公開日:2018/09/21
長屋悟さん(以下、長屋):カード開発部で、ポケモンカードゲーム(以下、ポケモンカード)のアートデザインチームのマネジメントとデザインのクオリティチェックを担当しています。ポケモンカードは国内外で販売されているため、ポケモンのブランドマネジメントを行っている株式会社ポケモンさんや、同社の子会社で海外に拠点を持ち、それぞれの地域を担当しているThe Pokémon Company International(以下、TPCi)さんと協力・相談しながら、商品のパッケージイラスト制作などを行っています。また社内デザイナーや外注のイラストレーターさんのスケジュール管理もこちらでしています。
武内七海さん(以下、武内):私は方向性が決まった後のデザイン作業です。商品のパッケージデザインやポスター、関連グッズなどのデザイン、DTP全般を担当しています。
武内:前職ではゲームセンター用の筐体やロゴなどをデザインしていました。でも、もう少しユーザーとの距離が近くて、気軽に触れられるプロダクトを扱いたいと転職しました。実際に手にとって遊ぶことができるカードゲームには興味がありましたし、何よりポケモンは私たちの世代には身近な存在です。
長屋:私は前職ではCDやDVDのパッケージデザインが中心でした。クリーチャーズを選んだきっかけは、ポケモンという世界展開しているプロダクトでキャリアアップをしたいと思ったからです。30代後半での転職で、私の中では最後のチャンスだと思っていたので、入社できたのは幸運でした。
以前は目の前のものをつくって終わりでしたが、いまはかなり視野が広がった気がします。海外のユーザーも多く、『ポケモンワールドチャンピオンシップス』というポケモンゲームとポケモンカードの世界一を決める大会でお会いした際に「ポケモンカードをつくっている」と話すとすごく驚かれるんです。世界中で親しまれているものを扱うので幅広い面に目を向ける必要がありますし、常に視野を広げなくてはと思っています。
長屋:ここ数年はディレクション業務が中心です。ひとつのシリーズは3年間を3シーズンに分けて進行するのですが、次のシーズンにはどんな要素を盛り込むか、カードやポケモンの魅力をどう見せるかを考えるのも仕事の一部です。例えば、現在展開中の「サン&ムーン」シリーズの2ndシーズンには新たな驚きとして「プリズムスター」カードをリリースしました。海外商品では、ボックスセットを担当し、社内3D制作チームへのイラスト制作ディレクションやプレイマット用のイラストレーターさんの選定、完成品のクオリティチェックを行ったりすることもありました。
いつも考えるのは、ポケモンをカードゲームの世界に落とし込んだ時に「いかにして魅力を出すか」です。ゲームソフト『ポケットモンスター』シリーズに準じつつ、XYシリーズのBREAK進化ポケモンのカード(欧州ではTURBO表記)のようにカード独自の世界観や表現を持つオリジナルなカードを出す場合もあります。
武内:私は「スペシャルジャンボカードパック ゼラオラ」のパッケージです。毎年映画に合わせた商品を出すのですが、『劇場版ポケットモンスター みんなの物語』(2018年7月公開)はメインキャラがゼラオラ(幻のポケモン)とのことで、シリーズの統一感を意識しながらゼラオラらしいパッケージを考えました。社内で地色やビジュアルに使う色の候補を相談し、ゼラオラのイメージは青い雷ですが、複数案検討した結果、最終的に目立ちやすい黄色にしました。20年以上の歴史があるプロダクトなので守るところは守りつつ、新たな表現やチャレンジがおもしろさに繋がっている気がします。
また、ユーザーとの距離が近いアイテムならではの、細部にまで意識を届かせる大切さを実感しています。長屋にチェックをお願いするとパッと見では気づけないような指摘がたくさん戻ってくるんですよね。体力や集中力も必要ですし、見すぎてもはや正解がわからなくなる時もあります。ですが、デザインチームの先輩たちが協力してくださるので、まだ新人ですが安心して制作ができています。
長屋:「スペシャルジャンボカードパック ゼラオラ」は、カードメインの特殊形状なので、パッケージの役割としては、内容物を目立たせながらも、ロゴがしっかりと目に入ってくることが大切だと考えました。青を少し加えて地色に埋もれないようにする案を薦めたり、他の色でもテストパターンをつくってもらったりと、さまざまな比較検討を行いました。
――カードがリリースされるまでにどれくらい時間がかかるのですか?
長屋:カードの商品開発は、海外での販売も踏まえ、リリースの約1年前には動き出しています。企画が固まったら、ゲームデザインチームが商品に入れるポケモンやワザのデータを決め、その後、ポケモンを描いてもらうイラストレーターさんに発注し、イラストが完成したらデザイナーがカードやパッケージを制作します。カード自体の仕様はシーズン始めに、カードロジックや役割をもとに各チームの意見を合わせて決定するのですが、次シーズンは武内にもデザイナーとして、アイデアや意見を出してもらおうと思っています。
――ポケモンをより魅力的に見せる工夫や、発注時に気をつけることは?
長屋:バトル以外のポケモンの日常を想像できるカードをつくることでしょうか。強いカードならバトル感のあるポーズを意識しますが、ポケモンの別の一面を見せることでより魅力が増しますし、バリエーションを広げる上でも遊びのあるカードってすごく大事なんです。
また、コンセプトの強いカード以外は、大きなディレクションを決めたら、イラストレーターさんにほぼおまかせしています。私より長く関わられている方も多く、個性的な方ばかりなので、細かい指示をしなくても期待以上のものがあがってくるからです。今後、新たな魅力を持ったイラストレーターさんを採用して、さらに幅を広げられるといいなと思っています。
――ちなみに、日本と海外ではデザインの表現やトーンは違いますか?
長屋:例えば、海外パッケージのイラストも弊社で制作・発注していますが、デザインは現地デザイナーが行うので、仕上がりは違いますね。イラストはポケモンカードのブランドイメージを崩さないように、手法や、どのイラストレーターさんに担当してもらうのかを考え、TPCiとテレビ会議を行いながら、コントロールしています。
長屋:チームのみんなと直接話すことを大事にしています。いまはなんでもメールで済む時代ですよね。でも、いいものをつくるにはやっぱり膝をつき合わせて、時間をかけて話すことが必要だと思います。弊社はみんなが率先して打ち合わせに参加してくれるので嬉しいですね。いまは自分が手を動かす立場ではないので相手を信頼して任せつつ、話し合いながらデザイナーの要望や意見を取り入れていければと思います。
武内:直接話すからこそわかることってすごく多いなあと思います。チェックも一緒にしてもらうと自分では気づかなかった点がすごく良く見えるんです。そういえば、うちのチームはメールやメッセージアプリって素材の受け渡しぐらいにしか使わないですね。
長屋:デザイナー同士では確かにほとんどないかな。社内的にも会話に重きを置く傾向があります。静かな会話のない空間よりは、賑やかにああでもないこうでもないと話している方がいいものができると思うんですよね。
武内:お互いのことを気にしてくれて、声をかけてくれる人がすごく多いです。言葉にすると胡散臭く聞こえますけど(笑)、本当に、社内からは絶えず笑い声が聞こえてきます。あとは、みんな帰るのが早いです。今日は早く帰りたいから明日は頑張ろうとか、スケジュール管理を各自に任せてもらっているので調整しやすいのだと思います。
長屋:そうかもね。私自身、一度割り振りしたらあとはデザイナーに任せています。細々と言わなくても、きちんと各自で調整してくれるのでとても楽ですね。デザイナーはガチガチに縛られるよりは、ある程度自由な中で必要な箇所だけ抑えてもらう方が実力が発揮できるものですからね。この雰囲気は他の開発チームも同じですね。みんないつも楽しそうに仕事をしている印象があります。チームをまたいで行うランチ懇親会や運動好きが集まるサッカー部など、自分から楽しいことをしようとする人も多いですね。
武内:楽しいと言えば、新しい拡張パックが出ると社内に1人1パックずつ配られるのが私は嬉しいです。みんなで開けながらSR(スーパーレア)があるかどうかをワイワイ言うのが楽しくって。実は社内でトーナメント戦も開かれているんですよ。まだ私は参加したことがないのですが、楽しみにしています。
武内:デザインの精度をもっと高めていきたいです。その他には、カードを手に持った時の楽しさを追求したいです。傾けるとキラキラして見えるホログラム加工もそうですが、手に取れるプロダクトなので、アナログゲームならではのデザインができればと思います。
長屋:子どもだけでなく大人も楽しめるカードゲームなので、子どもと大人の両方に魅力的だと思ってもらえることを大切にしていますが、その中でも、例えばいつもよりアーティスティックな、「ポケモンカードって一味違うね」って思われるような攻めたデザインにも取り組んでみたいですね。武内をパッケージに登場させるとか……というのは冗談ですが(笑)。20年以上続くプロダクトなので、ユーザーにとって印象が変わりすぎないよう、バランスを見ながら挑戦していきたいです。
2015年に株式会社クリーチャーズに入社。前職までは、SP広告、SPツール、CDパッケージ、DVDパッケージのデザインなどを手がけてきた。クリーチャーズ入社後は、アートデザインチームにて1年半デザイン業務を担当したのち、チームマネージャーに就任。
武蔵野美術大学卒業後、大手コンピューターゲームメーカーに入社。プロダクトデザイナーとして、自社のアミューズメント機器の筐体装飾、ポスター、タイトルロゴなどを担当。2018年に株式会社クリーチャーズに入社、主にポケモンカードゲームのデザイン業務を担当。