公開日:2017/09/21
金谷勉さん(以下、金谷):軸の1つとしては、グラフィックやプロダクトのデザインを手がけています。28歳のときに独立したのですが、そのときは所持金3,000円しかないくらいお金がありませんでした(笑)。前職の広告系デザイン会社からパソコンを借りて仕事をしていましたね。小さい会社でもこんなことができるっていうのを示したくて、積極的に動いていたような気がします。プロデュース的な仕事に携わることになったきっかけは、2003年にスタートした「UNIQLO 企業コラボTシャツ」の全体ディレクションです。世の中にたくさん出ている彼らのTシャツを見て、1つの媒体として新しい広告表現ができるんじゃないかと提案したことからスタートしました。この頃から、商品開発の企画の仕事が徐々に増えてきました。
もう1つの大きな軸は、「みんなの地域産業協業活動」という取り組みです。地場産業と協業しながら、地域が持つ技術を活かした製造の仕組みをつくり、日本の商業をよりよく循環させようという事業です。きっかけは愛知県瀬戸市で活動する陶器の原型職人との出会いでした。はじめて工房にお邪魔したときにとてもシンプルなお皿を見せていただいて。金額をうかがうと、とても高価なものでした。
いま思うと、それは納得の価格だったのですが、製造業界の流れをまったく知らなかった当時は、世の中にはもっと安価なものがあるのに……と、とても驚きましたね。話を聞いていると元々は干支の置物をつくっていて、とても高い技術を持っておられました。だったら、その技術を活かしたものができないかと取り組んだことが、地域との関わりのスタート地点です。ロイヤリティという発想がなかった頃ですから、僕らがデザインしたものを、どうやったら最小ロットで製造できるのか、どしたらリスクを互いに持ち合えるのか、手探りで模索したことが、いまの事業の礎になりました。
仲川依利子さん(以下、仲川):私はチーフディレクターという立場で、お客さまとデザイナーや職人さんたち、つくり手との橋渡しをしています。お客さまがなにを考えていて、依頼内容をしっかりとまとめたうえで、デザイナーや職人さんに仕事を振り分けていきます。また、いろいろな制作物が同時進行で動いているので、スケジュールを取りまとめたり、お客さまと職人さんとのやり取りをしたり、企画段階から納品までの全体を見届けながらスムーズに運ぶ役割です。
金谷:2つ特徴的なものを上げると、まず、「養命酒駒ヶ根工場」リニューアルのグラフィックデザインです。商環境のビジュアルづくりのお仕事をいただくことが多いのですが、これは当社にはディテールをつくれるスタッフ、イラストが描けるデザイナーが多いからだと思います。単にレイアウトする、情報を整理するというデザインにとどまらない仕事は、当社を支えている仕事のひとつですね。
それから、当社はどの産地の誰が、どういう技術を持ち、どのような仕事ができるのか、ということを全国で約500社、現地に赴きリサーチができています。その蓄積をうまく活かすことができた開発が、「星野リゾートリゾナーレ八ヶ岳」のテイクアウト用ワインバゲッジです。最初にこういうボックスをつくりたいとなったとき、その与件を聞いただけで、一番精度の高い仕事を行なえる国内の木工会社をセレクトして製造することができます。
将来的には、産地の技術を最大限に活かして、時には産地を掛け合わせて、ものづくりの仕事を海外に流出することなく、日本国内の技術で完了していく方法を、もっと広げていきたいなと思いますね。
仲川:自分で企画したものを、職人さんと一緒に商品化していく経験や、担当した商品が店頭に並ぶ瞬間は感動します。はじめて担当した「Towelie Towelie」という、子どものための遊べるタオルは、今治市にあるIKEUCHI ORGANICの工場まで行って製造から携わりました。タオルに描かれているデザインで遊ぶことができて、スナップが付けてあるので首に巻いたらスタイにもなる。フックにかけられるようにループもつけています。私は元々売る側の仕事をしていたので、その経験からバイヤーの目線で「こんな機能があるといいな」と思うことを伝えながらつくっていきました。
職人さんには「いつまでにサンプルを上げてくださいね」と、ちょっと頑張っていただかないといけない納期の話をする時もありますが、どう伝えればやる気になってくれるかな……と気遣いをしながら進めるのも私たちの仕事です。職人さんは男性が多いので、男性では気づきにくい女性目線を取り入れたアイデアを伝えるなど、自分の意見でプロジェクトが進んで、形になっていくのを間近で見ることができます。メーカーでもなく、ましてや職人がいるわけでも、工場があるわけでもないデザイン会社で、案件によってはゼロから企画し流通まで深く携わることができるのは、職人と一緒にものづくりをしているこの会社ならではだと思います。
金谷:最近の仕事で自分たちが関わったことの醍醐味を、ダイレクトに味わったのは、神戸の老舗焼菓子屋の梅香堂と取り組んだ「KOBE Furuwa(コウベフルワ)」のブランディングの仕事ですね。4~5年前から商品開発の勉強会を各地の行政の方々と行っているのですが、神戸で行なった際に参加していただいた企業の事案です。もともとフルーツワッフルという商品をお持ちでしたが、売り場展開は地元の2か所のみと厳しい状態。勉強会では1年かけて、なぜ売れないかのそもそもの問題に気づいてもらうための講義をしました。そこで、自社の強みを把握して、どのポイントで勝負するべきかを明らかにしたうえで、売りたい相手や取引をしたい相手のイメージを固めていただきました。その段階で、デザインの依頼をしたいとお話があり、我々で商品開発から流通までのお手伝いをさせていただきました。
すると、それまでは1年間で3000箱の売り上げだったものが、ひと月で3000箱売れるようになって。ちょうどGINZA SIXで展開が決まってオープンのタイミングに、包材が切れてしまったほどで(笑)。勉強会からのプロセスを踏んで、売れる商品となったことで、クライアントの視点やその会社で働く人達の景色が変わった。その意識がものすごく変化していることをとても実感しました。一番驚いたのは、その会社の社長は周囲に何かを強く薦めるようなタイプの方ではないのに、次年度の事業者募集のときには、「絶対勉強会に参加した方がいい」って周囲に推薦してくださり、志望動機が「梅香堂社長に勧められて参加しました!」と(笑)。パートさんも、自分たちのつくったお菓子がGINZA SIXに入ったことがよっぽど嬉しかったらしく、テンションがマックスになっているんですね。社長に「私たちがつくるから、頑張って売りに行き!」って言って。こういう現場からのダイレクトな反応は、小さな会社との仕事ならではの反応でして、大手企業とのプロジェクトや仕事とはまた違った達成感だと思います。
仲川:まずは、自分の好きな仕事、やりたい仕事を、率先して選択してやっていける会社だと思います。あとは、ここで輝いているデザイナーはみんな、ただデザインができるだけではなく、対応力の幅が広い人が多いですね。仕事に直結しないかもしれないけど、なにか才能やスキルがあったり、人間性が面白い人たちの集団なので。一見個性が強い人たちなんですけど……(笑)。でも、それぞれがお互いのいいところを認めながら、足りない部分を補いあって、チームとして仕事にまい進しています。
金谷:楽しそうに仕事をしているスタッフはみんな、自分で環境をつくっていけるタイプですね。社内にはおもしろい仕事がたくさんあります。それを自分たちで形にしていくには、さまざまな方法がある。デザインやグラフィック、Webといったそれぞれ単体の視点じゃなく、いろんな視点でとらえることができる人が活躍しています。
そういう意味では、異業種からの転職は大歓迎ですね。同業者だけだと、どこか固定概念や慣習みたいなものに縛られて、新たな視点をもっての発想が難しくなってしまうこともあって。僕はそれを、“真水思想”と呼んでいるんですが、伝統工芸の産地などを見ていても、真水思想が強いところは進化が鈍い傾向があります。デザイン会社も職人の世界とよく似た、真水の純度が高い職種。いい濁りやよどみが化学変化を引き起こし、そこから新しいものを生み出していく会社でありたいですね。
金谷:いまちょうど、会社が化学変化を起こして、違う身体へ進化しようとしているところです。デザイン業界も時代が変わってきています。制作を請け負うだけのデザイン会社からアップデートする必要がある。デザインという枠だけに収まらず、プロデュースという仕事からも、もう1段上がった先にあるものが何なのかを、次の世代の人たちとつくっていきたいですね。
また、日本各地の産地を回っていると、優れた技術や産業、そして財源力があると感じます。いままでの経済観念であれば、各地方で納税されたお金が、都心部と呼ばれるプロデュース会社に流れているのも良しとされたかもしれませんが、それだとその他の都市が弱っていく一方です。僕らと関わった方々に、できるだけ損をさせないことが僕らの仕事だと思うので、いかにしてその都市に「生きるお金」として還元されるか、ということを考えたい。
その足掛かりとして、岐阜県に僕らのブランチをつくり、現地のスタッフを雇用しています。岐阜には陶磁器の製造者がたくさんいますが、問屋機能をもった人たちは新しく増えていません。その役割を、我々のブランチで担っていけたらと思っています。場合によっては、関東・関西での仕事をブランチと共有していければ、都心部の仕事とお金が地方にいく。そうやって地方に資金源を生むことができたらいいですね。最終的なイメージは大きく「国力増強」です(笑)。
金谷:お医者さんに似ているのかなと思います。たとえば、お腹が痛いと言ってきた人がいるけど、具体的にはどこが痛いのか分からない。そのお腹のどこが痛いのかを探すことが僕らの役割で、そこから解決策を探すことが僕らの仕事の本質だと思います。
なかには、いますぐに治療ができないこともあるでしょうし、会社の成長や我々の腕が上がっていかないと太刀打ちできないこともあるかもしれません。それでも、まずは不安なところを取り除けるようにしたい。それが、僕らの使命だと思っています。そういう意味では、都会の大病院というよりも、家の近所でなんでも聞いてくれる小さな総合病院というイメージが近いのかもしれません。
仲川:プロレス好きな金谷に時々言われるのが、会社をプロレス団体にたとえたら、金谷はアントニオ猪木だそうで(笑)。団体の代表として闘いながら次の姿勢を見せるフロントマンの存在だと。私はその意図をくみ取って、現場のスタッフたちや周囲の人に周知したり、金谷が気づいていないことをフォローしていく役回りなので、猪木を脇で支えながら闘っている藤波辰爾や長州力みたいな存在なんだそうです。ちなみに私はプロレスのことがまったくわかりませんが……(笑)。
京都精華大学人文学部卒業後、企画制作会社に入社その後広告制作会社を経て、1999 年「CEMENT PRODUCE DESIGN」設立。商業施設の広告デザイン、UNIQLO「企業コラボレーションT シャツ」のディレクション、Francfrancとの商品企画開発など幅広くデザインとプロデュースを手がける。現在は京都をはじめとした各地の製造事業者のモノづくり支援の開発ゼミでの講義も受け持っている。京都精華大学講師・金沢美術工芸大学講師。
インテリアショップのバイヤーやショップマネージャー、またデザイン事務所にてインテリアデザイナー、グラフィックデザインの企画営業などを経て、2016年に入社。現在は小売店やバイヤー側の視点から、各地のものづくりプロジェクトにて商品開発アドバイスや「みんなの地域協業活動」を通して自社商品の企画・ディレクションなどに携わる。