貝印株式会社
執筆:開洋美 写真:小野奈那子 編集:岩渕真理子(JDN)

公開日:2024/06/21

働き方インタビュー

【子育て×仕事の両立 vol.1】子育て中の社員が真に活躍できる貝印のサポート

貝印株式会社

草彅聡子 マーケティング本部 デザイン部 東京スタジオ 兼 パッケージ開発次長

「1日24時間じゃ時間が足りない!」「予定していたスケジュールがうまくいかない!」「自分が2人いればいいのに!」などなど……、子育てと仕事の両立に頭を悩ませている方は多いのではないでしょうか。子どもの個性は100人いれば100通りあるように、子育てと仕事の両立の仕方も人それぞれ。本連載記事では、さまざまな方の両立方法をご紹介していきます。

今回は、1908年に岐阜県関市で創業し、カミソリに代表される刃物類を中心に、ビューティーケア用品や調理用品を販売するメーカーとして幅広い商品展開をおこなう貝印株式会社。同社では、さまざまな休暇制度や長期にわたる時短勤務制度のほか、子育て中の社員が働きやすく、活躍できる手厚いサポート体制が整えられています。

マーケティング本部デザイン部に勤務する傍ら、5歳のお子さんを育てる母親としても奮闘する草彅聡子さんに、貝印で働くことの魅力、子育てと仕事の両立に関する悩みや工夫などについてうかがいました。

理解ある企業と巡り会えた、子育て中の転職活動

――草彅さんの現在のお仕事内容をお聞かせください。

私はマーケティング本部のデザイン部に所属していて、今年の4月から次長として勤務しています。貝印は岐阜県関市が発祥の刃物メーカーなので東京と岐阜に拠点があり、デザイン部に関しては岐阜にプロダクトチームが、東京にグラフィックチームがそれぞれ在籍しています。

貝印 草彅聡子さん

草彅聡子さん

プロダクトチームが制作した商品に対して、私たちグラフィックチームがパッケージをつくります。私はパッケージデザインに加えて、ブランドの色や世界観を表現するためのガイドを作成したり、ディレクション業務なども担当しています。

例えば、弊社の主力商品である「miness®(マイネス)」というブランドのカミソリの場合は、女性に可愛らしいと思って手に取っていただけるように、パッケージをダイヤモンドのような形状にしました。ピンクの色合いも商品によって1点1点微妙に違っていて、ダイバーシティやパーソナライズというテーマのもとに、一人ひとり異なる肌の色をイメージしています。私が3年前に入社していちばん最初に携わった案件でもあるので、思い入れ深いブランドです。

「miness」シリーズ。形の違う商品に対して統一性を持たせるため、パッケージの形状にこだわり抜いてデザイン

なくす、は選べる。“わたし”にぴったりの選べるカミソリブランド「miness®」。形状が異なる商品に対して統一性を持たせるため、パッケージの形状にこだわり抜いてデザイン。お店に陳列される際にかける、フックのくぼみ位置も商品によって異なっている

――貝印さんへの入社はどのような経緯だったのでしょうか。お子さんがいらっしゃる状態での転職活動だったのですか?

そうなんです。最初にグラフィックデザイナーとして入った会社に10年ほど勤めたのですが、結婚を機に退職して、その後独立してフリーランスで7~8年活動していました。ただ、イベント関係の仕事を多く手がけていたこともあり、コロナ禍で一気に仕事がなくなってしまったんです。子どもを保育園に入れていたことで焦りもあったのと、企業勤めの経験が1社しかなかったので、これを機にもう少し経験を積みたいという思いで転職活動をはじめました。インハウスで入社できる会社を探していたところ、ちょうどご縁があったのが貝印でした。

他にも何社か受けた会社があるのですが、アラフォーの転職だったこともあり、「お子さんはいますか?」とよく面接で聞かれたのが印象的でした。小さな子どもがいることを伝えると、その場で断られたことも実際にありましたね。

でも、貝印だけは子どもがいることを一切聞かれなかったんです。聞かれないと逆に不安になってしまって(笑)、最終面接で子どもがいることを伝えたところ、「うちは時差出勤もできるので、まったく心配いりませんよ」と温かい言葉をかけてもらえて、貝印に入社したい思いがとても強くなりました。

――小さなお子さんがいる方の転職活動の苦労はよく聞きますが、そのように理解のある企業だとこれから出産や子育てを経験する方も心強いですね。

本当にそうだと思います。いまは私が面接をすることもあるのですが、子どもがいるかどうかは業務の上で重要ではないので、自分も聞くことはないですね。

子育てしやすい環境を会社がバックアップ

――いまの会社で特に子育てしやすいと思う環境や、福利厚生などを教えてください。

昨年からはじまってとても魅力的だと感じているのが、健康休暇とファミリー休暇です。男性と女性で取得できる日数は違うのですが、男性は3日間、女性は6日間健康休暇があり、それに加えてファミリー休暇が1日あるので、女性の場合は計7日間を規定の有給休暇以外で取得できます。こちらを先に消化すればいまある有給を繰り越すこともできるので、とてもありがたいです。

そのほかに、所定労働時間によって取得上限回数は異なりますが、最大で2時間休が年間20回取得可能で、例えば午後から子どもを病院に連れて行きたいときなどに、2時間だけ休暇を取ることが可能です。仕事が忙しい期間は丸1日休むのが難しいので、時間休の制度にとても助けられています。グラフィックチームには子育て中の女性が私を含めて3人いて、みなさんよく時間休を活用していますね。

貝印 草彅聡子さん

あとは、ベースとなるフルタイム勤務が8時50分~17時15分なのですが、30分おきに5つくらいのシフトがあるので、状況によって早められたり遅らせたりすることができます。基本的には業務に支障がなければ問題なく承認されるので、電車の混む時間を避けるためにデフォルトで早く出勤している方もいます。このように細かく調整できるところが、子育てしやすい環境につながっているのだと思います。

――病院や保護者会などは数時間で済むことも多いので、時間休はありがたいですね。時短勤務や在宅勤務などの制度はいかがですか?

時短勤務に関しては今年からルールが変わり、これまでは小学校3年生までの子どもをもつ親が対象だったのですが、今年から小学校6年生までが対象になりました。私は現在フルタイム勤務ですが、子どもが来年から小学校に入学するので、もしいまの生活スタイルに合わなければ時短勤務も選択肢に入れたいと考えています。社内には時短勤務の方がたくさんいるので、6年生まで延長されて安心している方は多いと思います。

在宅勤務については、未就学児のお子さんがいる方は週3日在宅勤務ができて、それ以外の方は週2日まで在宅勤務が可能というルールになっています。お子さんが小さい場合は、子どもがちょっと熱を出したときでも完全に休まず業務ができるので、こちらの制度もありがたいですね。

――特に時短勤務などは、子どもが小学校に入学すると使えなくなる会社が多い中で、御社はとても柔軟だと感じます。例えば子育て中の社員の方々から、制度に対する希望の声が上がったりするのでしょうか?

週報の制度があり、毎週決まった曜日に管理職以下の社員全員が何かしらの内容を書いて提出しています。その内容を社内で決められたフィルタリング担当がフィルタリングして社長が目を通すので、社員の声を聞いてくれていると感じます。

貝印「生クリッチ」

写真手前の「生クリッチ」は、社員のアイデアを商品化する「新製品アイディアコンペ」から誕生。週報をはじめ、社員のさまざまな声が貝印の柱となっている

書く内容は業務のことに限らずとも良いので、生活で気づいたことや同僚への感謝の気持ちなど、みなさん本当に自由に書いています。そうすると社長から、こういう対応をしましょうと該当部署に話が降りる流れになっています。同僚が書いた在宅勤務に関する提案が拾われて改訂されたこともあるので、重要なことはきちんと見てくれている実感があります。

会社や同僚、家族の協力あってこその両立

――子育てと仕事の両立で悩んだ経験などがあれば教えてください。

私はちょうどコロナ禍のピークに入社して、在宅勤務を推奨されていました。その頃は人に会うこともできなかったので、子どものことでまわりに助けも求められないですし、保育園もクラスターがあり閉鎖になってしまったんです。

子どももまだ2~3歳で手がかかり、さらに会社にも入社したばかりで一生懸命やらないといけない時期だったので、在宅保育をしながらの業務は焦りもあって精神的にとても追い詰められました。一過性のものなので済んでしまえば冷静に振り返れますが、仕事と子育ての両立は、保育園、家族、会社それぞれの理解と協力がなければ成り立たないことを痛感しました。

最近の出来事でいうと、いままでは子どもをよく実家に預けて面倒をみてもらっていたのですが、今年の1月に両親が体調を崩して難しくなってしまいました。ちょうどその頃に次長の役職の話をいただいて、私としては家族のサポートがない状態で管理職になることに不安があったので、それを役員に素直に話したんです。

そうしたところ、会社に頼ってもらって大丈夫なので心配はいらないとはっきり言ってもらえて、安心して臨むことができました。働く女性が子育てをしながら活躍できる、本当にいい会社に出会えたと思っています。

貝印 草彅聡子さん

――言葉だけじゃない本当の意味での活躍ですね。頑張っている人がきちんと評価されて子育てもしやすい素晴らしい職場だと思います。

会社はもちろん、いまの部署も理解のあるメンバーが集まったとてもいいチームです。例えば誰かが体調を崩して休んでしまったら、「代わりにやりますよ!」と率先して声をかけ合います。そういう気持ちのいい関係性に本当に救われていて、上司からも同僚からも早く帰ることに対してネガティブな空気を感じたことも一切ありません。

同じチームの同僚も、産休でプロジェクトを引き継いでもらうことに申し訳なさを感じていたようなのですが、まわりからとても温かい言葉をかけてもらって安心して制度を利用できたそうです。そういった雰囲気なので、男性でも育休が取りやすいようです。

もちろんお子さんがいない方も多くいますが、子どもがいるいないに関わらず、その人が普段から誠実に仕事をしていれば何かあったときに自然と手伝いたくなりますよね。助け合いは、そうした日々の信頼関係で成り立っているのだと改めて実感しています。

――いま草彅さんがお仕事と子育てを両立する上で、心がけていることはありますか?

これは子育て中に限る話ではないと思いますが、基本的にお迎えの時間には遅れることができないので、仕事のスケジュール管理はできるだけきっちりやることを心がけています。ですがそうもいかない時には、夫にもとても協力してもらっています。

入社前はワンオペなことも多かったのですが、いまは必要に応じてお迎えにも行ってもらいますし、それ以外にも前もって相談するといろいろ調整してくれるので助かっています。

――それはご夫婦で話し合ってやりやすい形を見つけていったんですか?

そうですね。相談はちょくちょくしていますが、私の希望は基本的に尊重してくれます。デザインは専門職で、好きなことを仕事にしている人が多い分野だと思うので、やりたいことのためなら協力するというスタンスでいてくれます。

夫はスペースデザインの仕事をしていて同じクリエイティブ業界ではあるので、業務上帰りが遅くなってしまうときでも、クリエイティブの仕事に関して理解があるのはとてもありがたいですね。

――最後に、デザイナーの草彅さんならではのお子さんとの過ごし方はありますか?

絵をよくお風呂で一緒に描いています。ただ職業柄どうしても私のほうがうまく描けることがあるので、「自分はもういいからお母さん描いてよ」と拗ねられてしまいます(笑)。あとは夫もクリエイターなので、参考になりそうな展示会にはよく行っています。その際はチームラボさんの展示のように子どもも一緒に体験できるものを選んで、家族みんなで楽しむことが多いですね。

PROFILE
貝印株式会社
KAIグループは、800年以上の歴史を持つ刃物の都、岐阜県関市に創業。土地に流れるものづくりの技や魂を受け継ぎながら、刃物を中心にその周辺にも製品の幅を広げて、新ミッション「切れ味とやさしさ」を掲げて活動している。調理、グルーミング、ビューティーケア、医療用など1万アイテムにもおよぶ製品を展開し、商品の企画開発から生産、販売、物流までの一連を自ら行っている刃物関連メーカーとして成長。その特長を活かし、KAI製品が世界中の人たちの暮らしの一部になるよう努力を続けている。
https://www.kai-group.com/

草彅聡子 マーケティング本部 デザイン部 東京スタジオ 兼 パッケージ開発次長

管理職として業務管理を行いつつ、グラフィックデザイナーとしてパッケージデザインなどを手掛けている。