公開日:2020/12/25
バニスター株式会社(以下、バニスター)は、ブランド戦略の専門会社として、私たちが普段店頭で目にしている馴染みのある商品パッケージやサービス開発はもとより、それを含めたブランドの価値定義やブランドステートメントの設定、商品ネーミングやブランドロゴの開発などをトータルで行っている。
「人」に対する深い洞察をもとに、ストラテジーチームとクリエイティブチームの協働を通して、ブランドの本当の価値を引き出すブランド戦略立案を強みとする同社。プランナーとして働く園田貴博さんとデザイナーの石田心子さんに、バニスターの仕事の醍醐味についてうかがった。
――お二人のお仕事と、これまでの経歴についてお聞かせください。
園田貴博さん(以下、園田):僕はプランナーとして、さまざまな商品やクライアントである企業のブランド戦略の立案をおもに担当しています。以前勤めていた会社は商業デベロッパーだったので、商業施設のプロモーションや店舗リーシング、店舗導入などの仕事に携わっていました。前職ではどちらかというとブランドを引っ張っていくような立場だったのですが、ブランドをつくること自体に興味を持ち、2年前にバニスターへ転職しました。
石田心子さん(以下、石田): 私はデザイナーとして、4年前にバニスターに入社しました。おもな仕事はブランディングデザインで、パッケージやロゴ、ブランドブックなどさまざまです。私はもともと大学ではグラフィックデザインを専攻していて、卒業後はグラフィックデザイン系の個人事務所でアシスタントデザイナーとして働いていました。パッケージから平面まで幅広く携われる会社だったのですが、もっとデザイナーとしての力をつけたいと思うようになり、クライアントと直接やり取りができるブランディングに携われることから、バニスターへの転職を決めました。
――現在はどんなお仕事を手がけていますか?
園田:バニスターでの仕事は長期的なスパンで動いているものが多く、実はまだ詳しくお話しできないことがほとんどなのですが……(笑)。どの案件もクライアントの方々と一緒に現状の課題から戦略を立て、上流から最後まで進めていくものばかりです。他の会社ではなかなか味わえない経験ができていると思いますね。
石田:私は入社以来、「中央軒煎餅」という老舗のおかきブランドの仕事を担当しています。ちょうど若い女性向けに「きりのさか」という新ブランドを立ち上げるタイミングで、ブランドの価値定義から世界観の構築、商品ネーミングなどを弊社がトータルで行う中で、私は可愛らしい世界観をイメージしたパッケージデザインの制作をさせていただきました。
その後同ブランドからは「リゾコッティ」というイタリアのビスコッティのような新しいおかきの商品ネーミングやブランドロゴ、パッケージデザインを行いました。お客さまの声を聞くなどの調査も弊社で行い、どういう商品をつくるのかという段階からクライアントと進めていった仕事なので、一緒にブランドをつくっているという手応えもありました。長くお付き合いの続いているクライアントさんから信頼をいただけているのは嬉しいですね。
――バニスターでは、マーケティングチームとクリエイティブチームの協働でブランディングを実践されていますが、どのように仕事を進めているのでしょうか?
園田:まずはリサーチから、プランニング、デザインの段階があり、試行錯誤しながらローンチにいたるという流れなのですが、プランナーもデザイナーもリサーチの段階から一緒に動いていて、世界観やクリエイティブについてのすり合わせをしています。もちろん、その中でデザインが重要なものはデザイナーが、戦略が必要なものはプランナーがより主体的に取り組みますが、基本的にはプレゼンなども一緒に行います。
期間は案件にもよりますが、リサーチに約3ヵ月、戦略に約3ヵ月をかけるので、それだけで半年くらいの時間を割くことが多いです。「中央軒煎餅」の仕事では、デパ地下のおかきをあんなに買って食べたのはじめてなんじゃないかというくらい、リサーチの時にほぼ全種類買いました(笑)。1度に2、3ブランド買ってきてみんなで食べては意見を出し合いましたね。リサーチは、毎回いろんな発見があっておもしろいですね。
石田:そうですね。私は前職がデザイナーしかいない会社で、いわゆるデザイン業務が中心だったので、バニスターに入社した時は「こんなこともやるんだ!」と、いい意味で衝撃を受けました。
――バニスターで働くことの魅力ややりがいはどんなところにあると思いますか?
園田:弊社くらいの規模で、ブランディングの上流から関われる会社はなかなかないと思うので、そういったことを体験できるのは魅力だし、何よりおもしろいと思いますね。クライアントの企業規模にもよりますが、社長などの経営陣と直接やり取りさせていただきます。大企業でも、さまざまなジャンルの役員の方とお話しすることになるため、その業界に対しての勉強も必要で、同時にそこがやりがいでもありますね。
仕事の手応えについては、プランナーはなかなか説明しにくい部分もあるかもしれないですね(笑)。ブランディングはそもそもそんなに即効性があるものではないので、じわじわと、でもきちんと定着していくことがブランディングの成果で、それがようやく見えてくるのが数年後ということも少なくありません。しかも、デザインのように目に見えるアウトプットがあるわけではなく、たとえば、立案した戦略をクライアントの社内に落とし込むために、共通認識として共有しておくべきキャッチフレーズをつくるといったような仕事もあるので、表には出ない分、わかりにくいというか。
――コピーライティングや、インナーブランディングのサポートなどもされているんですね。
園田:そういった仕事も必要とされる場面がありますね。クライアントである企業の5人から10人の担当者の方とディスカッションを行う場面では、部署ごとに意見が違うこともあるので、まずは合意形成を図っていく必要があります。スケジュール管理やファシリテーションのようなこともやるので、プランナーの仕事のやりがいは、一言では括れない“なんでも屋”であるところだと思います。
――デザイナーの仕事はいかがですか?
石田:それに比べるとデザイナーはわかりやすいですね(笑)。自分がデザインしたパッケージの商品が店頭に並ぶのは大きな喜びですし、何よりホッとします。社内や社外のデザイナー数人でデザインの提案をした時に自分の案が選ばれたり、それに対してクライアントからいい反応をいただける時は、やっぱりやりがいを感じます。あとは、デザイン関連のクライアントへのプレゼンはデザイナー自身が行うので、自分からどんどん提案したり、プレゼンの力をつけたいという人にも魅力的な環境だと思います。
ブランドを新しくする時は、変わりすぎることに対してもう一歩踏み出せなかったり、不安を感じるクライアントもいらっしゃいます。エンドユーザーが求める欲求と競合との差別性を前提にしながら「このくらい思い切って変えた方がいいんじゃないか」といった意見についてクライアントさんと議論になることも多くあるので、その説得材料としてのデザインに高いレベルが求められる分苦労もありますが、デザインでいかに信頼してもらえるかどうかというやりがいにつながっていると思います。
――バニスターには、現在マーケティングチームに3名、クリエイティブチームに5名が所属されていますが、社内はどのような雰囲気ですか?
石田:男女比は半々くらいで、みんな30代の同世代なんです。それぞれバックグラウンドが違う人たちの集まりですよね。デザイナーも、グラフィックやサインデザイン出身のメンバーなどさまざまです。
園田:マジョリティはいないよね(笑)。
石田:でも、そんなに個性が強いとか、尖ったタイプの人はいないですね。私自身、自分のことは普通だと思っているのですが(笑)、生活者視点をもって、ニュートラルでいるというのは共通の姿勢としてあるので。
――仕事上のコミュニケーションはどのようにとっていますか?
園田:最近はリモートワークが増えていますが、先ほどお話ししたようなリサーチの仕事など、内容によってオフィスで一緒に仕事をしています。うちの特徴としては言えるのは、意見のぶつけ合いがしょっちゅう起きていることですね(笑)。
石田:そうですね(笑)。みんな思いのままに意見をぶつけ合っているので、外から見るときっと驚くと思います。私も入社した当初はびっくりました。あと、わからないことに対しては、みんな「わからない」とはっきり言えるのが、バニスターのいいところだと感じています。
――最後に、バニスターでの仕事にはどんな人が向いていると思いますか? あるいはどんな人に来てほしいですか?
園田:マーケティングの教科書には、「マーケティングとは顧客理解だ」みたいなことがサラッと書かれていますが、人の本当の気持ちなんて、正直わからないですよね。でも、「お腹が空いた」とか、「美しくなりたい」「美味しいものが食べたい」など、人の根源的な欲求は時代が変わってもそんなに変わらないと思うんです。そういった、コアな部分で人々が何を求めているのかを徹底的に突き詰めて考えることが好きな人が向いている仕事だと思います。
石田: たしかに、根気強く物事を考えられる人が向いている気がしますね。理屈で考えながら、柔軟におもしろいことを考える力を生かせる仕事だと思います。デザイナーに関しては、自分や他のメンバーとは違う視点をもった人が今後バニスターに入っていただくことで、よりデザインの幅が広がっていくといいですね。
園田:プランナーの仕事は、先ほどお話したように手応えといった部分ではわかりにくいところがあるので、自分の個性を100%出したいとか、打ち上げ花火のような、短期的な結果が欲しい人には不向きかもしれませんが、リサーチやクライアントの方々とのやり取りの中で、これまで自分が気づかなかったことや知らなかったことを発見できるところに、やりがいを感じることができると思います。
特に今年は新型コロナウィルスの影響で、去年とはまったく価値観が異なるような、答えがない状況です。これからは「わからないこと」を根気強く考え続けることが、長期的なブランディングにつながっていくのではないかと思います。今後新しいメンバーが入れば、また多様な価値観が生まれるので、さらにおもしろいチームになっていくのが楽しみですね。
バニスターの代表を務め、ディレクターとしてブランド戦略を実践する細谷正人さん。先月『Brand STORY Design〜ブランドストーリーの創り方』(日経BP)に続く著書、『ブランドストーリーは原風景からつくる』(日経BP)を上梓された細谷さんに、バニスターでのチームのつくり方や、仕事の魅力について語っていただいた。
ーバニスター流のブランド戦略をつくる上で、社内ではどのような取り組みをされていますか?
バニスターでは、2ヶ月に1回ほど社内勉強会を実施しています。最近では、ある有名な高校でとてもユニークな授業をされる先生にお越しいただき、生徒たちのやる気を引き出すためにしている授業の準備や、生徒たちへの投げかけ方、盛り上げ方などについてお話しいただきました。
なぜ私たちがそういったことを学ぼうとしているのかというと、ブランド戦略やデザインをつくっただけでは意味がないからです。さらに構築したブランドのDNAを社内浸透させていく必要があります。最近は特に外部環境の変動が激しく、それに伴って組織やチャネルの影響もあり、一貫した戦略やデザインが希薄になるという課題が生まれています。そのようなことだと、ブランド愛着の獲得やかけがえのない存在にはなれません。ブランドづくりに必要なのは、消費者はもちろん、戦略やデザインを通して、同時にブランドの伝道師を社内に創出していくことです。実践のためのヒントを異業種から得るためにさまざまな勉強会を実施しています。
このような勉強会は大切な仕事なのですが、仕事ではないみたいな感じでみんなリラックスしながら楽しくやっています(笑)。今年はコロナの影響でなかなかできていませんが、近々またやりたいなと計画しています。
プロフェッショナルとなるためには、仕事を通して育っていく力もありますが、ポテンシャルとして持っている潜在的な力を引き出すこともやはり大事だと思っていて、その人の根源的にある気持ちや性根の部分を引き出すようにしています。残念ながら、日本の社会ではまだ建前が大切とされていますから(笑)。決してプライベートなことを根掘り葉掘り聞くというわけではないんですが、たとえば小さい頃の話や家族のことなど、現在ではない、個人的な過去の話を聞くようにしています。僕自身が生い立ちや昔の話をよく社内でしているので、自分からそういった話をすると、自然とメンバーも話してくれるようになりますね。
幼い頃にお母さんとスーパーマーケットに行っていた人はやっぱり買い物が好きだし、お父さんに山登りに連れて行ってもらっていた人が大人になっても登山が好きだったり、人が何か前向きにやろうとする時の行動や意識の根底には、家族や大切な人との何度も積み重ねられた記憶といった「原風景」や「自伝的記憶」がルーツにあるのではないかと思います。
先月出版した『ブランドストーリーは原風景からつくる』にも書きましたが、そもそもブランディングは「遅効的」な活動であるべきだと思っています。たとえば自分にとって、家族の存在がかけがえのないものになるためには、共に暮らしていく時間の積み重ねが必要です。同じように、その人にとってのブランドへの好意と愛着は、瞬間的に出来上がるものではなく、それらが何度も積み重なることで自分の中から生まれてくるものです。そういった視点でブランド戦略とデザインに取り組むためにも、私たち自身が一人ひとりの原風景や自伝的記憶について話すことは重要なのです。
ーそういった考え方について、入社されてから驚かれる方もいらっしゃいますか?
みなさんびっくりしますね(笑)。求められることや考えることの深度が、他の会社組織などに比べて違うと思うようです。仕事をする上でも、プロジェクトの時間を長くいただいて、徹底的に考え抜く時間をつくるので、ある意味プレッシャーではあるんです。でも、そのプロセスを踏まないと本当に良いブランドは生まれないんですよね。
ありがたいことに、私たちは常に企業のトップマネジメントの方々とお話させていただく機会があるので、若いメンバーでもそういった経験を通して、戦略やデザインがどのように活用され、ブランドが企業の中でどのように影響していくのかを目の当たりにできるというのが、バニスターの良いところだと思います。通常、デザイン会社だと、デザイナーはずっとオフィスの中にいるといったことも聞きますが、それでは良いブランドはつくれません。なぜならそのデザイナーは、ブランディングの仕事を自分事化できないまま終わってしまうのです。自分がそのブランドに携わっていることに実感と責任を持ってもらわないといけない。たとえデザイナーでもモニターの前に座らせておかないですね(笑)。
ーコロナ禍になってからリモートワークも導入されたそうですが、今後の働き方についてはどのように考えていますか?
リモートワークはこのまま続けていくと思います。うちの会社の行動規範の1つに、「自らが生活者であること」というのがあるんですね。むしろ家にいて普通の暮らしをすることで、毎日会社に来て仕事をするよりもニュートラルな視点を持つことができると思うんです。週何日出社するといったルールを決めることもしません。会社のルールで想像力やモチベーションを下げないようにしています。メンバーそれぞれが向き合う仕事に対して責任を持って決めればいいんじゃないかと思います。
コロナ禍でリモートワークを導入してから、デスク制をやめてフリーアドレスにしたのですが、オフィスの方が場所を広く使えるし、ここで作業した方がいいなというメンバーは出社して仕事をしています。緊急事態宣言以降、しばらくはオフィスの近所に住んでいる二人ぐらいしか会社にいなかったんですが、ここ1、2ヶ月くらいはみんな家にいるのもつまらなくなってきたのか(笑)、オフィスに来るようになってきましたね。
やっぱり仕事の中で直接会って話をする場面は必要なので、集まって話すこともありますが、意外と僕が言わなくても、みんな自分たちで集まって話をしたりしています。僕らは掃除当番制もないくらいルールを決めません。人のために誰でも良いから気づいた人が掃除をするチームであるべきだと考えています。とても小さなことですが、他人を想うことができないとブランドの仕事は絶対にできません。ルールを決めて行動することは誰でもできることなので。
バニスターは、お互い意見を言い合って、時に反発し合うことも許容する会社だと思います。新しく入社したメンバーもびっくりするくらい、激しくチーム内で討論した次の日にはみんなケロっと笑っていたり(笑)、手前味噌ですが、本当におもしろい会社だと思いますね。大変だと思う人にはそうかもしれませんが、このやり方を楽しいと思える人たちがうちには集まっているので、とてもいいことだなと思っています。答えのない大きな変化に向き合っていく時代だからこそ、こんな企業文化を守りながら、クライアントと一緒にブランドづくりに取り組んでいきたいですね。
【関連記事】ブランドストーリーは原風景からつくる。 バニスター代表・細谷正人が考える「遅効的」視点のブランディング(JDN)
デザイン情報サイト「JDN」では、バニスター代表取締役・ディレクターの細谷正人さんに、最新著書『ブランドストーリーは原風景からつくる』(日経BP)の背景にある思いや、コロナ禍におけるブランディングのあり方、バニスターのこれからの展望について語っていただきました。
https://www.japandesign.ne.jp/interview/bannistar-hosoyamasato/
成城大学社会イノベーション学部卒業。大手商業デベロッパーにて、展覧会・イベント企画を中心とした宣伝・販促業務、商業施設の戦略プランニングと店舗開発業務を幅広く担当。その後バニスターに入社し、ブランド戦略におけるマーケティング、プランニング業務に従事。
多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業。グラフィックデザイン事務所のアシスタントデザイナーを経て、バニスターに入社。デザイナーとして、食品や飲料、化粧品トイレタリーなどのブランディングデザイン、パッケージデザイン開発を担当。