公開日:2019/12/06
――伊延さん、二口さんがCURIOSITYに入社した経緯について教えてください。
伊延信哉さん(以下、伊延):ここに入る前はデザイン事務所でずっとインテリアデザインをやっていて、13年前にCURIOSITYに入社しました。いまはニコラがやりたいことをどう具現化するのか、どうすればよく見せることができるのかなどを考える立場として働いています。
グエナエル・ニコラ(以下、ニコラ):うちは基本的にみんなデザイナーなので、ディレクションだけするような、トップダウンなディレクターはいません。伊延は、プロジェクトに無駄がないようにどう進めるのかをプランニングしていますね。
伊延:CURIOSITYに入りたいと思ったのは、ニコラの作品やプロダクトを見て、コンセプトにすごく感銘を受けたんです。かっこいいものをつくるデザイナーはたくさんいるけど、機能性が軽視されていることが多いなと当時感じていて、ニコラの考え方が新鮮だなと思ったんです。
たとえば椅子の場合、背もたれの角度が人間工学に基づいてつくられていたり、先人たちの研究によってつくり上げられた機能性というものがあります。ニコラは、それ以下のものをつくるなんてデザインじゃないと考える。既存のものよりも機能性を高めるか、既存のものをそのまま使うかの二択なんです。
見た目がかっこよくなるからといって、背もたれを垂直にするような、機能性を無視したデザインをしてはいけない。そんな考え方に感銘を受けました。入社してからもそれは特に感じます。かっこよければいいなんてことは決してないですね。
二口真理子さん(以下、二口):わたしは入社してちょうど1年が経ちます。前職でも内装やインテリアのデザインをしていて、CURIOSITYのデザインを勉強したくて入社しました。ブランドの価値を高めるニコラさんのデザインに惹かれたんです。たとえば、ブティックなどの店舗をデザインするときには、空間に合わせた家具もデザインするような、ブランドの商品が映える空間をどうやったらつくることができるのかなど、トータルコーディネートについてもっと学びたいと思いました。
入った当初からニコラさんに繰り返し言われてきたのは、「いろんなデザインを見るのは大事だけど、見すぎないほうがいい。CURIOSITYのデザインを勉強してほしい」ということ。CURIOSITYのデザイナーとして働くことは、まず根本のフィロソフィーを理解していないとできない思うので、今はそれを身につけるために日々勉強をしています。
ニコラ:うちはデザインコンサルタント会社ではなく「アトリエ」です。会社とアトリエの違いはフィロソフィーがあるかないか。だから、常に新しいクリエイションを提案しないといけない。そのためには情報のシェアと、パッションが大事です。デザインが好きなのと、デザインができるのは違うじゃない?いまという時代の情報をあつめて、nextを考えて、アイデアを提案すること。CURIOSITYのフィロソフィーをシェアするには時間がかかるので、半年から一年、仕事を通して知ってもらいます。
――プロジェクトはどのように進めていますか?
ニコラ:最初にわたしのやりたいこと、opinionをみんなに説明します。そこから、機能性などを考えながら「この方法でやれば、こういう可能性があるね」と具体的なプランを立てていきます。ブレインストーミングはほとんどやりません。デザイナーの仕事は考えることじゃなくて、決めることだからね。そして可能性を探ること。決まった時間、お金でどこまで可能性が広げられるのかというリミットを探るんです。
そういうプロセスを経て、提案したプランをリセットすることもあります。「1回これに決めたけど、やっぱりこっちはどうかな?」みたいにね。クライアントがOKを出したから終わりじゃなく、今のベストはなにかを常に考えてる。
「昨日はこう言ってたのに、なんで変えるんだ」と言われるけど、昨日の情報と今日の情報は違う。毎日変わっていくじゃない? 自分で見て、理解して、新しい提案をする、そのダイナミックさは大事です。うちは時代に合わせるんじゃなくて、時代をつくる会社だから。そのためにもフィロソフィーを理解しないといけないんです。
それからCURIOSITYで特徴的なのは、普段からリサーチや、興味のあることを実験して、素材をつくったり実験していること。クライアントからの依頼がきたら、そのなかから活かせそうなものを組み合わせていきます。
伊延:プロジェクトも研究も、進め方としては一緒ですね。案件としてプロジェクトを進めるなかでアイデアが出て、そのときはできなかったとしても研究は止めない。
ニコラ:プロジェクトに合わせたスタディでは遅いんです。たとえば10年ほど前に、提案したけど技術的に実現できなかったプロダクトがあったんですが、その時はそれがいちばん正しいアイデアだと思ったんです。最近それに似たものが世の中に出たんですが、そういうのってすっごく悔しい。idea based on reality(現実に即したアイデア)では意味がないんです。いまもガラス素材の開発をしていますが、それには2年ほどかけています。10年後のプロジェクトのために、いまからそういったことをはじめているんです。
二口:入社したばかりの頃は、こういった進め方におどろきました。でも、研究を活かしてつくり出した驚きやサプライズはすごく大事だし、インパクトのあるものだと思っていて。自分がアイデアを出すときも、そういうことを意識しないといけないなと思いました。
ニコラ:アイデアに対して「これはできますか?」「無理です」を繰り返して、データや素材をたくさんストックしてる。そこにたまたまクライアントが来て、「これいいじゃん、使いましょう」となるんです。たとえば3年ほど前にARの研究を始めたんですが、それを去年施工した店舗デザインに使いました。
プロジェクトの期間は短いので、先に用意をしておかないと、新しいことはできないんです。だから普段からいろいろやりたいことを実験して、素材やプロダクト、ファニチャー、オブジェなどをたくさんつくっておいて、プロジェクトが来たらそれらをコネクトする。テクノロジー、クラフトマンシップ、マテリアル、プロダクトデザイン、グラフィックデザインなど、うちはアイデアだけじゃなくてそういったアセットが財産なんです。
伊延:ニコラは、見たことがあるものは好きじゃないですもんね。
ニコラ:デザイナーの責任は、新しいものを提案すること。そうしないと、なんのために仕事してるのって感じでしょ? レストランに行って「このお皿きれいだけど、きのう行ったレストランと同じだな」とか……それは、デザイナーが頑張ってないということじゃない? 流行に対してミーハーな気持ちをもつことはわかるけど、デザイナーとしてはサプライズをしたい。それは見た目を派手にするという意味じゃなくて、ちゃんと料理とマッチしているかが大事。たとえばワインだったら、シャルドネとボルドーとピノ・ノワールが同じグラスで出てきたら、なんで同じなの?って思うじゃない。料理とお皿の関係もそれと同じです。
――印象的なプロジェクトについて聞かせてください。
ニコラ:今年竣工した、中国のブランド「HIPANDA」のOMOTESANDO FLAGSHIP SHOPはインテリアデザインの仕事だったけど、デザインや具体的な素材の話は1回もしなかった。
伊延:HIPANDAのプロジェクトは、クライアントがニコラに頼んでいるという前提があるので、ほかとはプロセスが違いました。もちろんプランはありましたけれど、打ち合わせでは詳細な説明はしていないですね。先方も、そこに関心があるわけではありませんでしたから。
ニコラ:これがベストでしょうと思うものを提案したら、即OKという感じでしたね。ミーティングでは、HIPANDAがどういうブランドかという話や、クライアントがニューヨークで見たアーティストの展示がおもしろかった話とか、そういったことをクライアントが私たちにインプットするだけ。その後、プレゼンテーションのときは毎回違うデザインを出していました。
1回決めたものを変えるとなると、普通の会社だったらパニックになる。でも、この案件ではどんどん変えていけた。私はクライアントをrespectして、クライアントが話したことはちゃんと聞いて、ディスカッションしているので。ポイントはrespectですね。
伊延:こちらがプランを変えてもクライアントは無条件で容認していたので、その分のプレッシャーはすごくありましたね。失敗できないし、絶対に結果を出さないといけないので。
ニコラ:あと印象的なのは、MONCLERのドバイ店。すごいかっこいい石のファザードをつくったので、社長がシンガポール店も同じデザインにしたいと言ったんです。でも、ドバイ店とシンガポール店ではコンセプトもオープン時期も違うので、まったく異なるデザイン案を出しました。そしたら社長が「月曜日まで時間をください」って。わたしたちはその間に精巧な模型を作って、彼のデスクの上に置いておいたんです。それを月曜の朝に彼が見て「すごい。これでいきましょう」って、それで決まりでした。
伊延:たとえば3日後にオリエンテーションをやりましょうというときでも、もうデザインをつくって持って行きます。オリエンするといろいろと決まってしまうので、先に僕たちなりのアイデアを出す。そのスピード感はすごいと思います。MONCLERのプロジェクトでも、ドバイ店の引き渡しのときに次の物件のデザイン案を見せましたからね。その時点では、広さとかもまったく決まっていませんでしたけど(笑)。
ニコラ:普通のプロジェクトではゴールがあるけれど、ゴールを達成するのは意外と簡単。ゴールと時間をなくせば、可能性はinfinityでしょ?どこまでいけるかなんて決めなくていいじゃない。知らないことを見つけて、やれる可能性があるなら、それをしないのはもったいない。あと、クライアントのOKをもらうためにやりたくないことをやるのも正しくない。やりたくないものなら、極論その仕事をもらえなくてもいいんです。自分が思うクライアントにとって正しいもの、ベストなものを提案したい。そのfreedomはすごく大事。
――CURIOSITYにはいろいろな国籍の人が在籍していますね。
伊延:今は30名くらいのスタッフがいて、約3分の1が外国人ですね。
ニコラ:国籍はフランス、イタリア、ベトナム、ブルガリア、中国、アメリカとさまざまですね。興味のある分野もいろいろで、デジタルやIT、素材系が好きな人もいるし、もともとデザインではなく化学系を専攻していた人もいます。
伊延:CURIOSITYはフラットなんです。アシスタントデザイナーもいなければ、チーフデザイナーもいなくて、肩書きはみんなデザイナーです。もちろん、プロジェクトチームではキャリアの長いひとが上に立つことはありますけれど、デザインを出す上ではみんなフェアなので、そのデザインがよければ採用されるし、よくなければ不採用になる。
ずっと図面を書いてるだけだったり、模型を作ってるだけということもないし、デザイン出しが3年できない、ということもない。意欲さえあればオールマイティに仕事ができるので、うちで働いていた人は独立できるんだろうなと思います。実際独立した人は多いですよ。
二口:入社してからそのフラットさはすごく感じましたね。考える機会をかならず与えてくれるんです。逆に自分の考えをきちんと持っていないと、ここにいる意味がなくなってしまうとも思います。いまの力量でも、自分の考えを出せば、それについて意見をもらえたり導いてもらえるので、すごく助けられています。
ニコラ:ここではキャリアは関係ないです。CURIOSITYに入ってから一番大事なのは、independent mind(独立心)。指示をこなすだけじゃなくて、自分で決めて、自分で仕事を引っ張っていかないと。入社して1、2週間ですぐデザインを出してもらうから、みんなパニックになりますよ(笑)。「いいんですか?」って聞かれるけど、デザイナーなんだからデザインするのは当たり前ですよね。
伊延:僕もニコラもバイアスなしのジャッジしかしないので、入社してから13年目も1年目も、外国人も日本人もみんなフラット。二口のライバルは僕だし、彼女はそういう環境で戦うために勉強が必要です。若いのにこんなにデザイン案を出してすごいね、というのもありません。
ニコラ:みんなイコールだから、アイデア出せばいいじゃんって。若者はすっごい真面目だよね。若いのになんでcrazyなアイデアを持ってないの?と思う。私たちはクライアントに実現できないものも提案します。でも、そのときはできなくても、半年後はできるかもしれない。そのときはきっとみんな超happyだよ。若者もそれくらいのマインドでやってほしいです。
――デザイナーに必要なことはなんだと思いますか?
ニコラ:日々勉強すること。すべてが勉強です。私自身も全然足りません。たとえばレストランに行って、器や盛り付けを見て「いいよね」で終わるんじゃなく、写真を撮ってリサーチをして、ノートに書く、それが勉強。情報を知っているのと、理解しているのは別なんです。ポイントは、デザイナーとしていまの時代の情報とクリエイティブプロセスのinterfaceになるということ。
あと、クライアントが中国人だったとして、中国のことを何も知らないようでは話にならないし、それって失礼じゃない?respectのために勉強しなくちゃ。うちで大事なのはものじゃなくてひとだから。
伊延:自分の興味あることだと、深くまで勉強できると思うんです。ちょっとでも興味をもったらそれを突き詰めるようにしていますね。「このプロジェクトのために勉強しよう」としてしまうと、結局つまらなくなってしまったり、そのプロジェクトが終わったら止まってしまったりする。だから、自分が好きなものを掘り下げていくというやり方をしています。
二口:わたしも好きなものに対してはとことん追求したいですね。興味を持てるものを増やすことも大事だと思います。好奇心をもって自分が知らなかったことを知ればもっと知りたくなるし、常に刺激を探していますね。自分の知識がどんどん増えていくことは楽しいです。
ニコラ:会社に来て勉強するのは違うよね。会社ではアウトプットして欲しいね。
伊延:いまは時代も変わって、以前のアトリエ系の事務所のような夜遅くまで仕事というわけにはいきません。チームで動いているので自分だけの都合で時間は決められませんが。9時半から来て6時半にあがるためには、アウトプットだけしかできないはずなんです。
ニコラ:インタラクション、チームワークが大事だからね。お昼は、チームが違ってもシェフがつくったランチをみんなで食べて、シェアの時間にしてます。ミーティングの合間も、いつもみんなのスケッチや模型をみて、いいじゃないって話し合ったり。僕はずっと会社のなかでマラソンみたいに歩き回ってるよ(笑)。
――CURIOSITYは昨年、設立20年を迎えました。これからの展望について教えてください。
伊延:CURIOSITYのコアを後輩に伝えていくことが、僕の仕事のひとつです。ニコラがもっと好奇心を爆発させて、僕はコアを強化する。それがそれぞれの役目なのかなと思っています。
二口:まだまだたくさんのことを吸収していかなくちゃいけないと思っています。目指すひとを見つけることは大事だと思うので、わたしはニコラさんについていきたいと思いますし、そういった憧れはすごい原動力だと思っています。
ニコラ:会社は「ひと」だからね。新しいひとが入るときも、会社に合わせるのではなく、そのひとが入ることで会社がどう強くなるかが大事。それってオーガニックなプロセスじゃない?だからこそ、これから会社をどうしていくかというのも決めたくない。決めたらおもしろくないよね。わたしは飽きやすいタイプだし(笑)。
会社を広げていくときはコアを強くしないといけないけれど、CURIOSITYのコアはもうクリアだから心配していません。間違えることがあったとしても、すぐにみんなでジャッジできる。自分たちのコアをわかっていれば、怖くないんです。
フランス生まれ。パリでインテリア、ロンドンでプロダクトデザインを学んだ後、来日。1998年キュリオシティ設立。以後、インテリアデザインを中心にプロダクト、インスタレーション、グラフィックなどシームレスに活躍。
インテリアデザイン事務所を経て、2006年キュリオシティに入社。
グエナエル ニコラと共に商業空間を中心に、住空間、エキシビジョン、家具デザインなど幅広くデザイン、ディレクションを担当。
大手内装会社で商業施設の設計施工に携わった後、2018年キュリオシティに入社。
ブティックやアパレルブランド店舗をデザインするリテールチームに所属し、現在は化粧品ブランドを担当。