堀内果実園
文:高野瞳 取材・編集:堀合俊博(JDN)

公開日:2022/03/10

働き方インタビュー PR

奈良県五條市に根差したストーリーを発信する、堀内果実園のブランドづくり

堀内果実園

堀内俊孝 代表取締役

中上祐花 デザイナー

奈良県五條市にて、明治36年から果実づくりを続ける「堀内果実園」。柿や梅といった果実の生産から、コンフィチュールやシロップなどの加工品の製造・販売、さらに直営店・カフェの運営など、6次産業を展開するブランドとして成長を続けています。

果実本来の自然なおいしさを伝えるものづくりはもちろん、パッケージやWebサイト、直営店の空間デザインなど、さまざまな外部クリエイターともにブランドの世界観を表現したクリエイティブを展開していることも、堀内果実園の大きな魅力です。代表取締役を務める堀内俊孝さんとインハウスデザイナーとして働く中上祐花さんに、堀内果実園の果実づくりやブランド観、そして地元・五條市の魅力を発信していきたいという今後の展望についてうかがいました。

明治36年創業の果実園から、6次産業のブランドへ

――堀内果実園の事業内容についてお聞かせください。

堀内俊孝さん(以下、堀内):堀内果実園は、奈良県西吉野村で明治36年に創業しました。私で6代目です。吉野は、吉野山の千本桜や吉野杉で知られていますが、もともと柿の産地でもあるんです。私たちは代々柿を中心に栽培してきましたが、2013年に法人化し、いまでは柿をはじめ、梅やすもも、かりん、ブルーベリーなど、さまざまな果物を栽培しています。

――堀内果実園は、季節のフルーツ直送便として青果の宅配サービスだけではなく、あんぽ柿や柿チップなども販売されていますが、加工品の生産はどういった経緯ではじまったのですか?

堀内:加工品は、20年前から開発・販売をはじめていました。果物の旬は2週間程度で、旬のまま商品をより長く販売するためにはどうしたらいいかと考えた結果、あんぽ柿や柿チップといった加工品の製造にいたりました。販売をはじめると予想以上に好評で、その後、お客様のニーズに合わせてジャムなどの派生商品を増やしていきました。

堀内果実園の加工品ラインアップ。あんぽ柿やコンフィチュールなど、豊富な商品を取り揃える。

――果実づくりや商品づくりにおいて、大切にしていることをお聞かせください。

堀内:余計な添加物を使わず、果物本来の自然なおいしさを届けたいという思いはずっと変わらずに持ち続けています。可能な限り農薬の量を控えるなど、環境に優しいものづくりを何より大切にしつつ、果物としてのおいしさは常に追求していきたい。たとえば、糖度を上げるために微生物をどのように取り入れるかなど、毎年試行錯誤しながら新しい取り組みに挑戦し、よりおいしい果実づくりのために奮闘しています。

――堀内果実園は、ブランドロゴやパッケージ、Webサイトなどのクリエイティブを大事にされていると思います。ブランドをつくるにあたって意識していることを教えてください。

堀内:味がもちろん第一ですが、見た目の美しさやパッケージデザインも重要だと思っています。10年ほど前からブランドロゴやネーミング、Webサイト開発、商品開発など、堀内果実園のブランドをつくり上げていきました。現在も、さまざまな外部のクリエイターさんのお力を借りながら、商品が手元に届いたときにお客様がワクワクできたり、嬉しいと感じてもらえるようなものをつくりたいと考えています。

――直営店として、奈良三条店をはじめ、グランドフロント大阪店、東京では渋谷スクランブルスクエアと東京スカイツリータウン・ソラマチに出店されていますね。

堀内:おかげさまで販路は順調に拡大しています。直営店については、加工品を販売しながらも、やはりフレッシュな果物をもっと味わってもらいたいという思いがあり、徐々に準備を進めていました。2017年6月に奈良三条通店をオープンした後に、2019年3月にグランフロント大阪店、2019年11月に東京・渋谷の「渋谷スクランブルスクエア」1Fに「堀内果実園ecute EDITION渋谷店」、2021年3月には東京スカイツリータウン・ソラマチに「堀内果実園 東京ソラマチ店」をオープンすることができました。

東京ソラマチ店

東京ソラマチ店

奈良三条通り店

奈良三条通り店

ブランドづくりの当事者としてアートディレクションに取り組む

――現在の社内構成について教えてください。

堀内:正社員は14名、アルバイトも含めると約60名になります。生産、事務、メニュー開発、加工、店舗、出荷作業といった部門があり、月1回会議を行いながら意見交換をしています。繁忙期には、お互い違う部門を手伝ったりもしていますね。徐々に社員が増えたことで、柿と梅が中心だった果実づくりも、かりん担当、ブルーベリー担当など、それぞれ担当をつけて同時に栽培できるようになりました。加工も農作業の延長ではなく、法人化してからは自社加工工場を持ち、衛生管理を徹底しています。

加工品の生産は自社工場にて加工部門のスタッフが担当している

――社員にはどんな方が多いのでしょうか?

堀内:1次産業や農業系の求人サイトを見て、全国から応募してくれた人たちが中心です。おかげさまで熱心な社員が集まってくれています。他社の工場や農園に見学に行くなど、とても勉強熱心で助かっています。

――中上さんはインハウスデザイナーとして働かれていますが、どういった経緯で入社されたのですか?

中上祐花さん(以下、中上):私も、1次産業系のサイトを見て応募しました。新卒で入社して、まだ1年目です。静岡文化芸術大学でグラフィックデザインを学んでいたのですが、もともと農業に興味があったこともあって応募しました。出身は愛知県刈谷市で、入社がきっかけで奈良に移住しました。

――もともと堀内果実園にはどのような印象を持っていましたか?

中上:他の農園のイメージとは違って、アートディレクションがしっかりとされているなといった印象でした。農業と同様に6次産業化にも興味があったので、それをかたちにしていく過程や、社内でどんな取り組みをしているのかなどに関心がありました。

――現在の仕事内容を教えてください。

中上:店舗のPOPやWebバナー、商品ラベル、催事に使用するチケットなど、さまざまなデザインを担当しています。アートディレクションは社長夫婦が行っていて、私はディレクターという位置付けです。デザインだけでなく、果実づくりの業務や事務も少しお手伝いすることもあります。

――インハウスのデザイナーが組織内にいることも、堀内果実園らしさだと思います。社内のデザイナーに求めることはなんでしょうか?

堀内:ブランドをつくり上げていく中で、徐々にクリエイティブのあり方などがわかるようになってきた感覚があるので、現在はその経験を生かしながらデザインのディレクションをしています。今後も外部パートナーとお付き合いしながら、SNSの配信や動画編集など、インハウスで担う業務のボリュームを増やしていく予定です。

これからも社内でしっかりとブランドを確立させつつ、さまざまな外部デザイナーと一緒に取り組んでいけたらと考えています。すべてをお任せするのではなく、最終的にはブランドの当事者である私たちが勉強して、一緒につくりあげていかないと、ブランドは確立していかないと思っています。私たちが努力することで、東京などのクリエイターさんたちに共感してもらい、集まってきてもらえるようなブランドを目指しています。

土地に根差したブランドのストーリーを伝え、五條市に貢献していきたい

――今後の事業展開について考えていることをお聞かせください。

堀内:法人化してからの10年間、「くだものを楽しむお店」としてやってきましたが、これからは新しい10年、さらには100年を超えるブランドに育てていくためにブラッシュアップしていきたいと考えています。長く愛されるブランドになるためには、地域も巻き込んでやっていかないと続かないと感じているので、今後は堀内果実園の事業を通じて、地域にも貢献していけたらと考えています。

五條市は、果物はもちろん、養豚や小麦、米など、おいしくて質の良いものができる土地です。土地のよさを生かして新しいものにチャレンジすれば、質がいいものができるはずなんですが、現在五條市は人口が2万人ほどの過疎状態で、農業をやめていく人も多く、産業としての危機も感じています。

堀内果実園の農園がある、奈良県五條市西吉野町

堀内:私たちは、渋谷に店舗を出して認知度も上がりましたが、この五條市という土地で果実園をしていることや、この地域にどんな魅力があるのかは、まだまだ伝わっていないと感じています。五條市は飛鳥時代から続く古(いにしえ)の魅力がある。明治から続く堀内果実園が、1次産業からこの土地に根ざした農園であることを全国に伝えていきたいですね。このブランドを育んでいるこの土地や地域の魅力を、ストーリーとともに伝えていくことが大事だと感じています。

今後は五條市の農業の活性化にも取り組んでいき、この地域に人を呼び込む施策や事業を展開していければと考えています。これまで堀内果実園が得た知識や実績をもとに、ほかの農家やつくり手とのコラボレーションなどを通して、農業の活性化や地域貢献につながればと思います。そして、私たちがローカルビジネスのお手本になることで、五條市でも産業として成り立つんだということを証明したいです。

新しい拠点から五條市の魅力を発信

――堀内果実園はこれからインハウスデザイナーを募集されますが、入社にあたって移住が前提となるかと思います。五條市は住むにあたってどんな場所ですか?

堀内:住んでいるスタッフが多い和歌山県の橋本駅や奈良市の奈良駅からなんば駅までは電車で1時間ほどなので、意外に大阪や京都と近く、地の利がある場所だと思います。会社と工場は山の中にあるので、みんな通勤は車ですね。

高野山や吉野山といった温泉で有名な山も近いですし、和歌山県の白浜も近く、住みやすいと思いますね。食に関しても、奈良には三輪そうめんや柿の葉寿司など、地元に美味しいものがありますよ。

――中上さんは入社されてから五條市に移住されていますが、暮らしてみていかがですか?

中上:私は、五条駅近くにある会社の寮(ウィークリーマンション)に住んでいます。とてもいいところですよ。コンビニも近くて、スーパーもあるし。お皿や家具などなんでも揃っているので、カバン1つで来ても生活ができる環境ですね(笑)。

――最後に、今後どのような人と一緒に仕事をしていきたいですか?

堀内:これから新社屋と地域の拠点となるような農業施設を、金剛山の麓である五條市北インターチェンジにつくる予定です。令和5年に着工で、都心からそこまで遠くないので自転車通勤も可能です。この場所を拠点に、遠くからたくさんの人が訪れてくれるような、五條市の関係人口が増えるきっかけをつくれるといいなと思います。社内では今後も来年着工する新社屋をはじめ、ブランディングやデザインの方向性について議論していきたいと思っています。自分も地域づくりに参加したい、新しいアイデアでデザインしていきたいという気持ちがある人が集まってくれるといいですね。

インハウスデザイナーとして入社いただける方には、ブランドの価値感を持ちながら、ディレクターとして外部の一流デザイナーとやりとりしていただくことになると思います。第一線で活躍するクリエイターの方々とやりとりできる機会もなかなかないのでいい刺激になるはずですし、大きな学びにつながると思います。

中上:インハウスデザイナーの仕事は、デザインだけでなく、加工部門のお手伝いや事務作業、Webサイトからのご注文への対応などさまざまです。それぞれの経験をデザインに活かせることも多いので、何にでもチャレンジできる人と一緒に、今後も切磋琢磨して頑張りたいと思っています。

堀内:奈良への移住がハードルにはなると思いますが、新型コロナウィルス感染症の流行以降、家族で地方に住む人も増えています。「住めば都」と言いますし、この土地ならではの魅力を楽しんでもらえると思います。前向きにトライしてもらえる方が来てくれたらうれしいですね。

【求人情報】食農を中心としたローカルビジネスにチャレンジするデザイナー募集(株式会社 堀内果実園)

PROFILE
堀内果実園
明治36年から奈良・吉野山麓で果樹栽培を専門とした農園を営んでいる。現在は6代目が代々受け継いできた園地を守っており、より魅力的な果物を栽培できるよう日々努めている。また、果物の美味しさをそのまま味わえる、国産・完熟・無添加にこだわった加工品づくりや、『くだものを楽しむお店』をコンセプトにした直営店の運営など、六次産業化にも力を入れている。https://horiuchi-fruit.jp

堀内俊孝 代表取締役

東京の農業大学を卒業後、就農。学生時代から多くのデザイナー様と関わりがあり、そこでデザインの大切さを学んだ。農業も他業種同様に活躍できるよう六次産業化に力を入れ、2019年には地域の農業、食品産業の育成に寄与し、優れた経営体を表彰する「アグリフードEXPO輝く経営大賞」を受賞。

中上祐花 デザイナー

2021年に静岡文化芸術大学を卒業、愛知県から奈良県へ移住し堀内果実園へ入社。大学では主にグラフィックデザインについて学び、現在は直営店で使用するPOPやWEBショップのバナー、商品ラベルのデザインなどを担当している。