ディアンドデパートメント株式会社

公開日:2018/09/11

あの職場は、ココがちがう!

自分たちの体験を軸に「デザインの視点」からおもしろいと感じることを提案する

ディアンドデパートメント株式会社

長く愛され続ける「ロングライフデザイン」をテーマに、2000年にデザイナーのナガオカケンメイさんによって創設された活動体「D&DEPARTMENT PROJECT」。国内外で11店舗の『D&DEPARTMENT』を拠点に、土地の個性を見つけて各県でコミュニティを形成、デザインを切り口とした観光ガイド「d design travel」も発行しています。いまでこそよく聞く言葉となった「ロングライフデザイン」ですが、「D&DEPARTMENT PROJECT」が切り拓いてきたデザインの地平に影響を受けた人は少なくないのではないでしょうか?根幹にあるデザインへの考え方は変えず、さまざまな手法を使い、さまざまな土地の人たちを巻き込んで変化を続ける「D&DEPARTMENT PROJECT」について、ディアンドデパートメント株式会社の広報である清水睦さんにお話をうかがいました!
d design travel

デザインの目線を持った観光ガイド『d design travel』のコンセプトは、その土地の人による、その土地らしい、その土地ならではのメッセージがあること。お手頃価格で利用でき、なおかつデザインに工夫があること。これら条件を満たす対象を選定し、都道府県ごと1冊にまとめて紹介している。

デザインの目線を持った観光ガイド『d design travel』はこれまで、23都道府県を特集して出版しています。年に3冊のペースで発刊しているので、47都道府県出版するまであと8年のペースです。最新号では鹿児島県を特集しましたが、次号は岩手県を取材中。今年の11月全国発売予定です。

つくり方に関しては毎号同じ手法をとっています。ほかのガイドブックとの違いで特徴的なのは「公開編集会議」を行っていることです。毎号地元の方を中心に、公募をして集まった約60人の方と一緒に「その県らしさとは何か」を考えていきます。

岩手号の公開編集会議の様子

岩手号の公開編集会議の様子

まず最初に、毎号掲げている編集方針、なぜこういうトラベルガイドブックをつくり続けているのか、どういった基準で選んでいるのかをお伝えしています。そして参加者が、トラベルガイドブックの見どころである、SIGHTS(その土地を知る)、RESTAURANTS(その土地で食事する)、SHOPS(その土地らしい買物)、CAFES(その土地でお茶をする お酒を飲む)、HOTELS(その土地に泊まる)、PEOPLE(その土地のキーマン)の6つのグループに分かれてそれぞれのカテゴリーから取材候補を挙げるディスカッションを行います。

例えば岩手号の場合、SIGHTSチームになった方たちは、岩手らしさを感じられる場所や、メッセージを伝えている場所はどこか考えます。土地に根付いた運営をしているか、入場料や体験料などの価格は適正なのか、そして幅広くメッセージをきちんと伝えていく工夫がされているかなどを見極めながら、ディスカッションして候補を挙げていきます。普通の観光ガイドブックでは、リサーチの段階で載せる場所を決めることが多いと思いますが、『d design travel』では公開編集会議を行った後に、まず編集部が2か月間現地に住み込んで、候補に挙げていただいた場所をいち旅行者として巡っていきます。覆面取材のような感じで、自分自身で体験して、私たちのコンセプトや編集テーマと照らし合わせながら「ここぞ岩手らしい」と感じたところに、ご紹介したい旨を伝えて取材を申し込み、詳しくお話をうかがった上で執筆していくというつくり方をしています。

d47MUSEUMで行なう展示の展示品も編集部が現地から直接お借りし東京へ運んでくる

d47MUSEUMで行なう展示の展示品も編集部が現地から直接お借りし東京へ運んでくる

観光ガイドとしての機能だけではなく、特集した県の方たちにも、自分たちの県の魅力を再認識できる本として楽しんでいただけています。3、7、11月のサイクルで発行しているので、取材する季節によって取り上げるシーンは変わってきますが、あくまで自分たちが体験して感動したものしか載せないというスタンスは変わりません。編集部が体験できなかった季節の魅力や、収まりきらなかったその土地の個性を地元の方々が編集して、2号目としてつくるという動きにつながっていったら嬉しいですね。

また、この本を起点に展開するイベントにも力を入れています。『d design travel』の発売時には、渋谷ヒカリエの『d47 MUSEUM』で同書を立体的に表現する展覧会を行い、『d47食堂』で同書で開発した定食を実際に提供します。加えて、ご当地落語の新作をつくる落語会も連動させて、その土地に行ってみたいと思うきっかけをつくれるように渋谷から発信しています。また、掲載地の方々と継続的に交流することを取材方針として掲げていて、例えば渋谷ヒカリエの『d47 design travel store』では取材させていただいた方の商品を販売し、ワークショップやイベントなども行います。『d design travel』の制作は、この特集で終わりではなくて、その後も一緒にその土地を盛り上げていくパートナーや、仲間をつくる活動にもなっています。

d design travel KAGOSHIMA EXHIBITION

d design travel KAGOSHIMA EXHIBITION

47の展示台を常設した「d47 MUSEUM」を中心に、さまざまな講演、実演、販売、体験、ワークショップなどが連動した、いまの日本を実感できるデザイン物産美術館

47の展示台を常設した「d47 MUSEUM」を中心に、さまざまな講演、実演、販売、体験、ワークショップなどが連動した、いまの日本を実感できるデザイン物産美術館

最近だと、2017年に埼玉号でキーパーソンとして取り上げたPUBLIC DINERの加賀崎勝弘さんから、ご自身の地元である熊谷市の個性を見つめ直す活動をしたいという話が出て、ワーショップ号として『d design travel WORKSHOP KUMAGAYA』の発行が実現しました。編集部のディレクションの元、実際に地元の方が市民ライターとして参加し、『d design travel』と同じようにディスカッションから取材をし、原稿を書いて、編集していきました。この本は県単位なので、そういう風に市区町村へと活動が発展していくのは嬉しいです。PUBLIC DINERさんはその後、D&DEPARTMENTの埼玉店のパートナーにもなり、店舗が6月にオープンしました。

D&DEPARTMENT

長く使い続けられる家具や生活用品などの販売を中心に、衣食住の全般を提案。全店共通で扱う定番の「日本と世界のロングライフデザイン商品」と、それぞれの地域が独自に発掘する「地域のロングライフデザイン商品」で構成されています。また、カフェやギャラリーを併設し、勉強会やワークショップの企画開催、地域の観光情報の発信などを通して、その土地の個性や「らしさ」を見直す活動を行っています。

2000年11月に世田谷区奥沢にオープンした第1号店。約300坪の広い店内にはロングライフデザインの家具、生活用品、書籍やCDなどユーズドも含め、約1500アイテムの幅広い商品がそろう

2000年11月に世田谷区奥沢にオープンした第1号店。約300坪の広い店内にはロングライフデザインの家具、生活用品、書籍やCDなどユーズドも含め、約1500アイテムの幅広い商品がそろう

「D&DEPARTMENT」の活動の大きな軸として、47都道府県に1店舗ずつストアスタイルの拠点をつくる、というものがあります。それぞれが「デザインの道の駅」として、観光案内所や地元の人たちの交流を生むような公民館のような役割を担っていくことを目指しています。商品選定には「知る・使う・引取る・直す・続く」という5つの基準があり、それに基づいて考えながら商品を選んでいます。実際にスタッフが使ってみて、その土地らしいものか、長く支持されるだけの理由があるか、価格が適正かなどをふまえて、体験して良かったものが店頭に並びます。これまではすでに世の中にあるものから見つけ出して紹介していましたが、最近ではその土地ならではの素材や技術をいかに残していくかということを意識し直し、出会った生産者とオリジナル商品をつくる動きが各店で取り組まれています。

その土地の個性の紹介をするのは勿論ですが、長く使い続けることには必ず修理やリサイクルが重要になってきます。D&DEPARTMENTの活動は元々は代表のナガオカがリサイクルショップを回るのが趣味で、シーズンだけのためにデザインされて消えていくものや、適正な価格で売られていない物の消費のサイクルにデザイナーとして疑問を持ちはじめ、すでに世の中にいいものがあるのであれば、それを整理整頓することもデザイナーの役割ではないかという考えからはじまりました。ショッピングバッグのリサイクルや、学校や工業用品で廃棄されたテーブル、椅子やパーツを日常の生活道具として新しい価値を与えられるような商品提案や開発を行ってきました。

イスやテーブル、グラスなど、家具から日用品類まで、さまざまな中古品をセレクトし、買取を実施している

イスやテーブル、グラスなど、家具から日用品類まで、さまざまな中古品をセレクトし、買取を実施している

まだまだ着られるにも関わらず廃棄される服に、少しだけ手を加えることで、再び着られるようにするプロジェクト「d&RE WEAR」

まだまだ着られるにも関わらず廃棄される服に、少しだけ手を加えることで、再び着られるようにするプロジェクト「d&RE WEAR」

テキスタイルの分野では日本各地の生地産地で、商品開発やサンプルのためにつくられたけれど日の目を見ずに倉庫で眠っている生地見本をファッション小物であったり、ラグなどにつくり替えて、それらを通して各地の個性を楽しんでもらうプロジェクトを展開しています。

日本各地の生地産地に保管されていた生地見本を再利用し、47の「個性」とその土地に息づく「技術」を伝える「FROM LIFESTOCK」

日本各地の生地産地に保管されていた生地見本を再利用し、47の「個性」とその土地に息づく「技術」を伝える「FROM LIFESTOCK」

ちょっとした遊び心を大事に、すべて自分ごととしてて楽しむ


最後に、「D&DEPARTMENT PROJECT」の一員として、プロジェクトに携わることの魅力についてうかがいました。

――さまざまな取り組みをされている「D&DEPARTMENT PROJECT」ですが、スタッフはどのようなバックホーンの方が多いですか?

デザインが好きであったり、モノづくりに触れることが好きであったりするスタッフが多いです。一緒に店舗を構えるパートナーに関しては私たちの活動に共感してくださった方が自分たちの地域にもつくりたいと、手が挙がったところから展開していきます。その業種は、デザイナー、飲食関係の方、商業施設、放送局、などさまざまです。富山店は運営のオペレーションは直営ですが、発端は県知事に共感していただいたことがきっかけです。海外1号店のソウル店も同様に、地元のデザイナーさんにお声がけいただいて実現しました。最近は中国からの問い合わせも多く、この秋に黄山市に初めての中国店をオープンします。

――「D&DEPARTMENT PROJECT」を推進する、醍醐味は何だと思いますか?

すべてのことを自分ごととしてて楽しめる環境ですし、逆に楽しめないと続かないプロジェクトが多いかもしれません(笑)。情報を整理して紹介するだけではなくて、もう1歩踏み込んでつくり手や土地の魅力を紹介することによって、考え方やその熱が、市から県、県から国へと広がっていくのが理想です。

最近は、移住を前提にした募集をかけています。地方へ移住するだけでなく、地方から東京に移住してくることもありだと思います。地元だからこそ感じられる良さと、よそ者だからこそ気づける視点をかけ合わせていくことで、よりその土地の個性が際立っていくと思います。これを機に応募して移住される方には移住手当もお出ししています。

その土地に暮らしながら、土地のロングライフデザインを学び伝える、移住スタッフを東京/富山/京都で募集中。実際に富山店勤務のスタッフには移住者も多く、いつも新鮮な目線で富山のことを考えている

その土地に暮らしながら、土地のロングライフデザインを学び伝える、移住スタッフを東京/富山/京都で募集中。実際に富山店勤務のスタッフには移住者も多く、いつも新鮮な目線で富山のことを考えている

私たちは、マーケティングをして買い手のニーズに合わせていくのではなく、ちょっとした遊び心や軽やかさを持ちながら、各地のパートナーやつくり手の皆さんたちと、自分たちがおもしろいと感じることを提案する姿勢がやっぱり大事だなと思っています。

PROFILE
ディアンドデパートメント株式会社
2000年にデザイナーのナガオカケンメイによって創設された「ロングライフデザイン」をテーマとするストアスタイルの活動体。現在は国内外に11店舗を展開。47都道府県に1か所ずつ拠点をつくりながら、物販・飲食・出版・観光を通して、全国的な規模で「息の長いその土地らしいデザイン」の発掘、紹介をしている。
https://www.d-department.com/