
公開日:2025/04/21
「1日24時間じゃ足りない!」「予定していたスケジュールがうまくいかない!」「自分が2人いればいいのに!」などなど……、子育てと仕事の両立に頭を悩ませている方は多いのではないでしょうか。子どもの個性は100人いれば100通りあるように、子育てと仕事の向き合い方も人それぞれ。
今回は、公私ともにパートナーである朝倉充展(みつのり)さんと朝倉洋美(ひろみ)さんによるクリエイティブユニット「Bob Foundation(ボブファウンデーション)」の洋美さんにお話をうかがいました。
多岐にわたるクリエイションを手がけ、クルマをテーマにしたクリエイティブユニットなどさまざまな活動を精力的におこなう洋美さんは、お子さんとどのような関係を築き、どのようにデザインの仕事に向き合ってるのでしょうか?
――まずは洋美さんの経歴を教えていただけますか?
高校卒業後、イギリスのCentral Saint Martins College of Art & Design(セントラル・セント・マーチンズ カレッジオブアート&デザイン)に入学し、そこでBob Foundationの、そして現在はプライベートのパートナーでもあるミツ(充展)と出会いました。
朝倉洋美さん
卒業後はイギリスに残りたいという気持ちもありましたが、ビザの問題や、日本で働きたいという思いもあったので日本に帰ってきました。帰国後にデザイン事務所のタイクーングラフィックスに入り、アシスタントとして働き出しました。
当時のデザイン会社は朝まで働く会社が多かったですが、私は絶対に終電で帰りたいと交渉して帰っていました(笑)。結局3カ月のみの在籍でしたが、その時お世話になったタイクーンのお二人から後にお仕事をもらうなど、とてもいい経験になったと思っています。
その後ロンドンで一緒だった友だちが本を出版するにあたりデザインを担当したり、スウェーデン大使館が主催の「Tokyo Style in Stokholm」というイベントに出展したりしていました。それが2004年くらいで、オフィシャルでBob Foundationという名前で仕事をはじめました。
Bob Foundationの公式サイト
――「ボブファウンデーション」という名前はユニークですよね。由来は何ですか?
イギリスに留学するきっかけとなった憧れのデザイン事務所TOMATOへ遊びにうかがった際、受付の女性が電話に出るたびに「ハロートマートー」と軽快に言っていたのが可愛く、同じく友だちの事務所も「ハローフライー」と応答していた姿が印象的で、電話で言いやすい名前がいいなと思いました。
それに、親しみやすい人物の名前がいいと思っていました。ボブという名前はロバートの呼び名なんですが、階級や人種も関係なさそうなので。勝手なイメージですが、ボブってちょっと身体が大きくて、髪の毛もじゃもじゃで、不器用に手伝ってくれる、気のいい人というイメージがあります。そこにファンダメンタル、基礎的にいろんなことができるという意味を込めて、「ボブファウンデーション」と名付けました。
――たしかに「ボブさん」と呼びやすい名前ですよね。では次に子育てについて話を聞かせてください。お子さんが生まれたのはいつ頃ですか?
2014年に子どもが生まれました。そこから仕事のスタイルが変わってきたかもしれないですね。それまでは仕事も二人でやってきたけれど、仕事も家も一緒で、どこで息継ぎしよう……と思うこともありました。
そこでボブでの仕事以外に、違うこともやってみたいと思うようになり、編集者の阿部太一さんと、共通の趣味であるクルマをテーマにしたクリエイティブユニット「HIROO REDSOX(ヒロオレッドソックス)」をはじめました。ミツは友だちとオンライン雑貨ショップ「Lilla Bäcken(リッラベッケン)」をはじめて、お互いに違う仕事もしながらボブを続けています。
車から最初に降りる足。その足の靴下が可愛いとグッとくるというところからプロジェクトがスタートした「HIROO REDSOX」 Photo:藤田一浩
――ミツさんとは家事はどのように分担しているんですか?
赤ちゃんの時は、お母さんの方が付きっきりになることが多いじゃないですか。うちはありがたいことに、彼がご飯担当なんです。母乳をあげていても夜泣きが大変でもご飯を作らなくても良かったので、他の人よりも楽だったかもしれませんし、非常に感謝しています。いまでも私が海外に出張していても毎日電話はしていましたが、ミツと息子は一緒に力を合わせて生きていますよ(笑)。
――お子さんが生まれる前と後で、自分の作品の変化を実感したことはありますか?
子どもが生まれたというよりも、新しい友だち付き合いからデザインが変わったと思うことはありますね。いままで自分にはなかった、スケーターやストリートのカルチャーを教えてもらったりしています。
実は割とガーリーなものをつくってしまう傾向にあるんです。以前からユニセックスだったよって言ってくれる人もいますし、それを好きでいてくれる人もいるんですけど、どうしても線や色選びがガーリーになりがちで自分では嫌だった時もあるんです。でもストリートなカルチャーに触れてからは、ちょっとメンズライクになってきたと思っています。
直近のストリートっぽいものでは、鹿児島のいも焼酎ブランド「大和桜」のラベルを製作しました。ラベル(エチケット)は素敵なのに取っておきにくいという問題を再剥離可能なステッカーにして、購入した人がPCやスマホに貼れるようにしようと思いっきり現代っぽいデザインにしました。
大和桜 進取
瓶を電柱に見立てて、ストリートでいうところの「タギング」していく文化をお酒にもしようというアイデアからこのデザインが生まれました。大和桜は新しいことにチャレンジする精神がとてもかっこよく、お酒界のリーディングカンパニーとしてこの世界に「印」(タギング)をつける存在にという思いを込めています。
ちなみに私はタギングなどギリギリ法律に触れることは嫌いなので、本当のタギングはやりません(笑)。
――子育てと仕事を両立するうえで工夫していることはありますか?
コロナ禍になった時に家で仕事をしてみようと事務所を閉じたのですが、全然集中できなくて。もしかしたら私は子どもがいるところでは子どもや家事が気になって仕事ができないかもと思い、渋谷で友だちと事務所をシェアしました。その後、阿部さんがやっているタコスショップ「みよし屋」の裏のオフィスに引っ越しました。
洋美さんのお仕事場
集中するんだったら、子どもがいない場所がいいと思っていますが、それはミツが息子と過ごしてくれるからなんですよね。それから、私たちは「DAILY BOB(デイリーボブ)」という自分たちのプロダクトラインをやっていて、その発送作業もミツがやってくれています。
つい最近まで、息子が学校から帰って来た時にどちらも家にいないと寂しがっていたので、どちらかがいないといけませんでした。比率で言うと私よりもミツの方が多くて、ごめんと思いながら夕方に帰るとご飯ができているというありがいたい環境ですね。
家に帰ってからも仕事をしようと思うのですが、子どもに一緒に寝ようと言われていると寝てしまうので……。昔よりはデザインに集中できないと思うことがありますが、自分ができる範囲でやるということを意識しています。
――息子さんとはどのように過ごすようにしていますか?
普通の時間を普通に過ごしています。ご飯を一緒に食べて、何気ない会話をする。自分が知らない学校生活の話では、本音がポロっと出てくる時もありますね。わざわざ意識して対話の時間をつくろうとするよりも、それが一番いいのかなと思っています。
それに自分の性格的に、親子というより近い友だちという感覚もあります。ただ、友だちではなく親なのです。そこは意識して接していますが、自分の親との関係よりは、絶対近いだろうなと思いますね。
――世の中全体として、親子の関係自体はだいぶ変わってきていますよね。
ファッションやメイクも、私たちの親世代が同年代だったときと比べると、私たち世代のほうが絶対に精神的に若いし、当時は親子の間に緊張感がありましたよね。私はいまぐらいの方がちょうどいいなと思っています。
――息子さんのカルチャーから自分の仕事に活きたことはありますか?
意外と小学生がする遊びって、私が子どもだったころとあんまり変わってないなと思います。でも保育園での工作は参考になったというか感動しましたね。箱のなかに画用紙を敷いて、そこに着色したビー玉を転がすと、ランダムに綺麗な線が描かれて、それを切り抜いて黒い紙の上に貼るとか。先生にどうやってつくったのか聞いて、仕事の参考にしたこともあります。
――息子さんはいまどんなものに興味があるんですか?
いまはK-POPのガールズユニットにハマっていて、ダンスの動画をよく見ています。子どもが生まれる前は、女の子が生まれて自分のようなめんどくさい人になったらどうしようと心配し、男の子で良かったと思っていたら、彼はプリキュアやアイドルだったり、自分が苦手な分野が好きで驚きましたね(笑)。私もいまは一緒に楽しんでいます。
――いまはジェンダーに関係なく楽しめる時代ですよね。息子さんも朝倉さんたちのようにクリエイティブな仕事の方面に進むと思いますか?
想像するに決してアカデミックな方にはいかないかなとは思っています。何かを考えて発表するとか、そっちの方には興味がありそうです。学校の発表会で、将来の夢でピアニストと言っていて、初めて聞いたので驚きましたよ(笑)。
昨年、「IVE」というK-POPアイドルの東京ドームライブに行ったんです。そこで彼は感動して泣いていました。どうやったら東京ドームに立てるのかと聞いてきたので、まずはダンス教室入ったらいいんじゃないかと言ったんです(笑)。
フードイベントでの写真。息子さんも含めて全員でボブ。息子さんのTシャツと朝倉さんご夫婦が着ているシャツのプリントデザインも洋美さんが担当
それと、K-POPのダンスにしてもYouTubeでメイキングを見ていて、裏方の動きや言っていることの話をよくしているので、裏方にも興味があるんじゃないかと思っています。自分でスカートを巻いてみたりしているので「ファッションの方面もいいじゃない?」って話をすると「確かに!」って言ったり、プロデュースの話をすると「なるほど」と聞いたりしているので、クリエイションの方面に行くと彼の力が発揮できるのではと思っていますね。
私の父は会社経営、母は英語教室をしており、クリエイティブな業界とは違う業界で、私が小学生の頃はどんな仕事があるのかわからなかったのですが、叔父がテレビの小道具をつくっていたのがきっかけなのか、テレビ関係の仕事に就きたいと将来の夢を書いていました。その頃から私も裏方に興味があったんですよね。
――演者なのか、振り付けなのか、ファッションなのか、どこに惹かれるのか考えたときに、ご両親がクリエイティブな仕事をしているとどんな役割があるのか教えてあげられますよね。
そうですね。自分の好きな道を選んでほしいと思いますが、自分たちが少しは関係している世界だから、教えてあげることはできるかなと思います。知らないと選択ができないので、どれだけ子どもに選択肢を増やしてあげるかは、親ができることかなと思っています。
1978年生まれ、浜松出身。高校卒業後Central Saint Martins College of Art and Designに留学、基礎科を経て同カレッジBA Graphic design科卒業。デザイン、イラストなどを担当。Bob Foundationを運営しつつ、Bob Food Serviceとしてクレープ屋、カメラマン伊藤徹也さんとフードユニット「みよし屋飯店」、編集者阿部太一さんとHiroo Redsoxをやったり。