年になりそうです。

多様化が進む働き方のひとつの選択肢として、今後の「リモートワーク」のあり方について考える「HOW WE WORK REMOTELY」。これまで、グラフィックや映像、インテリア、空間デザイン、Webなど、さまざまな領域のデザインやクリエイションに関わる企業にお話をお聞きしてきましたが、本連載最後となる今回は、「ブランディングデザインで日本を元気にする」をコンセプトに掲げるエイトブランディングデザインの実践例をご紹介します。

クラフトビールの「COEDO」や料理道具屋の「釜浅商店」、さらには福岡県博多の「警固神社」や農業機械を展開する「OREC」など、幅広い領域のブランディングデザインを手がける同社代表の西澤明洋さんに、自粛期間中の働き方やアフターコロナについての考え方などをお聞きしました。

Q.リモートワークは実践していますか?

5月から、プロジェクトの主担当のメンバーは青山オフィスに出勤して、それ以外はリモートでの勤務に切り替えて実施しています。

ブランディングデザインの仕事をする上で、デジタルで進めることができる作業は実は少なくて、ほとんどはリアルな場で確認するんですよね。パッケージやプロダクト、サインなどの空間の仕事も、基本的には原寸確認してデザインを進めていき、最終的な判断も実際に見て決めなくてはいけないので、オンラインではできないんです。

うちの場合は担当している案件ごとに、主担当であるブランディングデザイナーと、それをサポートするデザイナーのメンバーが付くのですが、最終的な判断をする主担当はオフィスで仕事をして、デザインの案出しや検証作業などの業務を担当するメンバーに関しては、オンラインでも進めることができるかもしれないと、ものは試しで今回実践してみた感じです。

ただ、いまの状況によってやらざるを得ないだけなので、そんなに積極的にリモートワークを実践したいと思っていたわけではないですね。状況がどんどん大変なことになってきたのを受けて、5月からはこういった体制で業務に臨んでいますが、7月に入った現在は徐々に元の体制に戻しつつあります。

クラフトビール「COEDO」のブランディングデザイン。「Beer Beautiful」をコンセプトに掲げ、ロゴやパッケージ、WEBなど幅広く担当。

クラフトビール「COEDO」のブランディングデザイン。「Beer Beautiful」をコンセプトに掲げ、ロゴやパッケージ、WEBなど幅広く担当。

Q.リモートワークのメリットは何だと思いますか?

僕たちの場合は、だいたい半分くらいのお客様が地方の方なので、打ち合わせがリモートでもできることがわかったのはメリットですね。お客様も、今回の期間でそのことは実感されたと思います。これまでは、打ち合わせのたびに出張していたのですが、今後はお互い効率を優先するためにも、継続的にオンラインでの打ち合わせは実施していくと思います。

今回Zoomでスムーズに仕事ができた事例は、ブランドの発表はすでにしていて、ブランド開発の2、3週目に入られたお客様です。ブランディングのコンセプトや戦略方針が固まってしまっていれば、次に何をするのかについての打ち合わせはZoomでも支障もないですし、逆に今後の打ち合わせもZoomで問題ないと思います。

福岡天神に鎮座する「警固神社」のブランディングデザイン。400年ぶりの変更となった社紋は「警め固(まも)る神」を表す「固」という漢字に由来したデザインとなっている。

福岡天神に鎮座する「警固神社」のブランディングデザイン。400年ぶりの変更となった社紋は「警め固(まも)る神」を表す「固」という漢字に由来したデザインとなっている。

このコロナで大変な状況でも、業種によっては元気なお客様もいらっしゃいますので、この期間で新規のご相談もたくさんいただきました。中には、いまこそ仕掛けていくべきだという方もいらっしゃって、Zoomで面談をしたりはしていましたが、どうしても会いたいというお客様とは直接お会いしています。ブランディングは社運をかけてやることなので、きちんとお互いに安全対策をとった上で、そういった思いには答えて仕事をしています。

Q.逆に、リモートワークのデメリットは何だと思いますか?

ブランディングデザインの仕事は、お客様の声を丁寧に聞きながら信頼関係を築くことが大事なので、ブランドを立ち上げるまでのはじめの1年くらいは、なるべくお客様と直接会うべきだと思います。一緒にやっていく中で肌感がわかってくるものなので、やっぱりオンラインだけでは信頼関係を築くまでにはいたらない気がしています。

ブランディングは、かなりの大人数が関わりながら進めていくため、みんなで考えてみんなで決めていく局面が多々あります。ブランディングにおけるデザインは、こちらがプレゼンテーションをして選んでいただくといったものではなく、ワークショップなども実施しながら、お客様の意見を取り入れてデザイン開発していきます。いいアイデアだということだけじゃなくて、そのアイデアに対して誰がどういった想いを巡らせているのかが大切です。そういった人間的なケアが必要なので、会った方が伝わるものが多いですし、仕事が進むのも早いと思います。

ヤマサ醤油「まる生ぽん酢」のブランディングデザイン。「素材が生きる、まるごと生」をコンセプトに、「ひとつ上のスタンダード」という価値観を提示した。

ヤマサ醤油「まる生ぽん酢」のブランディングデザイン。「素材が生きる、まるごと生」をコンセプトに、「ひとつ上のスタンダード」という価値観を提示した。

社内の仕事に関しては、同じ空間で作業や進捗を見ているわけではないので、以前ほどスムーズにはいかない部分はありますが、リモートと本部で業務を分けることで、タスクをはっきりさせて仕事を進められていると思います。リモートチームの進捗管理などは特にしていませんが、僕らは成果物がはっきりしている業種なので、それぞれが自主的に取り組んで進めていますね。

実は、1年半くらい前から社内でチームビルディングのためのワークショップをやっていて、それを経た上で今回のリモート体制に突入したので、やっててよかったなあと心底思っています。チームビルディングでは、会社の全体像をとらえる訓練や、部分的な仕事の仕方ではなくて、ちゃんと経営視点を持った全体としての働き方といった再教育からはじめて、ワークショップ形式でうちの会社のリブランディングをみんなで考えるということをやっていました。

現在のようなリモートワークの環境で、「これだけやっといて」といった部分的な仕事の振り方だけだと、仕事へのコミット感が薄れてしまうと思うんですよね。うちも完璧とはいえませんが、会社全体の流れがレクチャー済みだったので、なぜうちがこういった状況でリモートでの分業体制をとっているのかを説明した上で、それぞれが理解して臨んでいるので、あまり心配や不安はなかったですね。

Q.リモートワークのために使用しているツールや、おすすめのものを教えてください。

社員同士のコミュニケーションは「LINE WORKS」を使用しています。以前は「Slack」を使っていましたが、既読が分かりにくいということがあって、いまはこちらを使っています。

時系列で仕事を見ていくには「Chatwork」や「Trello」を使っていますが、何か特定のツールを使っているというわけではなくて、常に新しいものを見つけたら実際に使ってみて、試行錯誤しながらやっています。

あと、大きなモニターを使ってZoomの打ち合わせをしているんですが、物理的に大きなモニターとネットの回線がよければ、リアルの打ち合わせと感覚的に変わらないですね。モニターが大きい、音声がクリアで聞き取りやすいのはとても大事です。そういった小さなことでコミュニケーションの質が上がるので、リモートでも打ち合わせはかなりスムーズになると思います。

また、朝の時間の30分から1時間くらいかけて、オンラインで朝礼をしています。同じ場所にいて仕事をすることのメリットは、用がなくても自然とコミュニケーションが生まれることだと思いますが、リモートワークだと何か用がないとZoomなどのミーティングもしないので、わざわざ「用をつくる」ことをしています。「最近どうしてる?」「朝は何してた?」など、スタッフにそれぞれに話を振っていって雑談をしています。

朝礼は、リモート体制を導入すると同時にはじめました。僕らは先駆けてリモートに取り組んだわけではなかったので、先行事例としてネットの記事などを読みながら、起こりそうなことをシミュレーションしながら取り組みました。

Q.リモートワークを通して気付いたことや、感じたことを聞かせてください。

今後は常時リモート体制を続けていくとは考えていませんが、多拠点での仕事の仕方は、可能性としてあるなと思っています。やっぱり家でずっと働くのはスタッフの負荷も多いですし、働く場所をいくつか持って、環境を変えて仕事をするのはおもしろいなと。コロナの前から、千葉のいすみや徳島の神山などに視察に行ったり、空き家を物色していたのですが、ネットインフラさえ整えば実現はそんなに難しくないと感じています。あとはいい物件に出会えるか次第ですね。

東京のど真ん中だけじゃなくて、自然に囲まれた場所をもうひとつ持つことで、そこで作業に集中した後にゆったりできる日があったり、そういった働き方が選べるようになるといいなと思います。今回オンラインでも進められる仕事が何かがわかったので、たとえば今後仕事のペースを落とした働き方を選択できる可能性など、そういった実験ができてよかったなと思っています。

Q.最後に、リモートワークを実践している方に、メッセージやアドバイスがあればお聞かせください。

いまアフターコロナについてさまざまなことが議論されていますが、僕の結論ははっきりしていて、アフターコロナだからといって何も変わらないと思っています。コロナ以前からやってみようと準備していたことが、この期間に加速度的に広まっただけだと考えています。

オンラインでの働き方も、うまくいっていた会社はもともとオンライン環境を整えていたところで、僕らのお客さんの中でもこの期間にEC事業がすごく伸びた方がいらっしゃいますが、それは単純に以前から準備が整っていたからで。この期間を経たからこそ何かが変わるというわけではなく、コロナが時計の針を少し早めたという感じがしています。変わるべくものが、環境的に後押しされたにすぎないなぁと。

だからこそ、平常時から新しいことにトライし続けないといけないと思います。小さなことでも、変わるための要素をトライし続けているということがとても必要ですね。何かあったときに反射神経だけでやっていても意味がないですし、有事の際に変わろうと思っても変われないので、普段からその準備をしてる人にしか、チャンスは巡ってこないと思います。

また、今後の働き方に関しても、必ずしもリモートワークありきで考えなくてもいいと思います。そもそも会社はそういう目的であるわけではないので。僕らの場合だと、「いいデザインをつくること」を目的に集まっているので、デザインを生み出せる最適の環境を、その時々に応じて柔軟に考えていきたいと思っています。こういった大変な状況だからこそ、目的を見失わずに、原点に立ち返ることが大事かなと思います。手段や環境は柔軟に変えていけばいいので、会社の本来の目的に合致したバランスの取り方ができればいいんじゃないかなと考えています。

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PROFILE
エイトブランディングデザイン
「ブランディングデザインで日本を元気にする」をコンセプトに、あらゆる商品やサービス、企業などのブランディングを手がける。ただ良いものを作るだけでなく、「良いということを正しく伝える」ことで、多くの人に手に取ってもらえる状況をつくり出している。 https://www.8brandingdesign.com/

西澤明洋 ブランディングデザイナー

1976年滋賀県生まれ。株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。「フォーカスRPCD®」という独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。