公開日:2022/08/30
1890年に創業し、オフィス家具の製造・販売からはじまり、オフィスの空間デザインや働き方の提案をしている株式会社イトーキ。現在は“明日の「働く」を、デザインする。”というミッションステートメントを掲げ、それぞれの企業の成長や社員の生産性を向上できるようなオフィス空間を提案しています。
そんなイトーキの空間デザイナーは、日々どんなカルチャーの中で働き、どのような案件に携わっているのでしょうか?ワークスタイルデザイン統括部所属のデザイナー・大熊隆司さん、槌田美紀さん、神保裕之さんの3名にお話をうかがいました。
——はじめに、皆さんの入社時期とチーム内での役割を教えていただけますか。
大熊隆司さん(以下、大熊):私はアメリカの学校を卒業後、12年間アメリカの設計事務所に勤務してから2014年に帰国し、2019年にイトーキに中途入社しました。現在はデザイナーとして活動しながら、第2デザインセンター4ルームの室長も務めています。
第2デザインセンターは首都圏を中心とした案件を手がけるグループで、現在5つのルームにデザイナーが数名ずつ所属しています。ルーム間の垣根は低く、ルームをまたいで1つの案件に取り組むことも多くありますね。
槌田美紀さん(以下、槌田):私は2008年に新卒でイトーキに入社しました。現在は第2デザインセンター5ルームに所属しています。5ルームはほかのルームに比べて少し特殊で、クライアント案件もこなしながら、新しいマテリアルを作ってみたり、外部の事業者と協業したりと、比較的チャレンジングな業務に積極的に取り組んでいます。
神保裕之さん(以下、神保):私は2020年に新卒で入社し、3年目になります。所属は、第2デザインセンター2ルームです。
入社直後は先輩について行動することが多かったのですが、2年目の後半から小規模なオフィス案件をメインで担当するようになりました。200~300人の中規模案件にサポートとして携わる機会も多く、直近では1000人規模のオフィス案件に関わり、刺激的な日々を送っています。
——みなさんはなぜイトーキに入社したのでしょうか。志望理由を教えてください。
大熊:社員の人柄がとても良いと感じたからです。空間デザインのようにクリエイティブな業界には明確な評価軸がないため、良いと思うものが人それぞれで異なります。だからこそ、お互いを尊重して認め合えるような方々と仕事ができれば、その意見の違いを超えて、さらにクリエイティブでお客様にとって良い提案ができるのではないか、と考えていました。
実はイトーキの営業担当者とは前職の設計事務所時代から関わっていたのですが、さまざまなメーカーの中でもイトーキ社員の「人の良さ」が印象的だったんです。その後、タイミングよくお声がけいただいたこともあり、入社を決めました。
槌田:私は大学の建築学部で構造系を専攻しており、デザイン系は「ひとまず受けてみようかな」といった軽い気持ちで応募しました。しかし実際にイトーキの方と面接したら、いろいろと話が弾み、居心地が良さそうだと感じたので入社しました。
神保:私も「人」で選んだ部分が大きいです。イトーキ自体は以前から知っていて、大学の会社説明会で話を聞いた後に面接を受けました。面接は柔らかな雰囲気の中で話が進み、「自分のことを知ろうとしてくれている」と感じられて、あたたかな社風が垣間見えた気がしました。それで、自分もこの環境に身を置いてみたいと思ったんです。
——空間デザイナーの仕事内容をくわしく教えてください。
大熊:デザイン案件は「コンペ案件」と、お客様からの依頼を受けて進める「推進案件」の2つに大きく分かれます。手がけるジャンルは、オフィス空間や医療施設、教育施設、公共施設など多岐にわたります。
たとえばオフィス空間の場合、まずはお客様の要望や今の働き方をヒアリングし、コロナ禍など最近の状況も踏まえながら、イトーキの強みである「次の成長へと結びつく働き方が実現できるオフィスデザイン」に向けて、お客様とディスカッションをしながら進めていきます。こうしてでき上がったデザインが承認されたら、実際に工事がスタートするという流れです。
コンペ案件は、お客様の要望に合わせて提案を練ってプレゼンを行い、複数の候補企業の中から選ばれることが第一関門です。その後、受託できたら、推進案件として進めていきます。コンペ案件はお客様の要望や現状をじっくりとヒアリングできないため、提示された情報から、いかにお客様の考えていることを吸い上げ、具現化し、アプローチするかを大切にしています。
推進案件の多くはリピートのお客様です。「また大熊さんでお願いします」と言われると嬉しいですし、デザイナー冥利に尽きますね。
——近年のお客様のニーズは、どういったものが多いのでしょうか。
大熊:最近はコロナ禍の影響でテレワークが当たり前になり、オフィスの縮小や移転、サテライトオフィスの設立といった相談が増えました。その中で「どうすれば社員同士のコミュニケーションがもっと活発になるのか?」と悩んでいるお客様も多く、コミュニケーションの活性化に繋がるような提案を求められることもあります。
イトーキの強みのひとつは「Activity Based Working(以下、ABW)」という働き方を実現するオフィスの知見を持っていることです。それを生かして、それぞれのお客様に適した働き方を提案する機会も多いですね。
——入社3年目の神保さんは、これまでにどのような案件を手がけてきましたか?
神保:初めてコンペ提案から竣工まで一連の流れに携わったのは、大手電機メーカーのオフィス改修プロジェクトです。6年かけてワンフロアずつ改修を行っていく長期案件で、固定席のあるオフィスではなく「社員同士がコミュニケーションを取りながら働けるオフィスにしたい」という意向があり、その考えに合うような空間を提案しました。
神保:現状は1つ目のフロアが終わり、2つ目のフロアの計画が始まった段階です。1つ目のフロアは経験豊富な先輩と二人三脚でスタートし、計画がある程度固まった段階で私が主担当者となって進めていきました。その経験を生かし、2つ目のフロアは計画段階から私がメインで担当しています。
全部で6年かかる長期案件のため、理想とされる働き方は時とともに変わっていくと思いますが、新しいオフィスで働く社員の方にしっかりとフィードバックをもらいながら、その時々の「新しい働き方」に敏感でいたいと考えています。
——イトーキで働く魅力を教えてください。
大熊:イトーキは社長も含めてとてもフランクで、チームメンバーに限らず、話しやすさや居心地の良さを感じます。私はアメリカで12年ほど働いていましたが、その頃に近い感覚ですね。とても業務が進めやすいです。
また、創業132年と歴史の長い会社ですが、その歴史は大事にしながらも、新しいカラーを積極的に取り入れていこうという精神がありますね。
槌田:通常業務以外でも、デザイン力を高めるためにメンバーがやってみたいことをあげれば、新しいことにも挑戦させてもらえる環境であることも魅力のひとつです。その中で生まれたモノ・アイデアが実際の物件で実現できていく面白さも感じています。
それから私は時短勤務中のため常に時間との戦いで、デザインを練り上げていく際に「もうこれでいいかな…」と折れそうになることもあるのですが、そのたびにチームメンバーに気持ちを引き上げてもらっています。それも組織内のフラットな関係性があればこそだと思います。
神保:私は、若手であってもやりたいことや携わりたい案件に挑戦できる環境にやりがいを感じています。また、デザイナーとしての「自分のカラー」をどう表現しようか悩んでいるときも、先輩や上司がそれを否定せずに相談に乗り、デザインの実現までサポートしてくださるので、「自分の意見が形になっている」という実感もやりがいにつながっていますね。
——業務の中で、特に大切にしていることはありますか?
大熊:メンバーとのやりとりの中で「尊重」と「感謝」を感じる機会が多いと思っています。そして各人のデザインや行動を尊重しながら意見を言い合えるので、結果的に良い提案やクリエイティブに結びついていると感じますね。
また、ある部分が得意な人がいればその人に任せる、その人は期待にきちんと応える、わからないことがあれば相談に乗るといった、各人の役割分担やコミュニケーションが適切に成立しています。チームでひとつのものを作り上げやすい環境です。
——御社では2018年に、首都圏に分散していた4つの拠点を集約・移転し、本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK」を開設されました。「ITOKI TOKYO XORK」のコンセプトや開設意図などをお聞かせください。
大熊:自社の強みでもあるABWを日本で初めて本格的に導入したオフィスが「ITOKI TOKYO XORK」です。ABWはオランダの企業であるVeldhoen+Companyが最初に提唱した働き方で、イトーキは同社とパートナーシップを結び、この考えを提案に取り入れています。まずは自社で実践し、社員が体感しようということで「ITOKI TOKYO XORK」が開設されました。
大熊:ABWの考え方を取り入れたオフィスでは、「個人で集中作業を行う」「みんなでアイデアを出しあう」といった10項目の活動内容に応じて、最も生産性が高く働ける場所が選択できます。人の動きが多い中央にある内階段の周囲が人とワイワイ話せるエリアで、そこから離れるにつれて静かに集中できるスペースになっています。
——槌田さんは、2022年の「ITOKI TOKYO XORK」12階の改装にあたり、デザインを担当されたそうですね。どのような点を意識しましたか?
槌田:まず12階の改装に踏み切ったのは、コロナ禍を経て働き方が変化したことや、開設当初よりも会社全体にABWが浸透してきたこと、京橋にあったオフィス家具のショールームを統合する必要があったことが背景にあります。
今回の改装で目指したのは、これから働き方がどんどん変わっていく中で、レイアウト変更に対応しやすいオフィスにすること。加えて、テレワークが多い働き方にも準じて、会社に来る意味を改めて考えてその具現化を目指しました。細かなレイアウトや席数などは社内で働き方のアンケートを取り、Veldhoen+Companyの資料も参考にしながら決めていきました。
槌田:また、社外のクリエイターとのコラボレーションにも力を入れ、サインや照明、壁面のアートなどは外部クリエイターの意見を取り入れています。そういった協業の成功は改修プロジェクトの“裏テーマ”でもありました。
——「ITOKI TOKYO XORK」で働くようになり、どのような変化がありましたか?
槌田:オフィスでは、デザイナーだけでなくさまざまな職種の方が働いているので、オフィス内で意外な出会いがあります。歩いていると「そういえばあの話をしたかったんですよ」と、話しかけられることもありますね。
大熊:新しいオフィスになってから、自然に雑談が生まれやすくなったと感じます。元々デザイナー同士の壁はかなり低いのですが、新しい空間によってさらに雑談が生まれやすくなりました。
最近はコロナ禍で人と会う機会がめっきり減りました。だから「意識的に会社で会い、ふとした雑談から生まれる視点を大事にしよう」と、デザイナー同士でもよく言っています。
——デザイナーは「忙しい職種」だと思われがちですが、実際はどうでしょうか。
槌田:「デザイナーが育児をしながら時短で働くのは大変」というイメージがあるかもしれませんが、イトーキには産休育休からの復帰者や、時短勤務でも責任を持って働く社員がとても多いんです。私が産休育休を取るときも、すでに前例があったので取得しやすかったですし、時短勤務での復職も特にためらいはありませんでした。
最近は、男性の育休取得者も多い印象です。デザインセンターの男性部長が育休を取得したこともあり、休みやすい雰囲気があります。
大熊:土曜日に社員が自分の子どもを会社に連れてくる「職場見学イベント」もありますね。社長も家族を連れてきますし、子どもが自作の名刺を社長と直接交換する企画もありました。
――現在、御社では3職種(空間デザイナー、グラフィックデザイナー、CG制作)を募集されています。募集にいたった経緯と、どのような方と一緒に仕事をしたいかイメージを教えてください。
大熊:弊社は『ポストコロナの「働く環境」づくりをリードする』を掲げています。今後、より企業の働く環境づくりに貢献するため、デザイン部門の強化と、大型コンペでの競争力向上および生産性向上のため、今回3職種を募集するにいたりました。
採用サイトにも掲載していますが、求める人物像である、「“いま何をすべきか”を自ら考え、周囲を巻き込み、最後までやりきること」ができる方に来ていただきたいです。
——最後に、ご自身の将来の展望を教えてください。
神保:フリーアドレス制やABWなどさまざまな働き方が出てきましたが、個々人に合わせた働き方を実現するためには、選択肢がまだ足りていないと感じています。私たちは「働く」をデザインしているので、今後はさらに多様な働き方の選択肢を提示していきたいです。
槌田:私は2021年に育休から復帰し、現在は時短勤務で働いていますが、そうした働き方でも多くの案件を主担当者として進めていきたいと思っています。また、社外の事業者やクリエイターと協業する機会も増えているので、さまざまな人を巻き込みながら、さまざまな空間をデザインしていきたいです。
大熊:空間デザインは、その中で働く人々の気持ちを豊かにするなど、実は大きな力を持っていると思っています。一個人では大きな湖に小さな石を投げ入れた程度の影響しか与えられないかもしれません。でもそれが波紋として広がっていき、デザインから環境や社会を変えていって、人の喜びに貢献することができたら、デザイナー冥利に尽きるのではないかなと……ちょっと壮大すぎましたが(笑)、まずは今ある案件に真摯に向き合い、目の前のお客様の働き方をより良いものに変えていけたらと思っています。
2019年に株式会社イトーキに入社。12年間アメリカにてオフィス設計業務、帰国後8年間同じくオフィス設計業務に従事する。大規模から小規模案件まで幅広く参画し、アメリカでの経験値、設計事務所時代の知見を生かしさまざまな提案をする。イトーキ入社以来デザイン設計部門に所属し、現在室長として6名のデザインメンバーを取りまとめると共に設計業務に従事する。
2008年に株式会社イトーキに入社。以降、九州大学伊都キャンパス、株式会社さんびる本社新築プロジェクト、株式会社リンクアンドモチベーション本社移転プロジェクトなどに携わる。2022年にはイトーキの本社オフィスである「ITOKI TOKYO XORK」12階の改修を担当する。
2020年に株式会社イトーキに入社。以降、住商マリン株式会社移転プロジェクト、パナソニックリビング株式会社移転プロジェクト、富士通株式会社沼津工場改修プロジェクト、株式会社日建設計総合研究所改修プロジェクト、三菱電機株式会社情報技術総合研究所改修プロジェクトなどに携わる。