公開日:2018/09/11
「BONX」はスピーカーとマイクロフォンを内蔵した片耳装着型のウェアラブルデバイスと、スマートフォンのアプリで構成されている。独自開発の音声データ通信システムと音声認識技術(VAD)の発話機能により、運動中の激しい動きのなかでも、ハンズフリーでデバイスからの通信を開始して会話をはじめることができるのが特徴だ。このプロダクトはどのようにして生まれたのか?彼らはこれからどんな「遊び場」をつくっていくのか?改めてお話をうかがっていく。
今回、ざっくばらんに語っていただいたのは、株式会社電通でコミュニケーションプランナーに従事した後、BONXではマーケティングを経て開発を担当する小林やばこさん、学生時代にスノーボードに打ち込み、学生スノーボード団体shuffleを設立した、セールス&マーケティング担当の西居崇博さん、さまざまなベンチャーでバックオフィスを担当してきた三浦妹菜さんの3人。いい意味でバックグラウンドもバラバラなメンバーだが、“ちゃんと遊んでいる”感じがするのは共通した雰囲気。
——まずは、BONXがいまのかたちになるまでのプロセスを教えてください。
小林やばこさん(以下、小林):僕らはハードウェアとソフトウェアの両方をつくっている会社です。たとえばアプリの会社だったら、リリースして使ってもらってからアップデートしていくことはできるんですけど、BONX Gripはハードウェアなのでリリースすると引っ込められない。だから、リリースする前に自分たちで検証するフィールドテストにかなり時間をかけるんですね。そこでは、スノーボードやスケートボード、自転車など、僕ら自身のバックグラウンドがかなり活きています。みんなで遊んで使い倒すというか、そういうことをやっていました。駒沢公園で缶蹴りをしてテストしたりもしましたね(笑)。そういう小さい遊びでもBONXを使うとすごく幅が広がるんです。鬼同士や仲間同士が会話して、「俺がおとりになるからお前が行け」とかそういう作戦を立てることもできる。そういう風に僕ら自身がちゃんと使って遊ぶということを、開発のうえで大事にしています。
——プロダクトとしてどういうところが優れていますか?
西居崇博さん(以下、西居):従来のトランシーバーだと、混線とか遮蔽物があると届かなかったりするんですよね。BONXはデータ通信を使っているので、距離も無制限ですし、遮蔽物にも干渉されません。BONXには2つモードがあって、声を検知して通信をスタートするモードと、従来のトランシーバーのようにボタンを押している間だけ反応するモード。そういった使い分けもボタン1つでできるところが、優れている点ですね。
——スノーボーダーである西居さんからの意見も反映されているんですか?
西居:そうですね。基本的にスノーフィールドでのテストは僕を中心に行っています。屋内ゲレンデもあるので、そこでいまでも毎週テストは重ねています。実際、そうやって滑ってテストを行なっているからこそ、スノーボードのライダーともちゃんとコミュニケーションが取れるので、プロダクトテストやアンバサダーのお願いもしやすいですし、自分の趣味が仕事に活かせているかなって思います。
——発売されて2年半経ちましたが、最近はなにか製品やサービスに変化はありますか?
小林:はじめは、スポーツのためのコミュニケーションツールでしたが、最近では『BONX for BUSINESS』がビジネスのツールとしても使われはじめています。スマートフォンのデータ通信を使って会話を行うシステムのため、例えば東京とオーストラリアに支社で分かれて仕事をしている人たちが、あたかも隣にいるかのようにBONXを使って会話をするというのは、いままでの世の中にはツールとしてなかったものだと思うんです。そういう新しいコミュニケーションの文化をつくっていくというフェイズにきているなと実感しています。
——既存のコミュニケーションツール、たとえばチャットなどとは違ったコミュニケーションができる?
小林:チャットでは伝わりづらい空気感やニュアンスも含めて共有できるというのがいちばん新しいなと思っています。わざわざ電話をするようなことでなくても、最大10人まで同時に接続できて、まるで同じ空間にいるかのように共有できるのが、いままでにないと思います。
西居:もともとスノーボードに限らず、スポーツのアクティビティ中に状況を共有する文化ってあまりなかったと思うんですよ。僕らがBONXを広めていくなかで、そういう世の中にない概念というか、遊び方みたいなところから提案して、体験してもらう。プロダクトを売っているというより、新しい遊び方や文化をつくっていってるという感覚があります。
——ちなみに社名の由来は?
小林:BONXはもともとチケイ株式会社っていう名前だったんですよ。本当にそのまま「地形」から。それを英語でいうと「BANCS」なんですけど、響きの良さを考えて「BONX」となりました。ロゴの丸は地球を表していて、スラッシュが坂道なんです。坂道とBONXがあれば遊び場になるという意味合いを込めています。
西居:スノーボードでいろんなコースの横に自然の「地形」があるんですよ。そこを飛んだりするのがスノーボーダーにとっては普通なので、そこの「地形」からきているんですよ。遊び場としての地形という意味ですね。
——『BONX for BUSINESS』は、どういうビジネスシーンに使われていくイメージですか?
西居:『BONX for BUSINESS』を使っていただいているフィールドは多岐にわたっていて、イベントの運営だったり、飲食店のスタッフ間のやり取りだったり、美容室だったり、工事現場での指示だったり、当初自分たちが想定していたよりもいろんなところで使われています。
小林:2017年12月にリリースしたばかりなので、正直プロダクトとしてはまだ発展途上だなと思うところはあります。いまはグループトークと言われているベースの機能はできているので、細かい改善と同時に、どういう機能を追加していくとよりよくなるかをみんなで進めているところです。
ビジネスシーンに展開していくことについては、けっこう社内で話し合ったんですよ、会社の事業を大きくしていくうえで、ひとつの屋根の下にビジネスシーンも入れていいのかって。僕らの会社には「世界は僕らの遊び場だ」というビジョンがあるんですけど、ビジネスにおけるコミュニケーションが効率化されることで、仕事を早く終わらせることができ、時間をたくさんつくることができる。それってつまり、家族だったり友だちだったりと楽しむ時間をつくれるということなので、「世界は僕らの遊び場だ」というビジョンは掲げたままでブレないだろうと。
——今年の7月には、株式会社リコーとの資本業務提携も発表されましたね。
小林:いままでスポーツをメインに展開していましたが、ビジネスユースとして広げていくにあたりリコーさんと組むことで、いろんなパートナー先を開拓していけると思っています。また、ビジネスユースでのシーンが広がることで、音声データが膨大に溜まっていきます。そのビックデータを資産として活用していくというのも、僕らがつくっていきたい未来ですね。
——音声データの活用は早い段階から考えていたんですか?
小林:そうですね。きっかけはスノーボードでしたけど、代表の宮坂の頭の中にはトランシーバーとビジネスっていうところもありました。「ヒアラブル」はまだ誰も開拓していない領域なので、やりたいという想いはずっとあったようですね。音声データだけではなくて、バイラルデータも含めて、まだビックプレイヤーがいないというか、イヤホンの領域を出ていないという印象があるので、そこはチャンスじゃないかというのは当初からありました。
——多様なメンバーが働いていますが、皆さんはどのようにコミュニケーションを取っていますか?
西居:BONXとして仕事をしている時はみんなでひとつのことに向かっていますが、みんな自分の軸や好きなことを持っているので、休みの日は自分の好きなことに集中している人が多いです。ドイツでプロの釣り師をやっていた人とか(笑)。それぞれ違うバックグラウンドがあるからすごく楽しいですね。
小林:週末の金土日の中で、1日どこか働けばいいっていうシステムがあるので、金土でキャンプをして日曜日に働くとか、そういうこともOKだったりします。そういう意味ではアクティビティがしやすい環境ですね。
三浦妹菜さん(以下、三浦):コミュニケーションの面で言うと、本当に壁とかが全然ないです。私は6月に入社したばかりなんですけど、最近入ってきた人も昔からいた人もフラットな関係で相談もしやすい。社内の環境を整えていく上で、いろいろと聞かなくてはいけないことが多いので、バックオフィスとしてはありがたいなと思いますね。
小林:お互いのプライベートの時間を拘束することもほとんどありません。それは社長や共同創業者に子どもがいることもあって、ファミリーファーストみたいな概念があるからだと思います。18時とか19時くらいには帰宅して、各々の時間を過ごすみたいな。そのなかで趣味や家族の時間にあてているかたちです。
西居:強制的な飲み会とかは一切ないですよね。
小林:あと、やっぱりウチの特徴は駒沢公園のスケートボードパークが近いこと(笑)。以前も駒沢公園の入り口のすぐ近くにオフィスがあって、ここに引っ越す前にいろんな場所を探したんですけど、結局、駒沢公園の近くから引っ越す気になれず、1年半かけて今のオフィスに引っ越しをしたんです。
西居:都内にもいくつかスケートボードパークがあるんですけど、それを理由にオフィスを構えているのはうちくらいですね(笑)。
三浦:みんな遊びに本気(笑)。スケートボードだったり、スノーボードだったり自転車だったり、各々がマジで取り組んでいるのがおもしろいなって。
——そういうことを大事にしていることが、仕事だったりクリエイティビティに活きてくるということですか?
小林:そうですね。ぶっちゃけて言うと、僕らのつくっているものって、なくても生きていけるプロダクトなんです。自分の人生を豊かにしていくとか、そういうプラスαのことを大事にしている人にとって、やりがいを感じられる仕事なんだろうなと感じています。例えば、スマホが出る前は別にガラケーで良かったわけですよね?ガラケーで不自由はしていなかったと思うんですけど、スマホが生活に入ってきたことで世界が変わる感じはあった、そういうことにちょっと近いかもしれないですね。
——今後のみなさんの野望のようなものがあったら教えてください。
小林:僕はいまマーケティングからプロダクト開発側に移り、いかにBONXの体験を気持ちいいものにしていくかを考えています。ブランド体験みたいなものを引き合いに上げて、使った瞬間に感動できるよう根詰めて考えていきたいなと思っています。やっぱり世界観が変わるようなものにしていきたいというのがあって、たとえば僕が日本にいて妻がイギリスにいる状況があったとして、普通にBONXが標準装備になっていて「ただいま」と言い合える。そういう暮らしを変えるポテンシャルはあると思っています。将来的にはそういうアイテムにしていきたいですね。
西居:僕らは「世界は僕らの遊び場だ」というビジョンを掲げていますが、個人的には遊び場って年々減っていってる気がしていて……。スケートボードパークも海外に比べて少ないですし、さまざまな環境の変化で減っている遊び場を、逆にBONXならつくっていける、そういうところくらいまでいけたらかっこいいんじゃないかと思っています。
三浦:私はバックオフィスという別の立場から、社員たちがBONXの空気感や雰囲気を守りながら働いていけるように、コミュニケーションや職場環境の面から土台を支えていきたいですね。
——これからのBONXにはどういう人材が必要ですか?
西居:UXデザイナーを募集しています。ビジネス向けのコンソール画面やtoCもそうですが、まだ完璧ではない部分の方が多いと思っていて、よりBONXの体験をよくできるようなデザインの知識を持ったデザイナーの方を探していますね
小林:アプリやWebデザインなどの目に見えるデザインもありますが、BONXは目に見えない「体験」を提供するプロダクトなので、音のデザインという点もすごく重要です。また、それを理解したうえで、プロダクト以外の部分でブランドをつくっていくアートディレクターの存在も必要だと思っています。ここまでビジネス向けの方もウケがいいのは、トランシーバーに比べるとBONXがかっこ良いから使いたいという意見もけっこうあるんです。だから、「ブランド」というものはすごく大切にしていて、それを概念からしっかり整理していくことが必要かなと感じています。これから海外にもどんどん出ていくつもりなので、グローバルでクオリティコントロールしていくというか。どこの国でも同じクオリティが担保できるということも大事ですね。