株式会社たきコーポレーション
執筆:井上倫子 写真:高比良美樹 取材・編集:岩渕真理子(JDN)

公開日:2024/10/31

働き方インタビュー

【子育て×仕事の両立 vol.2】1人で背負い込まない、たきコーポレーションのサポート体制

株式会社たきコーポレーション

長谷川真歩 (UIデザイナー)

桑原詩織 (チーフデザイナー)

「1日24時間じゃ足りない!」「予定していたスケジュールがうまくいかない!」「自分が2人いればいいのに!」などなど……、子育てと仕事の両立に頭を悩ませている方は多いのではないでしょうか。子どもの個性は100人いれば100通りあるように、子育てと仕事の両立の仕方も人それぞれ。本連載記事では、さまざまな方の両立方法をご紹介していきます。

今回は、1960年に東京都文京区に前進の株式会社たき工房を創業、デザインを強みにブランディング・プロモーション・Webサイト・動画・UI/UXなどの幅広い製作をおこなう「たきコーポレーション」。クライアントワークが中心の会社ですが、同社で働くママさんクリエイターたちは、仕事と子育てをどのように両立しているのでしょうか?

2024年4月に育休から復帰したばかりのUIデザイナーの長谷川真歩さんと、ブランディングを中心に手がけるデザイナーの桑原詩織さんにお話をうかがいました。

「置いていかれるかも…」という不安からの復帰

――まず、お二人の経歴やお仕事の内容を教えてください。

長谷川真歩さん(以下、長谷川):新卒の頃からWebデザイナーとして10年以上在籍しています。現在は、たきコーポレーションのUXデザイン制作をおこなう制作部門カンパニー「IDEAL」に所属するUIデザイナーです。4歳の男の子と、1歳の女の子がいます。

たきコーポレーション 長谷川真歩さん

長谷川真歩さん

桑原詩織さん(以下、桑原): 私は子どもが1人います。中途で2018年にCI、VIの専門チームにデザイナーとして入社し、いまはブランディング制作をおこなう制作部門カンパニー「IGI」に所属し、デザイナーとして働いています。元々はロゴ制作などを担当していましたが、現在はWebや冊子、動画など、ブランディングに関わるもの全般を担当しています。

たきコーポレーション 桑原詩織さん

桑原詩織さん

――お二人とも4月に復帰されたということですが、復帰される前はどのような心境でしたか?

長谷川:私は2回目の育休でしたが、やっぱり1年休んでいると、みんなが先にいってしまうという不安があり、早く復帰したいなという気持ちでした。

桑原:私も最初はドキドキでした……。最初に所属していたチームにはママさんがいなかったこともあり、ちゃんと足並みをそろえられるのか、理解を得られるのかなど、私も置いてかれるのではないかと不安でした。復帰してから所属したIGIにはすでにママさんが3、4人いたので、それが励みになりましたね。

――復帰されてからのお仕事はどうですか?

長谷川:1人目の時も大変だったんですけど、子どもが2人になると精神面・体力面での大変さも2倍になりましたね。最初は生活のルーティンをどのように整えていったらいいのか、探り探りでした。むしろ仕事の時は、自分の時間の調整ができるからいいくらいの気持ちでした(笑)。

桑原:わかります。仕事をしている時はひとりで黙々と作業できますし、なんなら子どもに会えなくて寂しいとも思うのですが、子供が帰ってくると仕事がしたいと思ってしまう(笑)。仕事と子育てがいい感じに作用しているなと思います。

――それはいいですね。これまでのお仕事で思い出深い案件はありますか?

長谷川:育休前から清水建設さんの「ShimzDDE」というサイトのリニューアルに携わっていました。清水建設さんが独自で開発しているコンピュテーショナルデザイン手法を使った設計プラットフォームを紹介するサイトです。

長谷川さんが担当した、清水建設の「ShimzDDE」Webサイト

長谷川さんが担当した、清水建設の「ShimzDDE」Webサイト

長谷川:育休前から担当していて、1年の育休で時間が空いていたのですが、また担当させていただくことになりました。クライアントも変わらず私のことを覚えてくださっていて、弊社の営業担当も同じだったので、育休前と同じ環境に戻れるというのはすごく安心でしたし、嬉しかったです。仕事の内容や流れもわかっているので、スムーズに取り組めています。

桑原:私はTOPPANさんとコープデリ連合会さんのお仕事を復帰した時から担当しています。コープデリ連合会さんが2035年の姿を描く「ビジョン2035」というものがあり、そのビジョンを共有できるツールを製作しました。私はビジョンを象徴するつみ木のグラフィックとビジョンブックを担当しました。

桑原さんが担当した「ビジョン2035」のブック

桑原さんが担当した「ビジョン2035」のブック

桑原:このビジョンブックはちょっとユニークで、前半が絵本仕立てのストーリーパートになっています。デザインだけでなく、ストーリー全体の構成やコピーライティングも担当しました。

実は、子どもを産む前はベビーカーでエスカレーターに乗れないことも知らなかったんです。でも、子どもが生まれたことで、いままで知らなかったことにたくさん気づいたり、親の目線で物事を見ることができるようになりました。そうやって視野が広がったおかげで、この案件でいろんな提案ができて、本当に思い出深い仕事になりました。

先輩ママたちとの繋がりをつくれる場

――子どもが生まれると視点が変わりますよね。それが仕事に繋がるのは素晴らしいです。会社で特に子育てしやすいと思う環境はありますか?

長谷川:リモートワークができることはとても大きいですね。妊娠中のつわりの時も、休憩を挟みながら無理せず仕事ができました。そのお陰で、妊娠中でも置いていかれない、負担に思われることがないと感じました。育児中はとにかく時間がないので、ちょっとしたスキマ時間でも作業ができることもありがたいです。

リモートワークに関しては、コロナ禍前から試験的に運用していました。なので、コロナ禍になってもスムーズにリモートワークに移行できましたね。

桑原:働き方改革がきっかけで試験的に導入されたのですが、コロナ禍になってチャットツールやビデオ会議のアカウントもすぐに手配されました。いまは在宅ワークを廃止されている会社もあると思いますが、弊社はいまでも続けているのがありがたいですね。

――ママさん社員を集めた「ママノバ」というコミュニティが社内にあるそうですが、具体的にどのようなことをされているのですか?

桑原:月に1回、基本はオンラインでざっくばらんに話すコミュニティです。チャットツールにママたちが集まるスレッドがあり、「産休に入ります」「育休から復帰しました」などの報告をすると「頑張れ!」ってスタンプでアクションしたりしています。先輩ママたちがいるから安心できますし、子育てに100%正解はないので、「うちだったらこうしてるよ」とアドバイスをもらったりもしています。

月1回開催されるオンラインの様子

桑原:来年、会社が65周年を迎えるので、それに向けてファミリーデーをやってはどうかという企画も上がっています。子育てだけでなく介護などに対しても、多様な働き方の要望や提案、制度の使い方などがわかるブックをつくるのはどうかという話もママノバから出て、会社に提案したりもしました。

――それは心強いですね。ちなみにいまは何人くらいのメンバーがいるんですか?

桑原:19名で女性だけです。個人的な希望としてはパパも入ってほしいですね。パパがママと同じだけ育休を取得している事例がまだ少ないのもあって、いまはママだけなのですが、特に若い人たちは男女関係なく仕事も子育てもしたいと考えてる人が多いと思うので、今後は増えていってほしいと思います。

――そうですよね。とはいえ夫婦どちらも仕事を抜けられない時もあると思うのですが、その時はどうされていますか?

桑原:祖父母たちにお願いすることもありますが、ちょっと離れたところに住んでいるので、本当に急ぎの時は友だちに頼んだこともありました。

長谷川:私は義母にお願いすることが多いです。義母も働いているので、すぐにお願いするのは難しいですがすごく助かっています。

桑原:あとは、ベビーシッターの補助金を自治体や会社が用意してくれているので、それを使ったこともあります。区によって制度が異なったり、事前準備が必要だったりしますが、意外と子育てに関する自治体のサポートがあるので、そういうものを知っておくだけで安心感がありますね。

当メディアを運営するJDNがある、東京都千代田区内に在住する方を対象にした補助金制度(千代田区公式サイトより)

当メディアを運営するJDNがある、東京都千代田区内に在住する方を対象にした補助金制度(千代田区公式サイトより)

子育てに限らず、協力し合える体制づくり

――ほかにも仕事と子育てを両立していくために工夫されていることはありますか?

長谷川:家事をいかに短縮するかを考えて、エアコンを全部同じ機種にして、アプリで一括管理できるようにしたり、Amazon Alexaでテレビの電源を操作したりとIOT機器を投入して家事を短縮しています。リモコンの電源1つでも家事がショートカットできると本当に助かるんです。

桑原:私も食洗機やロボット掃除機、乾燥機付き洗濯機などの“新三種の神器”でとても助かってます。あとは、夫との情報共有をこまめにするようにしています。急にお願いとなると困ってしまうので、どちらかしかできないことが極力ないように心がけています。おむつ交換や寝かしつけ、病院に連れていくのでも、赤ちゃんの頃から一緒にやっていて、急にどちらかがワンオペになっても大丈夫なようにしています。

仕事に関しても、育休に入るのがわかったタイミングで1人サポートをつけてもらって、仕事の内容全体を把握できる人がもう1人いて、ちゃんと引き継ぎできる状態にしていました。これは子育てに関係なく、体調不良だったり、突然何かがあるってこともありますし、やはり1人で仕事を回していくと精神的にも辛くなってくるので、個人的には2人体制がいいのかなと思っています。

長谷川:本当にそうですね。私たちのチームも担当を極力2人体制で整えるようにしています。子育てに限らず、介護している方もいて、家庭の都合で仕事ができなくなっても、お互い様で理解される環境なので仕事がしやすいです。

――仕事の情報共有はどんなツールを使っていますか?

桑原:私は自分の仕事をクラウドストレージサービスの「Box」に全部入れています。日付順に並んでいるので、最悪、急に私がいなくなっても、ここに1番新しいデータがあるとわかるようにしていますね。

あとは、1日で100%まで仕上げる人も多いのですが、私はまったく手を付けていない状態だと不安になるので、納期まで時間があっても少しずつ手を付けていますね。子どもが生まれてからは、子どもが突然病気になったりすることもあるので、その傾向はさらに強まった気がします。

たきコーポレーション インタビュー画像

長谷川:チームでのタスク管理や案件などに、視覚的にわかりやすい「Miro」を使うことが多いです。アプリやWebサイトのデザイン制作では、「Adobe XD」や「Figma」を使っています。どのツールもクラウドやオンライン上で同時に作業できるので、急に仕事ができなくなっても、チームですぐに引き継いで作業できる体制が整えられています。

お迎えに行く時間は決まっていてリミットがあるので、そこまでにどこまで作業できるかが勝負ですね。クライアントからは夕方に修正内容が返ってくることが多く、これからだぞっていうタイミングでお迎えに行かなければならず、寝かしつけが終わった後に仕事をすることもありますね。でもまだ1歳なので夜泣きもあったり……。

桑原:わかります。でも1歳児ってすっごい可愛いですよね。子どもはすぐに成長しちゃうから、その瞬間を楽しみたいですよね。

長谷川:時間に追われて気づけば眉間にしわが寄ったままで過ごすことがないように、子どもの可愛さを十分堪能できる心の余裕も大事かもしれませんね。

たきコミュニケーション家族写真

PROFILE
株式会社たきコーポレーション
グラフィック・デジタル・ブランディング・UI/UX・動画、スチール撮影制作部門をもつ、国内最大規模の制作プロダクション。1960年の創業以来、グラフィックデザイン主体に多くの広告制作に携わる。2021年3月よりグループ会社を合併、新たに社名を株式会社たきコーポレーションとし、現在約250名を超えるクリエイターが在籍している。

長谷川真歩 (UIデザイナー)

新卒でたきコーポレーションに入社し、Webデザイナーとして10年の経験を積む。2度の育休を経て、現在はUIデザイナーとしてアプリやWebサイトのデザイン制作に従事。

桑原詩織 (チーフデザイナー)

多摩美術大学彫刻学科修士課程を修了後、ブランディングデザイン会社での経験を経て、2018年にたき工房のCI/VI専門チームに参加。ロゴデザイン、サイン計画、パッケージデザインからアプリケーション、ガイドラインの制作まで、幅広い領域で活動。近年では、趣味の映画鑑賞を通じて培った視点を活かし、動画制作やブック、Web、ビジュアル制作にも力を入れている。ブランドの理念を深く理解し、ファンをつくることを意識したディレクションを心がけている。