公開日:2017/05/25
入社してまもなく3年が経ちますが、現在2つの業務を兼任しています。1つは生活雑貨全般を扱うブランド、「中川政七商店」のデザイナーです。こちらは商品のデザインをするのがおもな仕事にはなるのですが、弊社の場合はデザイナーの業務領域が幅広く、商品企画、商品設計、デザイン、コミュニケーションまですべて携わります。
大きな商品(MD)の政策をもとに、僕たちデザイナーが商品を企画・具体化します。さらにそこから先の、加工先のメーカー探しや交渉、商品全体の原価を含む仕様決定(商品設計)、販売促進のためのコミュニケーションツールの製作なども業務のうちに含まれます。単純に形だけを考えるのではない、というのがうちのデザイナーの特徴だと思います。
もう1つは、植物やそれに付随する道具などを扱うブランド、「花園樹斎(かえんじゅさい)」のブランドマネージャーです。花園樹斎は、日本の四季の植物や、育てたり飾る道具を扱うことで、日本の園芸文化の魅力を再発見してもらおうと2016年の2月に立ち上げたブランドです。僕はブランドの立ち上げメンバーとして、ブランドコンセプトをつくるところから携わりました。こちらは企画の立案からマーチャンダイジング、営業戦略までがおもな業務となり、現在3名のチームを統括しています。
2点あるのですが、まずひとつ目は昨年末に発売した、新潟県の燕三条にある農具メーカーのガーデンツールです。これは通常行っている自社商品の開発業務とは別の仕事になるのですが、他社からものづくりを依頼されて行った「商品開発コンサルティング」のプロジェクトです。昨年弊社が主催した「新潟博覧会」(新潟県のものづくりメーカーと共同で行った展覧会)が縁で、地場のメーカーである近藤製作所さん、小林製鋏さんと一緒にものづくりをする機会をいただいたんです。
どちらもプロが使う農具を長年つくり続けている老舗メーカーなのですが、今回新たな販路につながるものを開発したいという希望があり、一般家庭向けの園芸鋏、移植ゴテやフォークをデザインさせていただきました。
素材や加工方法などは従来のメーカーの手法を活かした本格的な仕様にこだわり、大きさや持ちやすさなどの点で家庭向けに仕上げていったという感じです。「新たな商品開発」ということに関しては弊社の得意分野ですが、道具として本来あるべきつくりや製法の見極めという点では先方はやはりプロフェッショナルなので、勉強させていただく部分もたくさんありました。
もうひとつは、自社ブランド「中川政七商店」のオリジナルの器3種です。「日本の国民食(国民的メニューになっているもの)」というテーマのもと、ラーメン鉢、カレー皿、どんぶりを開発しました。
ラーメン鉢は福岡県の小石原焼、カレー皿は三重県の萬古焼、どんぶりは岐阜県の美濃焼(どんぶり生産量日本一を誇る岐阜県土岐市・駄知町)の窯元と一緒につくりました。3種の器に共通するポイントは、それぞれの産地や窯元の伝統的な技術や製法を活かしながら、器として使える機能性やオリジナリティも追求したところです。
前職は文具メーカーに勤めていたので、それこそ365日文房具のデザインをしていました。もちろん文房具のデザインもおもしろかったのですが、それだけではない、生活に身近なものをもっと広い範囲でつくりたいと思うようになったんです。そういった意味で、生活雑貨全般を扱うこの会社はとても魅力的でした。同時に、ちょうど中川政七商店がいろいろなデザイン誌に取り上げられはじめたタイミングで、クリエイティブに対して理解があり、力を注いでいる会社なのだということもわかりました。その時にちょうど採用の募集が出ていたので、迷わずエントリーしました。
人間関係がとてもフラットですね。上司との関係性にしても、変に気を遣うような堅苦しさはありません。その分、意思決定のフローもスムーズだと感じますし、風通しもいいです。社員全体の平均年齢も30代中盤といったところなので、若い世代が多いイメージです。ここ10年程は新卒採用もおこなって長期的な人材育成もしていますが、事業拡大を背景に、即戦力となる中途社員も数多く入社しています。そのため、社内にいろいろなバックグラウンドをもった人が集まりさまざまな価値観を共有しているので、そのことも風通しがよい理由のひとつかもしれません。
先にお話しした内容と重複しますが、1つはデザインの枠を飛び越えた広い領域でものづくりに関われること。正直、入社したての頃は「ここまでやるんだ!?」という戸惑いもありました。でも、できるようになるとおもしろいし、何より楽しいんですよね。それがうちの会社の魅力の一つでもあり、今後いろいろなことに役立っていくと実感しています。
また、我々は日本のものづくりメーカーといわゆる日本的なものを作っているのですが、産地のものづくりの魅力を知ることができたり、歳時記やしきたりといった日本の伝統文化を改めて再発見できることも一つの魅力だと思います。
たとえば僕の地元は静岡県の浜松市で、自動車や楽器で有名なことは知っていましたが、染めや織物が盛んだということはこの会社に入るまでまったく知りませんでした。もともと日本文化に詳しいわけではないので、仕事をする中でそうしたことを知れるのは大きな魅力です。商品を担当するまではずぶの素人ですが、担当になって調べていくとそこに発見があり、良さがわかる。そういった意味では、自分の手がける仕事の一つひとつが血肉になっていく感覚です。
かっちりと決められたスケジュールの中で、望むべきレベルまでいかに商品のクオリティを引き上げるかという点は、難易度の高い仕事である反面、妥協できないポイントでもあります。過去には満足いくレベルに仕上がるまで、10回以上テストピースをつくってもらったことも。
他社ありきの仕事である以上、メーカーや職人の方といかに信頼関係を築き、いかにうちの会社のやりたいことに共感してもらい、かつ先方の利益にもつながるような仕事に、ということは常に考えています。関わる人が気持ちよく仕事ができるように、こまめなコミュニケーションを心がけることも大事な仕事の一つかもしれません。
「“商売”ができるデザイナーになってほしい」。これは、社長が社内のデザイナー全員に対して望んでいることです。要は、ものづくりの市場を読んで、そこに対してどういうアプローチをすべきかまで考えられるデザイナーになってほしい、ということです。ただデザインが良いものを作って終わるのではなく、ちゃんと使い手に届き、そしてまたつくり手に製作をお願いできるように。商売として循環しなければ発展はありません。もちろん今も意識しながらやってはいるのですが、これがなかなかレベルの高いことで。まずは、その力をもっと磨いていきたいですね。
あとは、人々の生活を変えるというと少し大げさですが、そのくらい影響力のある商品を将来的につくれたら、という想いはあります。日本文化をテーマに、つくり手も使い手もうれしくなるような商品がつくれればいいですね。ちなみに漠然とですが、僕が今後手がけてみたいと思うプロダクトは「フライパン」です(笑)。
ものづくりを通した「つなぎ役」のような存在かなと思っています。1つはつくり手と使い手をつなぐ役目。たとえばどこかの産地の技術を知らない人がいたとして、自分が形にすることで届けられることがあるとしたら、それはつなぎ役ですよね。もう1つは、日本の文化、風習においてのつなぎ役です。「花園樹斎」のような園芸の世界も深く知ればとてもおもしろいのですが、知らない人もやはり多いと思います。そういったものを温故知新の考え方でアレンジして届けられれば、現代の人たちにも魅力が伝わるのかなと感じています。
2014年に株式会社中川政七商店に入社。商品企画課 デザイナーとして勤務。現在は中川政七商店ブランドのデザイナー、花園樹斎ブランドマネージャーを兼任。