Wieden+Kennedy Tokyo
取材・文:瀬尾陽(JDN) 撮影:葛西亜理沙

公開日:2017/07/14

クリエイティブなオフィス探訪

「カオス」と「コンテクスト」を重視して生まれるクリエイティブ

Wieden+Kennedy Tokyo

クリエイティブな作品はどのような場所から生まれるのか?「デザインのお仕事」で新たにスタートする「クリエイティブなオフィス探訪」。第1回目にお邪魔したのは、「Wieden+Kennedy Tokyo(ワイデン アンド ケネディ トウキョウ)」です!1982年にアメリカのオレゴン州ポートランドで、コピーライターのダン・ワイデンさんと、アート・ディレクターのデビッド・ケネディさんによって設立され、アムステルダムやデリー、ロンドン、ニューヨーク、サンパウロ、上海、東京にオフィスを構える、世界最大の独立系クリエイティブエージェンシー。NIKEをはじめ、ラフォーレ原宿、資生堂などの企業とともに、強いインパクトを残す広告を数多く製作しています。
NIKE | JUST DO IT. 2016 #MINOHODOSHIRAZU

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LAFORET HARAJUKU | GRAND BAZAAR 2017 SUMMER

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「Wieden+Kennedy Tokyo(以下、W+K)」は、2018年6月に20周年を迎えるそうです。目黒川からほど近い現在の東京オフィスは移転5年目。2016年には、メインオフィスから3分ほど離れた目黒川沿いに、ギャラリーも併設する「W + K +(ダブリュー・プラス・ケー・プラス)」もオープンしました。

早速、オフィスを紹介していきましょう!クリエイティブチームが集まる2階は、11mのデスクの両サイドに7名ずつ座れるようになっています。木製の骨格が際立つシンプルな空間を設計したのは長岡勉さん(POINT)。そこにスタッフそれぞれの個性が際立つ、愉快なデコレーションが施されています。

Wieden+Kennedy Tokyo

こちらは、同じく2Fのマネージメントチームが集まるデスクスペースです。左から、長谷川踏太さん(エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター)、マイク・ファーさん(エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター)、ジョン・ロウさん(マネージングディレクター)。いわゆる「役員室」はなく、スタッフとのコミュニケーションも円滑に図れるようになっています。

Wieden+Kennedy Tokyo

その隣には、ワークスペースとひと続きとなったミーティングスペース。テーマはなんと「おばあちゃんの部屋」。味わい深いソファが確かにおばあちゃんっぽい(笑)!

Wieden+Kennedy Tokyo

3Fでは「80年代アイドル」をテーマにした社員のポートレートコーナーがお出迎え。ブロマイドで有名な、浅草のマルベル堂で撮影したそうです。各々が衣装を用意して撮影に望んだ、この気合の入れようたるや……さすがです!

Wieden+Kennedy Tokyo

中目黒駅から徒歩5分もかからない好立地、別館にあたる「W + K +」の内装デザインを手がけたのは、若松義秀さんと石川元気さん(ともにSLOPE)。

Wieden+Kennedy Tokyo

1階はギャラリースペース「W + K + Gallery(ダブリュー・ケー・ギャラリー)」、不定期で展示やイベントなどが開催されるので、最新のスケジュール「W + K + Gallery」のFacebookをチェックしてみてください!

Wieden+Kennedy Tokyo

2階はNIKEチームのスペース。目黒川を眼下に望むガラス張りのミーティングスペースが印象的です。

Wieden+Kennedy Tokyo

話題を集めた広告は数多くあれど、少々謎めいたところのあるW+K。“世界最大の独立系クリエイティブエージェンシー”というだけあって、どこの会社とも似てないことがその理由のひとつなのかも知れません。では、W+Kは一体どんな会社で、どんなことを目指していているのか?改めて、マイク・ファーさんと長谷川踏太さんにお話をうかがってみたいと思います。

W+Kのユニークさ、それは「カオス」と「コンテクスト」の重視


長谷川踏太さん

長谷川踏太さん

長谷川踏太さん(以下、長谷川):クリエイティブの人たちが、自分のキャリアの中で1番いい仕事のできる場所をつくりましょう、というのが創業者のワイデンとケネディの考え方です。会社自体を大きくすることが目標ではなくて、本当にいい仕事をできて、クリエイティブの人たちが満足できる環境をつくること、それが大事だと思っています。

マイク・ファーさん(以下、ファー):W+Kのおもしろいところは、西洋の頭脳と日本の頭脳がミックスされているところだと思っています。チームをつくるときは、なるべく日本の観点と西洋の観点を混ぜるように心がけていて、3人のチームがあるとしたら、日本人のアートディレクター、日本人のコピーライターを入れて、もう1人は欧米から来ているコピーライターを入れる、というようなことをしています。

私たちは「カオス(混沌)」というものを非常に重視しています。言葉が違う人たちが集まることによって、新しいアイデアに繋がるということを求めています。それは一見難しいように思えるんですけど、ひとつの言葉を間違って理解したことからはじまるアイデアもあります。だからこそおもしろい。そういうところから、クリエイティブシンキングが生まれてくると信じています。

とはいえ、私たちが世に出していくクリエイティブの最終作品は、ほとんど日本国内で発信されるものなので、日本の人たちの感じ方にきちんと合っているということ、きちんと心に触れるものであること、それがもちろん重要なことです。その文化の中での「コンテクスト(文脈)」にそって考えなければいけないと思っています。

マイク・ファーさん

マイク・ファーさん

長谷川:人種とか性別とか、いろんなもののミックスがあると思うんですけど、日本では特に日本人だけで固まりがちです。でも、日本人の中でもいろいろな個性を持っている人がいますよね?そういう意味では、ミックスすること自体にすごく気を使っているわけではなく、カルチャーに合う人を採用していくと「結果的に混沌としてくる」っていうのが近いですかね。

クリエイティブを生み出すためのフラットな土壌


ファー:なるべく上下関係をなくすことには注力しています。上の人にちょっとものを言う時に怖いって意識があると、なかなか自由に意見が言えないっていうことがありますよね。だから、なるべくフラットな組織というのを心がけています。こういう組織の中でそういうことを続けていくのは難しいんですけど。

長谷川:1番わかりやすいのは仕切りがないことですね。マネージメントチームの部屋とか、小さい小部屋や仕切りをつくらないようにして、みんなが何をやっているのかが見えるように、オープンなつくりにしています。六本木に事務所があった頃は、営業チームとクリエイティブチームで階が分かれて、お互い何をやっているのかわからないから、チームワークがうまくいかないことがありました。いまのように見通せていると、お互いの忙しさや大変さがよくわかるじゃないですか?そこで気遣いが生まれますよね。

Wieden+Kennedy Tokyo

ファー:社内には非常に有能なクリエイティブに関わるスタッフを集めてはいますけど、理想形としては誰しもがクリエイティブの作品に関われるようにしていきたいと思っています。コアになっているデザイナーだけがクリエイティブをつくっているのではなくて、営業スタッフやプランナーも同じように、クリエイティブに対して意見を言えたり、考えていけるようにしたい。そういうことが起こっていけば、クリエイティブの仕事がはじまる前から、クリエイティブの方向にプッシュしていくことができると思うので。

私たちが手がけたクリエイティブの中で印象的なものとしては、「Re:Run」というNIKEのプロジェクトです。もともとのアイデアは営業の若い女性スタッフから出たものでした。名古屋マラソンでリタイアしてしまって完走できなかった女性3人に、再挑戦してもらうという企画ですが、非常にエモーショナルなものができました。

Re: RUN

インターネット上で数千人もの一般女性に再チャレンジを呼びかけ、たくさんの応募者の中から3名の女性を選出。一度マラソンで失敗した女性たちの再チャレンジを追った、ドキュメンタリーフィルムシリーズ「Re: RUN」。約2ヶ月間にわたるトレーニングとフルマラソン完走という経験を通し、過去にリタイアした地点を乗り越え、理想のジブンに変化していく3人のストーリーを伝えた。

長谷川:クリエイティブも営業もプランナーも、みんな自分ごととしてちゃんと考えていく。それがいいものができる土壌だと思っています。すべてを分業化してしまうと、どうしても工場で働いてるみたいになってしまう。人間らしいものづくりができる、というところを目指しています。

東京、そして中目黒という場所が持つ魅力


長谷川:最初は渋谷も候補に挙がっていて、僕は「中目黒かなあ……」となんとなく思っていました。よく当たると評判の占い師にたまたま会ったので、占ってもらったら「中目黒が絶対いい」って言われて。確信に変わったっていう(笑)。実際、すごいいい場所だなと思います。

ファー:スタッフみんな一所懸命働いてくれるので、近くに川が流れて、桜の並木があって、おいしいものがあって、というのは重要だと思っています。

長谷川:あと人が訪れやすいですしね。高層ビルの35階とかだと、気軽に遊びに来られないじゃないですか。人間らしく働けるイメージも大切で、巨大な駅やビルに人が吸い込まれていく感じはけっこうつらいですよね。

Wieden+Kennedy Tokyo

ファー:地域のクリエイティブな人たちともコラボレーションがしたいと思っているので、そういう意味ではこの環境はいいですよ。すべてのオフィスの中で1~2を争うくらいに、クリエイティブカルチャーに近いところに位置しているのが東京オフィスです。

東京に住んでいる人たちは、あまり気づいていないと思うんですけど、世界のクリエイティブの人たちからは注目されている場所で、そこで働きたいと思っている人はたくさんいます。東京という場所は気持ちさえ開いていれば、非常にクリエイティブなものが生まれやすい環境だと思います。

クリエイティビティに取り憑かれたすべての人へ


この夏、とてもW+Kらしい取り組みである「ケネディーズ」1期生の募集を開始しました。「ケネディーズ」は、W+K内の独立したチームとして活動していくもので、スケジュールや予算をともなった実際のクライアントの課題に対し、あらゆるメディアを使い、キャンペーンを構築する技術を身につけ、クライアントのために効果的なクリエイティブをチームワークで開発していくという、なんとも興味深いプログラムです!

次世代クリエイティブ増強プログラム−The Kennedys
http://kennedys.jp/

ケネディーズ

ファー:「ケネディーズ」を通して、どういうものを生み出していきたいのかというと、カルチャーの中で「コンテクスト」として意味があるもの、カルチャーに影響を及ぼすようなものをつくっていきたいんですね。

なぜカルチャーに対するインパクトを与えたいかというと、人々がそれに触れることで世の中を違う観点でみてくれると思うからです。私たちは広告代理店ではあるんですけども、 “いいこと”をしていきたいんですね。誰かの「help(助け)」になるようなものを出していきたい。

テレビを見ていても、電車で中吊り広告を見ていても、InstagramなどSNSでも押し付けがましい広告が溢れています。広告というものが見ていてイラつくものになってしまうと、ブランドにとっては悪いことばかりです。エンターテイニングであったり、何かを得られるようなものであったり、刺激的なものがいいと思っています。そういうものをつくることによって、そのブランドを好きになってもらいたいんです。

ただ、状況は非常に悪くなっていて、例えば18~20歳くらいの非常に優秀なデザイナー、プランナーがいたとしても、世の中にそういった酷い広告ばかりが満ちていたら、広告には夢を抱いてもらえなくなる。才能がある人がどんどん別のジャンルに流れていってしまう。そういう危機感から「ケネディーズ」をはじめることにしました。才能のある若いクリエイティブの人たちに、どんどん花を開いていってもらえるような環境を提供していきたいと思っています。

長谷川:「ケネディーズ」は学校ではなく実践する場所です。なにかスキルを持っていたり、アイデアを持っている人たちが、個別だとやれることの限界があったりとか、なにかしらの理由でそれを活かせてなかったりしますよね。それをちゃんと実践できるチームをつくっていきたいんですね。実際に仕事することで、自分がこういうカタチで機能できるんだと自信を持ってもらい、この世界で生きていく覚悟ができたらいいのかな。「ケネディーズ」が終わった後、自分でビジネスをはじめるでもいいし、大きな会社でもっと自分の実力を試したいでもいいんですよ。

若いうちにいきなりフリーでやっていくのって大変だし、それでとりあえず会社入ってみたもののなにか違うな…って辞めたりすることも多いと思うんです。自分の才能を実現する手前で、いろんな制約で諦めちゃってることがいっぱいあるから、なるべくその無駄をなくせればいいなと思っています。

ファー:アベンジャーズみたいに、違ったスキルの人たちが集まってくるのが理想ですね(笑)!

Wieden+Kennedy Tokyo

熱い……。率直に言って「熱い」と感じました。長年にわたってインパクトを与える広告をつくってきたからこそ、自分たちのカルチャーへの愛と自負心、そして次世代につなごうという強い意思が伝わってきました!我こそはと思う方は、ぜひ「ケネディーズ」へ応募してみてはいかがでしょうか?

Wieden+Kennedy Tokyo

Wieden+Kennedy Tokyo
http://wktokyo.jp/

PROFILE
Wieden+Kennedy Tokyo
オレゴン州ポートランドの本社のほか、アムステルダムやデリー、ロンドン、ニューヨーク、サンパウロ、上海、東京にオフィスを構える、世界唯一の独立系クリエイティブエージェンシー。