noiz
取材・文:瀬尾陽(JDN)

公開日:2018/07/05

あの会社が手がけた注目のお仕事

建築の枠に閉じずに積極的に遊び、ノイズに潜む未知の可能性を見出す

noiz

2007年に豊田啓介さんと蔡佳萱さんのパートナーシップとして、東京で設立された建築デザイン事務所「noiz」。2009年には台北事務所を併設し、コンピューテーショナルな手法を積極的に駆使し、建築を軸にインテリア、インスタレーションなど幅広いジャンルで国際的に活動しています。最新デジタル技術のデザインやファブリケーション、システム実装などに関しても、教育やリサーチ、コンサルティング活動を積極的に展開している。個性豊かなメンバーが集まり、新しい情報やテクノロジーを駆使してファッションから都市開発まで分野を横断したコラボレーションや開発といった、複合的な成果が生まれるプラットフォームを目指してきた同社。これまでの代表的なお仕事を、2016年よりパートナーに加入した酒井康介さんにご紹介いただいた。

コンピューテーショナルな手法を駆使し、分野を横断したコラボレーションや開発を行なう


Voronoi tatami TESSE

伝統的な畳職人の熟練された手仕事と、noizの得意とする「コンピューテーショナル・デザイン」の技術によって生まれたヴォロノイ畳『TESSE』。アルゴリズムを用いた独自開発の手法によって、空間の形状・寸法に合わせて畳の分割パターンが生成できる自由形状の畳シリーズ。最大の特徴である多角形状の平面分割には、自然界にしばしば現れる幾何学パターンである「ヴォロノイ図」が用いられている。「ヴォロノイ図」のパターン生成には、部材の配置・構成や形状をコンピュータープログラムで動的に出力する「アルゴリズミック・デザイン」という手法を用いている。

コラボレーター:株式会社国枝

Voronoi tatami TESSE 写真:高木康広

Voronoi tatami TESSE
写真:高木康広

岐阜県で畳製造をしている株式会社国枝との共同プロジェクトです。伝統とテクノロジーとが融合することで、まったく新しいデザインの可能性があるのではないかと考えました。Webアプリケーションを使うことで、誰でもかんたんにオンライン上で自分の好みや条件に合わせて自由にカスタムオーダーして、発注から製作までを一気通貫で行える仕組みを現在準備しています。

『Voronoi Tatami TESSE』は、その名前のとおり畳の形状をヴォロノイ分割しています。このパターン自体はCADやソフトウエアを使うことで容易に生成することができるのですが、実際は畳の製作限界や、角度があまりに鋭角すぎるとダメといった条件があって、単純に生成した形状そのままだと製作ができないんですね。製作を行う国枝さんにそういった制約条件をヒアリングしながら、より現実に即したプログラムに調整していくのに苦労しました。

ヴォロノイパターンは自然界ではキリンの柄や亀の甲羅とかにも見られる形状です。かんたんな生成原理から複雑で自由な形状ができるものとして、元々着目していたもので、デジタルファブリケーションで比較的容易にその複雑な形態を立ち上げることができるため、noizのほかのインスタレーションプロジェクトでも取り入れてきました。

今回、結果的にできたものを見てみると、畳の目の向きによって光の反射の効果が異なり、明度の違いとしてヴォロノイパターンが浮かびあがる点が意外な発見でしたね。同じ素材を使用しながらも、見る方向や角度で、まったく異なる畳の表情が浮かび上がるのは、このヴォロノイ畳ならでは効果だと思います。

Voronoi tatami TESSE 写真:高木康広

Voronoi tatami TESSE
写真:高木康広

既に数件は実際に納品されていますが、今年度中に本格的に一般向けの受注を開始する予定です。将来的にはユーザーが3Dスキャナーで部屋の形状を計測し、データをオンライン上のサービスにアップロードして、発注まで行えるシステムを実装する予定です。このプラットフォームを使って、海外からも発注できるようになれば、外国の住環境や顧客の好みに合わせたユニークな畳が、世界中のどこでも手に入れることができるようになり、これまで国内だけに限られていたマーケットが一気に拡がる可能性があると考えています。これは一つの大きな価値です。

ITRI Central Taiwan Innovation Campus Main Building

台湾・南投県に建設された、『ITRI Central Taiwan Innovation Campus Main Building(工業技術研究院 以下、ITRI)』による経済部中台湾創新園区の中核研究施設。noizはファサードおよびランドスケープ、Bio-Architecture Formosana(建築構造および内部)が共同で設計を行った。100m四方6層におよぶ建物にオフィスや各種実験施設、レストランや会議室などが混在し、方位や隣接施設などの条件とあわせ、部分ごとに異なる遮光や開放性などの条件に、4000枚以上の外装フィンの設置角度や密度を連続的に調整することで対応している。

コラボレーター:Bio-Architecture Formosana

ITRI Central Taiwan Innovation Campus Main Building 写真:阿野太一 協同:Bio-Architecture Formosana

ITRI Central Taiwan Innovation Campus Main Building
写真:阿野太一 協同:Bio-Architecture Formosana

「ITRI」の大きな特徴としては角度や密度が連続的に変化するフィンが建物全体を覆っていることです。このフィンによるレイヤーは内部空間の光熱環境を最適化するだけでなく、研究施設に求められる設備ダクトやパイプを隠すという意匠的な意味付けがあります。ここでは最終的には実現には至りませんでしたが、施工時の精確な位置出しと寸法誤差の修正のためのプロジェクションマッピングやドローンの活用など、施工システムまで踏み込んだ新技術の実装提案まで行いました。今後そのような手法は一般的に実用化できると考えています。

今回の建物では、魚の群れや風の動きとか、自然から想起されたものをモチーフとして使っています。従来の建築は、垂直水平に建てることがある種の美学としてとらえられていますが、それは設計や施工上の制約によるところが多かったのだと思います。現在ではデジタルファブリケーションを利用して、3次元CADで設計された複雑な形状を、簡単に出力・施工することが可能で、旧来の建築やものづくりのプロセスや美意識の根底にあるものがゆらいでいます。逆にいままでつくることが難しいとされた揺らぎのある自然界のモチーフのほうが、環境や構造的に合理性があったりして、カタチ的にも人間の直観に受け入れやすいのではと考えています。

ITRI Central Taiwan Innovation Campus Main Building 写真:阿野太一 協同:Bio-Architecture Formosana

ITRI Central Taiwan Innovation Campus Main Building
写真:阿野太一 協同:Bio-Architecture Formosana

「ITRI」のように、noizでは日本と台湾の事務所双方でコミュニケーションをとりながら国外のプロジェクトを動かすことがよくあります。海外のプロジェクトを進めるにあたってインターネットによって障壁がなくなってきていると思う一方で、やはり文化的な慣習や、風土や地域性の違いがあるので、そこを理解して進めることにかなり苦労しますね。コンセプトを考えるときも既存の伝統文化や地域性を、現代の技術を使って再解釈して、新しい表現に昇華することを常に目指しています。

SHIBUYA CAST.

渋谷の複合施設『SHIBUYA CAST.』のファサードとランドスケープのデザイン・監修を担当。施設前面に設けられた1000㎡の面積を持つ広場と地形に沿って建物を貫通する通路は、街を行き交う人の流れを誘導するとともに、新たな用途と可能性を空間として街に還元する。広場には円形が集まってできた形の植栽緑地を複数配置し、「ひだ」や「たまり」をもたせることで自然と人が集い、さまざまな居場所が見つかる構成に。ファサードデザインは施設のコンセプトや渋谷という街の特殊性を汲み、風がぶつかってざわめく梢や捕食者に遭遇して突然向きを変える魚群といった、自然界の中での「群」としての動きに着眼している。施設高層部はリブ状のコンクリートファサードによって動きをもたせている。

コラボレーター: 株式会社日本設計

SHIBUYA CAST. 写真:川澄・小林研二写真事務所

SHIBUYA CAST.
写真:川澄・小林研二写真事務所

ファサードの広場に面した部分は実は設備スペースです。通常室外機などが置かれるネガティブな存在を、ポジティブなキャラクターとして変換できないかというのが与件としてありました。素材、構成や熱環境的な解析を重ねて、角度の異なる複数の縦ルーバーで覆う構成としました。光の反射により季節や時間、天気、また人の動きに応じて「パッシブ・ダイナミック」に変化していきます。ファサードそのものは動かないのですが、視点や周辺環境の変化によってファサードの視覚効果が繊細に変化するような構成にしています。これから渋谷の街もどんどん変わっていきますし、長い時間軸の中で見飽きないよう、遠くから見ても、下から見上げても、どこから見てもおもしろい表情になるようにということを意識しましたね。

広場のランドスケープについては、1,000㎡という大きな空間の中に、人の流れや溜りが自然と生まれるように円形で構成された植栽スペースを配置しました。象徴的なアイコンをつくるというよりは、できるだけ人が集まってくるような場所をつくることを意図としています。

SHIBUYA CAST. 写真:川澄・小林研二写真事務所

SHIBUYA CAST.
写真::川澄・小林研二写真事務所

ノイズのなかに潜む、新しい表現の可能性


――noizという会社名の由来はどこからですか?

そのまま「ノイズ(処理対象となる情報以外の不要な情報・雑音)」からです。たとえば、ジャズやロック、ヒップホップといった新しい音楽のスタイルは当初は耳障りなノイズ扱いされていたんですが、いまや確固たるジャンルとして定着しています。我々もノイズの中から未知の表現の可能性を見出していきたいなと思っています。

――noizには社風のようなものはありますか?

仕事中に積極的に「遊ぶ」っていうと語弊があるかもしれないですけど、新しい技術に挑戦したり、頼まれていないことを自らしたり、そういうことが推奨される社風であります。

取材時はパーソナルモビリティ「WHILL」を使った実験(遊び?)の最中だった

取材時はパーソナルモビリティ「WHILL」を使った実験(遊び?)の最中だった

――技術的にやれることが増えた分、可能性がもっと増えた感じですか?

増えていますね。どの技術も、それらの組み合わせで、まったく異なる可能性がでてくるので、きりがないですね(笑)。いまは、AIや自律走行、ロボティクスといった先端領域が、都市や建築にどのように統合されていくのか、リサーチや検証を進めている段階で、他企業との協働の中で可能性を探っています。

――noizで働くことの醍醐味はどこにありますか?

やっぱり建築の領域に閉じていないっていうのが1番おもしろいですね。建築はどうしても計画するのにもつくるのにも時間がかかり、新しいテクノロジーが浸透していくスピードが他領域に比べ遅いのですが、noizにいると様々な先端企業とのコラボレーションも多く、情報の上流というか情報量の多いところに身を置けるというのがメリットだと思います。もちろん建築にその新しい技術の体系をどのように活かしていけるのか常に考えていて、軸足は建築にあります。できるだけ流れが早い方に身を晒しておくけど、決して流されないというイメージでしょうか。

代表の豊田の子どもたちが学校終わりに事務所にきて、我々の働いている横で、落書きしたりして遊んでいるというのが日常なので、子育てと両立しやすい職場環境だと思います。私も先日赤ちゃんが産まれたので、たまに家で子守をしながらリモートで仕事をする時があります。自分の創作活動を行っているメンバーもいますし、ワークスタイルの自由さはありますね。

メンバーの国籍だけでなく、その個性や得意分野の多様性があって、その集合知が引き出される環境を目指しています。その意味では、なにか一元的な思想の下に集まる集団というよりも、もう少し境界が曖昧で緩くて、目指す大きな方向性に共感する人たちが集まる共同体という感じですね。

<編集部が感じた、「この会社に入りたい!」ポイント>「建築の可能性はまだこんなにもあるのか!」。noizのお仕事を拝見するたびに感じていたことですが、改めてお話をうかがうとnoizという会社の雰囲気が少し見えてきました。印刷工場を改装した事務所は、未知の可能性を追求しようとスタディした(遊んだ)形跡がそこかしこに見られます。新しいことに取り組むからにはそれ相応の高いレベルが要求されるとは思いますが、建築という領域に閉じずに建築のことを考えていきたい人にとっては魅力的な職場です!

PROFILE
noiz
2007年に豊田啓介と蔡佳萱のパートナーシップとして東京で設立。2009年より台北事務所を併設。2016年より酒井康介がパートナーに加入。コンピューテーショナルな手法を積極的に駆使し、建築を軸にインテリア、インスタレーションなど幅広いジャンルで国際的に活動。最新デジタル技術のデザインやファブリケーション、システム実装などに関しても、教育やリサーチ、コンサルティング活動を積極的に展開。
http://noizarchitects.com/