公開日:2018/12/03
株式会社デザインフィルによる、「計画する人、主催する人、構想する人」を表すステーショナリーブランド「PLOTTER」。さまざまな素材や技術を用い、クリエイター、コンセプター、起業家、経営者、研究者、職人など、あらゆるクリエイティブワークを愉しむ人のためのツールを展開。発想をカタチにし、新しい世界を創り上げていくための道具を提案している。
太刀川英輔さん(以下、太刀川):システム手帳ってすごくダウントレンドになっているんです。いまは記録のツールという意味ではスマホに絶対勝てないので。そのスマホに勝てないというなかで、別にノート市場の売上は下がっているわけではない、思考のツールとしてのノートを追っていくと、勝機がまだあるんじゃないかなということを話し合いました。あとは、僕らもモノものをつくる人たちなので、自分たちがちゃんと使いたいモノをつくれれば、おもしろいんじゃないかということから、プロットする人、計画する人、考える人など、そういう名前がいいのではないかということで「PLOTTER」になりました。
――なにか起点となるようなアイテムはありますか?
中家寿之さん(以下、中家):「リフィルメモパッド」ですね。そもそもリフィル自体は、いろいろスケジュールとか方眼紙とかをシステム手帳に付け替えて使用するものですけど、そのリフィルそのものがすでに製本されたメモパッドをつくりました。先ほどシステム手帳はダウントレンドという話がありましたが、ノートを使う人はいまだにずっといるので、リフィルがノートのように使ってもらえて、それがかっこいいモノとして見られたら、システム手帳の入り口をつくれるんじゃないかと考えました。
太刀川:要するにシステム手帳売り場から出たかったんです。出るための戦略商品をいくつもつくりました。システム手帳売り場にみんな寄り付かなくなってしまっているけれど、ノートの売り場は広がっているっていう矛盾があって、そこの間をつなげる商品にしたいと思いました。
中家:そもそも、デザインフィルさんはリフィルの紙自体にすごくこだわられていました。どれだけ染み込まずに綺麗に書けるかとか、いかに裏写りしないかとか。あとは大きなメモパッドをつくれる天のりの技術もあったので、そういった要素をいろいろと組み合わせながらブレストしていくうちに、リフィルが閉じれるんじゃないか?ということに気付いたのがきっかけでしたね。
やっぱり基本的なスケジュールではグーグルとかのほうが便利なので、紙上に書く道具として最適化してやりきるかっていうことがはっきりしました。この「リフィルメモパッド」は、プロットするときに必要そうな要素を全部詰め込んで限界まで挑戦するのがミッションだったので、たくさん盛り込みつつ、かつタイポグラフィックをきれいに整えるということが明確にみえてたので、デザイナーとしてはすごく走りやすいというか、クオリティのジャッジがしやすかったです。
正直、手帳に書くという習慣がなくなっていたので、まずは書くというところから見出していくというか。手帳というツールを追求し続けてる人もたくさんいるので、そのなかでちゃんと勝てる仕事をしなくてはいけないので、かなりハードルが高いなあ……と思いながら一生懸命勉強しました(笑)。
アディトさん(以下、アディト)PLOTTERもそうなんですけど、NOSIGNERってプロジェクトの内容がバラバラというか幅広いので、新しいプロジェクトがはじまったら勉強することが多いです。僕はPLOTTERには途中からの参加で、パッケージデザインをはじめ新商品の開発に関わっていますが改めて勉強することが多かった。でもそれが楽しいです。
太刀川:みんな本当に勉強熱心なんです。僕も基本ずっと勉強しているんですけど、学びながらつくることが好きかどうかが、ひとつの分水嶺にはなると思います。その分野でずっとやってきた人たちをうならせるのは一筋縄ではいかないけど、その玄人筋が喜んでくれるものがつくれたことはやっぱり超嬉しい。
中家:デザインフィルさんのチームもすごい素敵な方たちで、とてもいいチームが一緒につくれていると思います。最初はダウントレンドのシステム手帳を変えていこうというところからスタートしたんですけど、いまは思考のツールとして世の中に新しい発信をしていこうという風に変わってきました。
太刀川:先方のチームの在り方と、こっちのチームの在り方がけっこう理想的で。今回はスモールチームとオープンイノベーションのお手本みたいな事例でしたね。デザインフィルとNOSIGNERとでデザインチームをつくってるという感覚に極めて近いんですよね。フォーマルには月1〜2回ぐらいミーティングを重ねて、それ以外にカジュアルにグループメッセージをやり取りして、「こんなおもしろいこと発見したよ」みたいなことが常にチーム全体で共有されていました。デザインフィルさんにとっても、外のデザイナーとがっぷり四つでやることははじめだったのに、そういう在り方を先方がつくってくれていたので感謝ですね。
PLOTTER
https://www.plotter-japan.com/
東京都が都内各家庭に配布、750万部発行した防災ブック。警告色である黄色と黒のストライプをキーアーイコンに用いて、もしものときにも見つけやすいデザインとなっているほか、災害を疑似体験するようなマンガや、対処方法をわかりやすく図示したイラストなどを使用し、防災意識の低い人の関心を高める編集がされている。
太刀川:東日本大震災発生から40時間後に開設された、災害時に有効な知識を集めて共有するwikiサイト「OLIVE」、その延長線上から発展した防災セット「THE SECOND AID」が、ある意味「東京防災」の礎になっていると思います。中家と一緒に取り組んだ最初のプロジェクトですね。
中家:自分たちの生活を助ける知識を集めた「OLIVE」はすごくいいプロジェクトだなと思っていました。僕がNOSIGNERに入った経緯がちょっと特殊というか、逆にウチらしくもあるのかな。僕の大学の卒業制作展で、太刀川がトークイベントに登壇することになっていて、しかもそのタイミングで「グラフィックデザイナー募集中」みたいなことをTwitterでつぶやいているのをみて、「僕はどうですか?」という感じで売り込んで入社することになりました(笑)。
小松大知さん(以下、小松):僕も入社のきっかけが「THE SECOND AID」なんです。学生の頃にNOSIGNERにインターンできていて、ちょうど「THE SECOND AID」がプロジェクトとしてはじまったというか、構想みたいなものが練っている頃で、その時の原案みたいなものを一緒に考えることに参加しました。僕は東北出身で、大学も東北の美大に通っていたこともあり、デザインを通じたソーシャルな活動に興味がありました。
太刀川:その時はまだクライアントがいないのに、防災キットを東北でつくりたいっていうことだけが決まっていて(笑)。それでいろんなリサーチをしていましたね。「OLIVE」や「THE SECOND AID」の評判がすごいよかったことから、電通のクリエイティブチームから一緒に「東京防災」(東京都が都内各家庭に配布防災ブック。750万部発行)のディレクションしてくれという話になったんです。そういう意味では、連続性のある仕事なんですね。
僕はデザイナーになって13〜4年経つんですけど、なぜデザイナーになったかというとデザインにはものすごく可能性があると思ったからなんですね。なにがしかの関係を誘発して、その関係が世の中を本当に変える、そこに可能性を感じたんですね。もちろんかっこいいものをつくりたいというのもあるんですけど、その前になるべく良いデザイナーになりたいです。ウチに働いてくれているみんなもそうだと思うんですけど、良いデザイナーになりたくてNOSIGNERに来てくれている。じゃあ、なにが「良い」という状態なのかなというと、「良い関係を生む形を発見すること」と僕は定義をしています。まだ世の中のは「良い関係」で繋がっていないところがいっぱいあるんですね。そういうところに対して、デザインを当てていくことで、新しい関係がたくさん生まれるのを見たいと思っています。
いま生まれつつある社会課題であるとかは、すべて等しくデザインのチャンスだと思っていて、そういうところをデザインでつないでいくときに、まったく新しいデザインが出てくるはずだと思っているんですよ。僕はデザインのオリジナリティというものは、形のオリジナリティではなく、関係のオリジナリティだと思っているので。そういう意味では、震災というのはすごい象徴的だったんですね。あらゆるものが分断されたので。その分断をもう一回繋ぐというのはどういうことなのかを考える必要がありました。
OLIVE
http://nosigner.com/case/olive/
THE SECOND AID
http://nosigner.com/case/the-second-aid/
東京防災
http://nosigner.com/ja/case/tokyo-bosai/
日本の伝統工芸の一つでありがなら、身近に使う機会が少なくなった漆器。現代のデザインと融合させる事で、日常生活でも使える身近な存在にしていきたいと考えて企画された。大本山永平寺御用達の看板を持つ吉田屋漆器とのコラボレーション商品。ツイストしたような形状により、立てかけたときの接地面積を極限まで小さくしている。越前漆による拭き漆仕上げによって、高い抗菌・防腐効果を付加。まな板の悩みであったカビを気にせず使うことができる。
小松:漆の産地・越前市で新しいキッチンツールをつくるというお題があって、まず漆を使う以前にどういう形のどういうモノをつくろうかという話になりました。このまな板の特徴としては、ツイストしたような形状になっているので、立てかけたときの接地面積を極限まで小さくして水切りをよくしています。木のまな板で課題としてよく挙がるのはカビの発生で、それをどう解決できるかということに取り組みました。立てかけたときにどうやって線で設置させるかを、太刀川と考えながら形が決まっていきました。漆には抗菌作用や撥水作用があるので、この形状と漆の強みを組み合わせることで、本当にカビにくいまな板ができました。
――産地とのお仕事をするときに、その地域の思いのようなものを汲み取ることも大事なのかと思いますが、その辺りはどのように意識されましたか?
小松:越前市や鯖江市あたりでは、ほかにも包丁や器をつくっていたりするので、まな板だけで終わりにするのではなくて、これをひとつの起点となるようにモノをつくるということは意識していました。まな板単体だけで見てしまうのではなく、産地の未来をどう描いていくかというのは意識していたと思います。難しいですけど。
太刀川:名前に関しては社内でも色々ブレストがあって、斜めになっているのが特徴的なので、斜めにまつわる言葉を出していったときに、「曲物」だとか「斜め」といった意味がある「かぶく」という言葉から「KABUKI」という名前になっていきました。
ただ、「KABUKI」で意味は通ってるけど、「歌舞伎」にまつわる印象が強すぎるので、料理の豊かさみたいなところと繋がりにくい言葉だなと思うところもあるので、名前は考え直しても良いですね。これは本当に形はすごくいいから、もっと広めたいなと思っています。
まな板KABUKI
https://www.makuake.com/project/kabuki/
――みなさんは今後、NOSIGNERでどのような活動をしていきたいですか?
中家:僕個人の働き方でいえば、基本的に京都オフィスのほうにいて、関西の案件を中心に担当しているんですけど、それと同時に母校である京都造形大学で非常勤の講師をしてます。個人的には、アカデミックなところで行われている研究にすごく興味があって、そういうところと社会に寄与するような提案を続けているNOSIGNER、このふたつを並行させていけてるのはすごくおもしろいなと思っていて、その両方の可能性を追求していきたいですね。
いま、老舗の漬物屋と新しいブランドをつくろうという話があって、自分にとっても食べ物にまつわるデザインとか、それこそ老舗とのお仕事ができると思ってなかったので、「PLOTTER」の時に文房具を勉強したように、発酵文化やお土産のことを一生懸命勉強しながらやれているのはすごく楽しい。それがきっかけになって、去年ぐらいから自分でぬか漬けをはじめたりしています(笑)。
アディト:働き方としてのメインはNOSIGNERなんですけど、休みの時は自分の趣味でモノをつくったりとか、将来は自分で考えたアイデアをカタチにしたいという夢があります。いまの働き方としては理想に近いかもしれない。NOSIGNERには、グラフィックデザインだけではなく、プロダクトとか、空間、建築のプロフェッショナルがいっぱい集まってるところなので、困ってるときにすぐにいろんな人から意見が聞きやすい環境ですね。
小松:NOSIGNERは入社してからすぐに、プロジェクトをまるっと任されることが多いんですね。少人数でひとつのプロジェクトを回しているので、なにかどこかの一部を担当するというより、グイっと深く関わって自分で進めていかなければならない。すごく仕事を任せてくれるというか、そういったところにやりがいとか魅力を感じます。主体的になればなるほど、おもしろくなっていくような場所じゃないかなって思っています。個人的には民芸とか工芸、文化人類学とか民俗学みたなところに興味があるので、そういったところが仕事で生かせたり、繋げられたらいいなと常々思っています
――最後に太刀川さんに質問です。今後、NOSIGNERはどこへ向かっていきますか?
太刀川:右も左もわからないではじめたデザイン活動が10年以上たつと、世界トップクラスのいろんな領域の人たちからご相談を受けるようになりました。そのなかで、我々なりに胸を張って素晴らしいと思えるものがつくれてきてはいるんだけども、同時に組織自体もどんどん進化させていかなくてはならないと思っているところです。
呼吸みたいなものというか、我々は外に対していっぱいアウトプットを出す事務所なんです。本当にあらゆる領域に対して色んなアウトプットを出しているんですけど、息を吐いてばっかりだと呼吸が続かなくなるじゃないですか?外側から受けたいい刺激を内側に入れて、中のことをしっかり整備していくのがいまの課題なんですよね。
だからいま、NOSIGNERはパワーアップをしているところで、それが完了するともう一段上のアウトプットが出せるようになると思ってるんですよね。本当にあらゆる領域からの期待を感じている、期待感はものすごく感じているんだけども、その期待に応えられる組織にならねばならないし、その期待に応えられる僕であらねばならないと思っています。ああ、また勉強することが増えたなあ……とは日々すごい感じているところです(笑)。多分、デザインに対する期待が大きく変わってきていて、行き先は分からないけど正しい方向に向かっている実感はあります。この時代は我々をどこにつれていくんだろう、とすごいワクワクしています(笑)。