公開日:2024/07/29
事業会社や地方自治体などさまざまな企業・団体で求められるようになった“デザイン”。本連載では、リーフレットやチラシ、パッケージのデザインだけでなく、経営からデザイン視点を取り入れる企業や、企業の文化を育てるチームまで、多種多様な場所で価値を発揮しているデザイン組織に迫ります。
連載第1回目は、多数のアパレルブランドを全国展開する株式会社PALが運営する雑貨ブランド「3COINS」。トレンドを意識したデザイン、利便性の高いアイテムからSNSを中心に人気が広まり、ここ数年で店舗数を増やし、急成長しているブランドです。
実は3COINSの歴史は古く、2024年でブランド30周年を迎えました。3COINSが大切にしているお店づくりとは?プロモーションディレクターの林里栄子さんと、VMD担当の志知千央さんにお話をうかがいました。
——はじめに、現在のおふたりのお仕事の内容と入社の理由を教えてください。
林里栄子さん(以下、林):私は現在、バイヤーやVMDとの間を繋いだり、3COINSでのビジュアルに関することすべてを担当しています。
中途採用で入社したのですが、以前は制作会社のデザイナーとして働き、何社か経験をしています。有名ブランドの案件を担当した経験もありますが、大きな案件になればなるほど多くの人が関わるため、なかなかクライアントのその先のお客さまにブランドのコンセプトや思いを届けられているかが見えにくい部分がありました。
もっとダイレクトにお客さまの反応が見える仕事をしたいという思いから、3COINSに転職をしました。もともと3COINSが好きで、はじめて一人暮らしをする際にインテリアを3COINSでそろえるほどでした。
志知千央さん(以下、志知):私は高校生の時から3COINSの店舗でアルバイトをしていて、2019年に社員になりました。現在は、店舗のディスプレイなどを飾るVMDを担当しています。
社員になり店舗運営をしていく中で、どのように“棚”を打ち出したらかわいく見えるだろうか、お客さまに商品の魅力を伝えることができるだろうかと考えるのが好きで、社内でVMDを募集するタイミングがあったので応募しました。
——VMDに配属された時に、会社からどんなことを期待されましたか?
志知:スピード感をもって仕事をすることです。例えば、売れている商品をいち早く察知して、もっと売るにはどうしたらいいのか考えることですね。これは店長を務めた経験がすごく役に立っています。
林:3COINSはおよそ4週ごとに商品が切り替わるほど、回転が早い上に商品量も多いんです。アクセサリーも含めると1カ月に700から800点の新商品が発売され、メイン企画のディスプレイは2週間に1回のペースで切り替わります。
まず私たちの商品は、商品の企画内容が起点になるので、バイヤーが考えた企画意図を汲み取り、「パッケージはこうだから店頭のビジュアルはこうしていこう」や「VMD的にはこういう見せ方をしていきたい」などのすり合わせをしていき、最終的な店頭展開を決定していきます。
——数週間で商品が変わるとはいえ、売れた商品は定番化すると思うのですが、それはどのタイミングで決まるのでしょうか?
林:パラソルや水鉄砲などの季節でしか売れないものは、やはり店頭に並ぶ期間は短いですね。一方で通年で使えるキッチンアイテムだったら、月曜日に発売して水曜日までの売上げでリピートするかどうかを決定しています。
——こういったスピード感があるブランドは多くないですよね。
林:はい。スピード感も大切ですが、トレンドをキャッチする能力も大事ですね。トレンドをすぐに取り込み、すぐに商品化する。ほかのインテリア雑貨ブランドでは、ベーシックなものを長く使うというコンセプトもあると思うのですが、3COINSはトレンドをすぐに取り込むということが、強みかなと思います。また、「手に取りやすい価格なのに、こんなにいいものが買えるんだ」と思えることを大切にしています。
——3COINSといえば、“くすみカラー”やトレンドの色味を使用しているイメージがありますよね。
林:商品の色もバイヤーの判断ですね。ただそれを実現できるのはメーカーの力が大きいです。バイヤーが思い描くような色やデザインを、うまくメーカーが表現をしてくれています。
海外で「これは需要がありそう、便利そう」というアイテムを見つけることもあるのですが、果たしてそのままの状態で3COINSのお客さまに手に取っていただけるのかということもあり……。それが数ヶ月後に店頭に並ぶ時には“スリコカラー”になって売られていたりもする。そういう意味では色を変えるだけでこんなに変わるのか、という驚きがあります。
——今回お邪魔しているフラッグシップストアの3COINS 原宿本店(以下、原宿本店)は、ほかの店舗と印象が違いますね。
林:数年前まではコアなお客さまは20代前半の女性だろうと、そのターゲットに向けたブランドづくりをしてきていました。ただ、リブランディングをしはじめたタイミングに改めて調べたら、20代後半から30代ぐらいの女性が多かったんです。そこで、そのターゲットに合せて、以前はピンクと黄緑のストライプでかわいい雑貨屋さんというお店づくりをしていたのを、大人の女性にも“自分に合ったものが買えるお店”という見せ方に変えていきました。それから、男性を含めた幅広い層のお客さまにももっとご来店していただきたいという思いから内装や商品企画を少しずつ変えています。
私が内装を担当しはじめた、2020年頃から老若男女問わずお店に入っていただけるような内装にしていて、5割以上がリニューアルされています。そのような中で、自分たちが1番やりたいことを表現できる店舗をつくりたいと思うようになり、2021年に本社の1階にフラッグシップストアとして原宿本店をオープンしました。
原宿本店の内装デザインは、SUPPOSE DESIGN OFFICEの谷尻誠さんにお願いをしました。ほかの通常店舗はブランドカラーの緑を全面に打ち出していますが、原宿本店では什器の色や床、エントランスの天井の中に植栽を施すことで、緑を取り入れています。内装も含めて、お客さまに私たちはこう見られたいんだということを表現できるようなお店づくりにしています。
林:社内には根っからの3COINS好きが多いので「3COINSってこういうものだよね」という思いもあり、それがいいときもあれば、新しい風が入りにくい場合もあります。谷尻さんが入ったことによって、いままでの3COINSとはさらに違った内装デザインにしても“スリコらしさ”が出るんだと勉強になりましたね。
志知:いままでは陳列をベースにただ商品を並べていることが多かったのですが、ソファを置いて生活のシーンを演出するスペースをつくっています。陳列で商品をひとつでも多く置くというよりも、お客さまにワクワクしてもらうようなスペースを設けるなど、空間自体も楽しんでもらえるようにしています。
林:原宿本店では店舗入口にメインのディスプレイコーナーを設けています。一方で、大きい商業施設にはウインドウディスプレイがなかったりするので、店舗の入口にメイン商材を魅せるテーブルを置いて、その上でどんな演出をするかをVMDチームと考えています。
志知:そのディスプレイは本当に力の見せどころで、お客さまがそこで立ち止まっているところを見ると嬉しいですね。以前、ハロウィンのディスプレイを担当した際に、「ディスプレイの商品全部買います」というお客さまがいらっしゃって。そういう反響がモチベーションにつながっています。
大阪と東京のデザイン会社にて、様々なブランドや、企業、商業施設の広告、販売プロモーションのデザイン制作に携わる。その後、アートディレクターとして、店頭販促だけではなく店舗、イベントの空間デザイン、WEB、プロダクトなど様々な分野のクリエイティブを手がける。2020年から3COINSのリブランディングに伴うデザインディレクションに関わる。
2015年にアルバイトとして入社。2019年に社員登用後、店長として2店舗の新店立ち上げ等を経験し、約4年間勤務。2020年にVMDとして本部所属となり、商品展開やディスプレイ作成などを担当。