公益財団法人東京都中小企業振興公社
取材・文:八波志保(Playce) 撮影:工藤ケイイチ

公開日:2017/07/27

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中小企業とともに課題に向けてひた走る、製品開発の伴走者

公益財団法人東京都中小企業振興公社

三好耕平 デザイナー

デザインインストラクターが持つ“デザイン”というリソースを用い、参加企業が潜在的に持つポテンシャルや魅力を、試作品というカタチにする。それが公益財団法人 東京都中小企業振興会が取り組む「事業化チャレンジ道場」が求めるもの。参加するのは、製品開発の経験が少ない中小企業がほとんど。しかしながら、ものづくりに対する熱い想いと高い技術を持つ企業ばかりだ。デザインインストラクターは、「顧客ニーズをとらえた製品開発とは何なのか?」を、参加企業と共に考え、サポートする存在。平成28年度の「事業化チャレンジ道場」で、タッグを組んだデザインインストラクターの三好耕平さんと、株式会社 今野製作所の高橋博文さん。道場期間中、ともにひとつの製品に向き合ったふたりの、それぞれの立場から「事業化チャレンジ道場」のやりがいや達成感、デザイナーに求められることなどをうかがった。

デザインインストラクターは、「製品開発の伴走者」


Q. デザインインストラクターのお仕事について教えてください

三好耕平さん(以下、三好):事業化チャレンジ道場は、全14回で構成されています。前半の講義では、師範と呼ばれる先生が企画の立て方や試作のつくり方などを企業に説明し、デザインインストラクターが加わる9回までの講義で、製品コンセプトの決定やデザイン課題の抽出を行ないます。参加企業は抽出した課題を持って、デザインインストラクターと共に試作品を完成させます。その課題を約3か月かけて、試作から最終プレゼンにむけて必要な支援をおこなっていくのが、デザインインストラクターの役割です。

デザインインストラクターの三好耕平さん(左)

デザインインストラクターの三好耕平さん(左)

担当する企業が決まったら、まず初めにすることは、「その製品が何なのか?」を徹底的にヒアリングすること。もちろん自分がこれまでに携わったことがない分野の製品を担当することもあるので、専門用語など理解しがたいものもありますが、大切なのは自分が納得できるまで聞くこと。ヒアリングやディスカッションを重ねて、企画やコンセプトをより明確にしたり、スケッチや資料づくりなどをサポートしたり……デザインインストラクターは、「製品開発の伴走者」というイメージですね。

ヒアリングやディスカッションを重ねて、問題点をあぶりだしていく

ヒアリングやディスカッションを重ねて、問題点をあぶりだしていく

Q. 中小企業支援で感じるデザイナーのやりがい

三好:中小企業を支援するための事業ではありますが、参加企業の豊富な技術や知識、人材に深く触れることや、師範であるベテランデザイナーから助言を得ることは、デザイナーにとっても学ぶものがたくさんあります。他の企業とデザイナーが進めている企画に刺激を受けたり、企業とのつながりをつくることができたり、普段のデザイナー業務ではなかなか体験できないことも経験できるのが魅力で、平成23年からデザインインストラクターとして継続して参加しています。

個人的には、IT系企業がおこなっている「ハッカソン」に似ている気がして。ハッカソンだと1週間ほどの短期間で集中して、エンジニアやデザイナー、さまざまな専門職がチームを作って技術やアイデアを持ち寄り、システムやアプリなどを開発して技術を競いますが、この道場は約3か月という一定期間、みんなが一体となってやりきる「ものづくりのハッカソン」。つくった先に得るものがある――そういう、ものづくりの魅力がぎゅっとコンパクトに凝縮された取り組みだと思います。

製品開発をするのがはじめての企業さんが、いきなり売れる製品を開発することは並大抵のことではないので、3か月かけて企業の方と試作品を開発したその先で、人によっては悔しさを味わうかもしれません。でも、企業・インストラクター・師範・公社の全員が力を合わせて、製品開発を実現させようと動くところが、この道場の魅力であり、やりがいだと思います。

Q. 「Smart Dolly」はどのようにリデザインされたのか?

―昨年度の事業化チャレンジ道場で、三好さんが携わった今野製作所の「Smart Dolly(スマート ドーリー)」は、トン単位の重たいものを運ぶ台車のようなもの。既存製品としてあったものを、いかにリデザインしていったのか。

三好:日本でも数社が製造をしている製品なんですよね。ただ、キロ単位ではなくトン単位の重量を扱う製品なので強度や製造方法を考慮すると、できる形状にかなりの制限がある。それが理由で、各社とも似たような外観のものが多い。そこでまず、今野製作所が持っている高い製作技術をうまく生かし、製品の外観にアイデンティティとして反映して、他社との差別化を図ろうと考えました。「Smart Dolly」で今野製作所の技術力発信をしようと。

差別化したポイントは、側面に特徴的な穴形状を設けて、製品自体の重量を大幅に軽くしたことを視覚的にデザインしました。さらにシンメトリーな形状にすることで、前後関係なく扱えるようにしました。作業者が屈まずに対応重量の表記を確認できるようにするなど、既存デザインの長所も生かしながら、複合的に作業の効率化を図りました。

シンメトリーな形状にすることで、前後関係なく扱えるようにリデザイン。また、作業者が屈まずに対応重量の表記を確認できるようにするなど、複合的に作業の効率化が図れるようになった

シンメトリーな形状にすることで、前後関係なく扱えるようにリデザイン。また、作業者が屈まずに対応重量の表記を確認できるようにするなど、複合的に作業の効率化が図れるようになった

高橋博文さん(以下、高橋):側面の穴形状は、弊社の“軽量化”という課題にダイレクトに応えてくれましたよね。設計論上、強度に影響のない部分をくり抜いていますが、これ、実は、弊社の「イーグルブランド」の羽をイメージした形になっているんです。軽量化という課題解決に、わが社のブランドの象徴を用いてもらって、印象に残るデザインになりました。

側面に特徴的な穴形状を設けて、製品自体の重量を大幅に軽量化。今野製作所の「イーグルブランド」の羽をイメージしながらも、強度を踏まえたデザインに

側面に特徴的な穴形状を設けて、製品自体の重量を大幅に軽量化。今野製作所の「イーグルブランド」の羽をイメージしながらも、強度を踏まえたデザインに

高橋:道場では、自分たちで導いた製品コンセプトをもとに、デザイナーとコミュニケーションやディスカッションをするということを学びました。三好さんは弊社の生産現場や「Smart Dolly」に付随するジャッキの使い方などもしっかり理解してくださり、弊社のカラーや考え方まで、製品に反映していただけたました。そのおかげで「Smart Dolly」はわが社のフラッグシップモデル的な位置づけになったと思っています。「この製品を目標に、ほかの製品も改変していこうよ!」というふうに、会社として考えがまとまったことは、1つの製品のデザインということのみならず、すごく有意義なことです。

株式会社 今野製作所の高橋博文さん(左)

株式会社 今野製作所の高橋博文さん(左)

デザイナーと企業の双方に求められるコミュニケーション


Q. 事業化チャレンジ道場でデザイナーに求められること

三好:企業の考えを、“分かりやすいカタチで見える化”することが求められますね。企業担当者は製品開発の経験が少ない方がほとんどなので、文字や言葉だけではなくて絵や3Dなどで見えるカタチにすることで、ようやく問題点を把握してもらえるようになります。その際、客観的な目線から見たらどう感じるか、お客さん目線を持つことの大切さを伝えることも、デザイナーの重要な役割です。

個人的に心がけているのは、とにかくブレーンストーミングやディスカッションを、可能な限りたくさん行うこと。デザイナーが介在することで、視野の広がりが持てることはもちろんですが、実際に企画や製品についてのアイデアがどんどん膨らむ感じを体感してほしい。その感触が、道場卒業後にも、製品開発や新規事業開発につながっていくと考えています。

Q. 新製品開発をしていく上で、デザイナーに求められる資質

高橋:コミュニケーションが十分に取れることですね。企業とデザインインストラクターのどちらも、専門用語やそれぞれの業界の常識みたいなものがあって、最初はお互いの意思をくみ取れない部分も多いと思います。こちらも専門・業界用語は極力誰でもわかる言葉に置き換えるとか、きちんと伝わっているか…と確認するためのコミュニケーションをするので、デザイナーの方でもわかりやすく説明してくれるなど、お互い歩み寄れるといいですね。

三好さんの場合は、弊社の考え方を深く理解してくださったり、積極的にコミュニケーションを取ってもらったのは、お互いを知るためにもよかったですね。

Q. 今野製作所の社風について教えてください

三好:今野製作所さんの「力を合わせる、力がある」っていう経営理念が好きで。道場に参加されていた3人も、それぞれ役割分担がきちんとされていて、それでいて連携も密にされていて。それが社内だけでなく、社外においてもそうなんですよね。実際に現場でご一緒するなかで、僕も一員となって力を合わせている……と感じる局面が多々あって。本当にやりがいもあるし、手伝いに来ている外部の人という感覚ではなく、“自分ごと”のようにも感じさせる雰囲気は、今野製作所の社風であり、カラーですね。

高橋:社内外にかかわらず、常にオープンにコミュニケーションが取れるような社会人でありたいと、いま目指して取り組んでいる段階です。デザイナーの三好さんと仕事をして、改めて気づかされたのが、デザインって見た目をかっこよくするってことではなく、「顧客視点で製品の課題を解決すること」だということ。普段はBtoBで仕事をしている我々なので、意識していないと忘れがちですが、「顧客視点」で仕事をするということは、今回、本当に勉強になりました。これは会社としても伝播させていきたいなと思います。

Q. 三好さんのお仕事をほかの言葉に例えると?

三好:色とか形を扱う「哲学者」だと思っています。人間が感じた感覚をもとに理論をたてていくのが哲学ですが、デザインも同じように、どう感じるかという直感をもとに、色や形というツールを使って、感覚を整理していく。誰でもわかるような1つの道を導いていくその工程は、哲学もデザインもとてもよく似ているように感じます。言葉にするのは、ちょっと恥ずかしいですね(笑)。

現在は個人事業主なので、とりあえず会社にすることが目標です。身の回りのものだったらどんなものでも、できる限りいろいろなものをデザインしたいなと思います。いままで開発に携わったものでうまくいかなかったものもありますが、そういうものもうまくカタチにして、自社ブランド・自社商品として開発していけたらいいですね。

PROFILE
公益財団法人東京都中小企業振興公社
東京都中小企業振興公社は、東京都における中小企業の総合的・中核的な支援機関として各種支援事業を提供し、東京の経済の活性化と都民生活の向上に寄与しています。

東京都中小企業振興公社
http://www.tokyo-kosha.or.jp/

三好耕平 デザイナー

1983年生まれ。2007年桑沢デザイン研究所を卒業後、デザイン事務所などでのアルバイトを経て2009年よりフリーランス。以後、プロダクトデザインをメインに、ディスプレイやブースのデザイン、またそれに付随したグラフィックのデザインを行う。