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INTERVIEW
構成・文:開洋美 撮影:木澤淳一郎
公開日:2016/12/20

いろいろなカルチャーのおかげでここにいる。今度は返していきたい

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金田遼平 グラフィックデザイナー

1993年に京都で設立したデザイン集団「GROOVISIONS(グルーヴィジョンズ)」。代表作であるキャラクターの「chappie(チャッピー)」をご存知の方も多いだろう。現在グルーヴィジョンズに入社して4年、グラフィックデザイナーとして第一線で活躍する金田遼平さんに、デザイナーとしての仕事の魅力ややりがい、今後などについてうかがった。
Q.金田さんのお仕事について教えてください

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グルーヴィジョンズに入社してから2月で丸4年になります。仕事内容は、広告や書籍、音楽、ブランディング、パッケージ、展覧会、空間など、グラフィックデザイン全般の制作です。スタッフ1人あたり常時7~8案件くらいの仕事を担当していて、現在僕が進めているのは10案件くらい。マイペースなスタッフが多く、和気あいあいというよりは、みんな集中して粛々と個々の仕事を進めている感じです。

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金田さんの名刺。グルーヴィジョンズが生み出した、「chappie」のグラフィックシステムを使っている

自分にはこのマイペースな環境が合っているようで、当初からとても過ごしやすかったのを覚えています。入社後1週間しか経っていないのに、「なんだかもうずっといる人みたいだね」とか言われていました(笑)。似たような人たちが集まっているのかもしれないですね。年明けの1月6日から青山のスパイラルガーデンでグルーヴィジョンズの展覧会があるので、最近はそれに向けた準備などでみんなと作業することも多くなりました。

Q.グルーヴィジョンズで手がけた印象的な仕事

最近のものでは、2016年の1月30日から4月3日まで横浜美術館で開催された村上隆さんの展覧会、「村上隆のスーパーフラット・コレクション」の展覧会カタログデザインを、装丁から中身まで含めて担当させていただきました。最初にデザインにとりかかってから紆余曲折を経て発売まで約1年かかってしまい、今年の9月末に満を持して発売されました。このカタログには展覧会で展示された村上さんが所有する1,300点以上のコレクションを古今東西問わず、ほぼ全てを載せています。当初はもっと薄く、いわゆる普通の展覧会図録になる予定だったのですが、制作が進むにつれてどんどん膨れ上がっていき、最終的にこのボリュームになりました。

金色の紙に、金の箔押し加工を施した表紙

金色の紙に、金の箔押し加工を施した表紙

約450ページのボリュームは圧巻。©2016 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

約450ページのボリュームは圧巻。©2016 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

金塊のイメージで、表紙は金色の紙に金で箔押ししています。この艶のある金の紙は傷がつきやすいため製本・造本上のトラブルを何度も引き起こし、デザイン完成後も様々な問題が勃発してしまいまして…。さらには発売開始後も、増産時に非常にデリケートな作業が必要となり、なかなか沢山生産できず。印刷の色味にもこだわり抜いたため、色校正も全部で5回ほど。かかった手間もありますが、仕事の規模・コスト、時代的にも、こんなに膨大なものは今後二度とできないのでは……と思えるほど、個人的に特別な仕事になりました。

ほかに近年手がけたものでは、2014年の4月に放映された『ピンポン THE ANIMATION』のデザインがあります。この時は、まずロゴからつくっていきました。松本大洋さんの漫画が原作で、もともとのロゴが非常にインパクトがあり作品の象徴的なものだったため、あえてそれを変える必要があるのかという話も出ましたが、今、現代に新しくアニメーションをつくるためにはやはり新しいロゴが必要だろうということに。『ピンポン』は誰もが知っている名作漫画で、さらに映画版の人気も非常に高い作品なので、従来のファンの方々にも受け入れられつつ、かつ新しさも失わないようにと考えたのがこのロゴです。

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©松本大洋/小学館 ©松本大洋・小学館/アニメ「ピンポン」製作委員会

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ロゴのほかにも、本編ディスク5枚とメイキングブック2冊、特典Tシャツなどがセットになったコンプリートボックスなどのデザインも担当させていただきました。このボックスのパッケージは松本大洋さんの描き下ろしです。箱の外側は登場人物の子供時代で、開けた時に内箱が大人になっていたらおもしろいんじゃないかと提案したところ、快く描いてくださいました。これはグルーヴィジョンズに入社して半年くらいのときの案件で、僕自身が原作のファンだったこともあり、とても印象深い仕事です。

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友達に頼まれてはじまった、グラフィックデザインの仕事

Q.今の会社に入る前はどんなことをしていましたか?

大学卒業後に1年間ロンドンに留学し、帰国後は1年半ほどアパレルの仕事をしていました。大学時代は法政大学のデザイン工学部でコンセプト中心のプロダクトデザインの勉強をしていたので、グラフィックデザインのことはまったくやっていませんでした。しかし、友達と音楽イベントを始めるようになった頃からカルチャーやクリエイティブ周りの友達が増えてきて、「デザイン学部?じゃあこのデザインできる?」「できるできる!」と、やったことがないのに即答(笑)。そこからイベントのフライヤーやTシャツなどのデザインをするようになっていきました。イラストレーターやフォトショップはその時に作りながら独学で覚えていったのですが、それが仕事としてグラフィックデザインを意識し始めたきっかけでしょうか。法政大学卒業後はロンドンの大学に作品と願書を送り、お金をためて、1年間留学しました。ロンドンを選んだ理由は、「Warp Records(ワープ・レコーズ)」というイギリスのレコードレーベルが好きだったから(笑)。勉強もしていましたが、時間をみつけてだいたいいつもフェスや音楽イベントに行っていましたね。

Q.1年間のロンドン留学で学んだこと

ロンドンではグラフィックデザインそのものよりも、心構えというか、制作に対するマインドみたいなものを学んだことが大きかったです。例えばある授業の課題で、とある同級生の作品は贔屓目に見てもとてもいいものとは言えなかったのですが、本人はめちゃくちゃ自信をもっていて、嬉しそうに細部の説明してくるんですね。自分のつくったものに対して心底誇りや責任をもっている感じがありありと伝わってくるんです。不安なんて一切ないような。こういう姿勢は僕自身にも足りていないし、日本的な感覚や学習では、なかなか身につかないものだなと痛感しました。

帰国後は知り合いのファッションデザイナーに誘ってもらい、1年半ほどアパレルブランドでグラフィックの仕事をやっていました。おもしろい仕事でしたが、徐々に自分がやりたいのはもっと幅広いものづくりだと考えるようになり、ちょうど求人を出していたグルーヴィジョンズに応募しました。音楽関連のグラフィックデザインも多く手がけていたりと、学生の頃からファンだった会社なので、入社が決まったときはうれしかったですね。

知らなかった世界や人に関われる仕事

Q.この仕事の魅力ややりがい

知らない世界や新しいことにふれるのが好きなので、時間ができると一人でふらっと海外や国内の離島などへ旅に出ることが多いです。デザインという仕事も、いろいろな人や世界に関わって思いもよらないことを知ったり、そこに踏み込んで一緒に仕事ができるのはすごく魅力的です。国の機関や海外の案件、珍しい業種など、普通に生活していたら自分と交わらないことや、出会えないような人とも関わっていける仕事だと思っています。

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好きなものだけではなく、まったく知らないことに飛び込むきっかけもたくさんあります。たとえば、僕は小学生から高校までずっと野球をやってきたので野球のことはよくわかるんですが、ほかのスポーツのことは全然わからない、というよりなかなか興味が持てない(笑)。しかし、最近あるフットサルブランドのリニューアルに携わり、フットサルのことを調べたり試合を観に行ったりするうちに、食わず嫌いにすぎなかったことを知りました。この仕事を始めてから、今まで触れ合わなかったものでもしっかり勉強してみると新たな魅力に気づく、ということが増えました。

Q.大変さや苦労する部分

苦労する部分はアイデア出しに尽きます。いつもプレゼンの前日ギリギリまで、怒られながらアイデアをひねり出しています(笑)。いいアイデアがポンと浮かんでくることってほとんどないので、本当に最後の最後まで考えます。アイデアをひねり出してさらに5周くらいまわった挙げ句、やっぱりいちばん最初にふっと出た案がよかったということもありますし…。『ピンポン』のロゴを考えたときは、最終的に提案したのは3案だったのですが、実際には200案くらいは考えました。あれは本当に着地点が難しく、難産だったことをよく覚えています。

導いてくれたカルチャーを、仕掛ける側にまわりたい

Q.今後手がけてみたい仕事

やったことがない仕事は全部やってみたいですが、気になっているものの一つは、スタンダードやフォーマットになるもののデザイン。たとえば、よく見るUSBの枝のようなロゴマークや、CDやSDカード、ブルーレイディスクなどのロゴマークとか。ああいうロゴって、いつのまにか当たり前のように受け入れられて世界中に浸透していたり、しかも何十年も使われていて、誰でも知っていますよね。そんな定番として残っていく存在に興味があって、いつかつくってみたいと思っています。

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あとは、やっぱり僕はいろんなカルチャーに引っ張られて今があるので、それに付随するもの、音楽や漫画、映画などの仕事はもっとやっていきたいです。恩返しではないですが、今度は自分が提供する側にまわれたらいいなと思います。その中でも、やはりいちばんは「Warp Records」の仕事(笑)。ジャケットはもちろん、ロゴやビジュアル、MV、サイトまで、アーティストのデザインをまるっと一式やってみたい。学生時代からとにかくエイフェックス・ツインやスクエアプッシャーを聴いてそこを中心に物事を選んで生きてきてしまい、その結果、たまたまこの仕事にたどりついたと思っているので…。

Q.金田さんの仕事をほかの言葉でたとえると?

「翻訳家」がいちばん近いでしょうか。言語も翻訳家の方の訳しかた次第で、意味は同じでも受ける印象がガラリと変わることがありますよね。受け手側は最後のアウトプットされたものを読んで、言葉の内容や感情を感じ取ります。夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳した逸話がありますが、非常にデザインされた言葉ですよね。デザインにも正解はありませんが、クライアントの要望や考えを汲み取り、それをどう解釈してデザインとして出力するかという経過が、翻訳制作と似ているのかなと。抽象的なものを言語化することと可視化することの違いで、やっていることはほとんど同じだなと感じています。

PROFILE
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1993年に活動を開始したデザイン・スタジオ。グラフィックやムービー制作を中心に、音楽、出版、プロダクト、インテリア、ファッション、ウェブなど多様な領域で活動する。 PIZZICATO FIVEのステージヴィジュアルなどにより注目を集める。以降、おもな活動として、FPM(Fantastic Plastic Machine)やリップスライムなどのCDパッケージやPVのアートディレクション、さまざまなブランドのVI、CIを手がける。『Metro min』誌や『ideaink』シリーズなどのエディトリアルデザイン、日テレ「NEWS ZERO」でのモーショングラフィック制作など。また、設立当初にchappieというキャラクターをデザイン。1999年にはソニーミュージック・エンタテインメイントより歌手としてCDデビューし、現在でも企業や学校のイメージキャラクターを務めたり、さまざまな分野で活動をおこなっている。 http://groovisions.com/

金田遼平 グラフィックデザイナー

1986年神奈川県小田原市生まれ。法政大学卒業後に渡英、1社を経て、2013年よりグルーヴィジョンズ所属。