面白法人カヤック
取材・文:瀬尾陽(JDN) 撮影:木澤淳一郎

公開日:2016/07/04

働き方インタビュー

VRにおけるトレンドを追求し、きちんとビジネスとして成功させる

面白法人カヤック

原真人 エンジニア

新しい技術を使ってユニークなサービスを次々にリリースする、Web業界では知らぬ者はいない面白法人カヤック(以下、カヤック)。そのカヤックでも近年注力しているVR(バーチャルリアリティ)コンテンツを制作するのが、原真人さん率いるVR部だ。VRコンテンツにとって過渡期ともいえる現在、その先のトレンドとビジネスモデルを見据える原さんにお話をうかがった。

VRはこれまでとはまったく違う世界をもたらしてくれそうだと感じた


Q.原さんのお仕事について教えてください

VR部という部署でリーダーをしています。VR(バーチャルリアリティ)コンテンツを、実際にUnity(ゲームとインタラクティブな3Dコンテンツ制作のための統合開発エンジン)を使って実装するのがメインの仕事です。実装もしつつ、リーダーとして中心に立ってチームを引っ張ったり、それ以外にも企画を考えたり、絵コンテを描いたりと、VR周りのことを色々しています。

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もともと先進的なものや、これまでにない表現ができるものを率先して追っかけてきていたので、ARサイネージ的なものも他社が手を着ける前からつくってきました。どうやらVRもすごいらしいというのを聞いて、実際に体験してみたんですが、ぜんぜんインパクトが違うというか、これまで触れてきたものとはまったく違う世界をもたらしてくれそうだと感じました。

VR部ができる前はデバイス部という部署で、イベントとかデジタルサイネージとか、リアルな場でお客さんが楽しむエンターテインメントコンテンツを制作していました。例えば、「シドニアの騎士」継衛発進体験装置(2014年)は、僕が独自に動いて「シドニアの騎士」製作委員会の方と交渉してつくりました。この頃は自分としてもまだ試行錯誤の段階で、実際にこれが仕事になるのかな?と考えながら開発や研究をしたりしていましたね。ここ一年ぐらいでVRが盛り上がってきて、そろそろVRに軸足を全振りしようかなという感じになり、一年ぐらい前にVR部を立ち上げました。

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Q.カヤックに入社してから現在にいたるまで

大学時代は「はこだて未来大学」の情報アーキテクチャー学科で情報デザインを学びました。その頃はデジタル系のデザイナーになろうかなと思っていましたね。大学卒業後は多摩美術大学の副手の仕事に就きました。そこでメディアアートに初めてふれて、色々なものを複合的に捉えて、全部飲み込むような人たちが最先端のものをつくっていくんだな……というのを目の当たりにして、これは考え方を変えていかないとマズイなと思いましたね。その後、Webディレクターになろうと思ったのですが、それもやっぱり思い直して、独学でjsとかアクションスクリプトとか勉強して、フラッシュエンジニアとしてカヤックに入社しました。

カヤックに入社したのは7~8年前ですね。当時は社員100人ぐらいだった気がします。その頃は鎌倉本社とともに自由が丘支社があって、僕は自由が丘支社のほうに所属していました。

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最初はWebサイトに組み込む用のフラッシュをつくっていて、その頃は中村勇吾さん(tha ltd.)が手がけたユニクロの仕事を見てかっこいいなあと思って刺激を受けましたね。同時期ぐらいにiPhoneアプリが出てきていて、その頃はビジネスとしてまだ早いかな?という感じだったんですけど、それから2~3年の間に一気に広まりだして。その時もObjective-C(プログラミング言語の一種)を勉強して、iPhoneアプリを何本かつくったりしていました。

同時期か少しずれたタイミングで、真鍋大度さん(ライゾマティクス)などがopenFrameworksを使った、リアル体験系のデジタルものが段々と一部の人の間で流行りだしてきて。そういう事例を目の当たりにして、興味がある人がいたら一緒につくろうよみたいな感じで社内で仲間を募り、プロジェクターで投影してインタラクティブなものをつくる、みたいなことを課外活動的にしていましたね。それを社内のディレクターに目をつけられて、『「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズ 電脳空間システム』という、「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズの世界観をopenFrameworksとkinect、プロジェクター2台を使って表現するものをつくりました。

Q.原さんのこれまでの代表的なVRコンテンツ

■タグチ工業「ガジラVR」
― 解体の未来を創り出すプロジェクト「PROJECT GUZZILLA」。同プロジェクトで開発された、重機型巨大ロボットのスーパーガジラに搭乗して操縦を体験することができる、VRコンテンツの企画・制作、および、内装のデザイン・制作をカヤックが担当。Oculusで体験するVRは、4軸シリンダーのモーションシートと連動して実際に操縦している感覚をリアルに味わうことができる。

ガジラ

いま、岡山のタグチ工業さんの本社に戻っているんですけど、これは実物がでかすぎて搬送だけでかなり大変らしいです(笑)。高さ3mとかあって、ものすごくでかいうえに重い。コックピットに乗ってVRを体験するプロジェクトだったんですけど、後にも先にもこんなに大きな乗り物を用意してるケースはありませんでした。

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タグチ工業さんは、瓦礫の解体などの時に使われるショベルカーの爪の部分を作っている会社です。すごいシェア率が高く、全国各地で使われているんですけど、もっと先進的なイメージを打ち出したいというオーダーがきたので、「じゃあ、すごいのをつくりましょうよ!」ということでスタートしました。搬送は大変だけどまたやってみたいですね。

■「シドニアの騎士」 継衛発進体験装置
― 人気TVアニメ「シドニアの騎士」の中でも緊迫感ある「継衛」の発進シーンを、VRヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift (オキュラスリフト)」で体験できるVRコンテンツ。「シドニアの騎士」本編でオンエアされたコクピットの3Dモデルデータをそのまま使用し、音響もブルーレイディスクに収録されている5.1chサラウンドで迫力あるサウンドが楽しめるので、文字通り「アニメの世界に入る」ことができる。

シドニア

「シドニアの騎士」の広報担当の方と人づてで繋がり、「Oculus Rift」(Oculus社が開発・発売しているバーチャルリアリティ向けヘッドマウントディスプレイ)と「DK1(Development Kit 1)」でプロトタイプをつくったところからプロジェクトはスタートしました。「シドニアの騎士」はフル3Dモデルでつくられているアニメーションなんですね。TV放映で使った3Dモデルをそのまま素材として使うことができたので、素材提供するのでプロトタイプに組み込めますか?みたいな感じから話がどんどん進んでいきました。

僕自身も「シドニアの騎士」の大ファンだったので、製作委員会を通じて漫画の原作者の方にお会いしたり、そういう意味で公私混同で楽しめたところもあるというか……どの仕事に対しても熱意は持っていますけど、ミーハーな感じでテンションが上がっちゃったところはありますね(笑)。「シドニアの騎士」自体にコアなファンの人が多いので、認知度の高いVRコンテンツだと思います。

■乖離性ミリオンアーサーVRデモ
― スクウェア・エニックスの人気スマホゲーム「乖離性ミリオンアーサー」のリアルイベント「御祭性ミリオンアーサー」において、ゲームの世界を体験できるVRコンテンツをカヤックで制作。「HTC Vive Pre」を装着し、4人のアーサーから1人を選んでミリオンアーサーの世界に入る。直感的に使いやすいインターフェースにこだわりつつ、剣で斬り付けると攻撃が射出されるなど、操作の気持ちよさも追求。

乖離性

スクウェア・エニックスさんから依頼が来て取り組んだもので、これだけ本格的にゲームとして遊べるようなVRコンテンツは弊社でも制作したことがなくて。特に日本では例が少なかったし、新しいチャレンジだったのでやりがいはすごくありました。

仕様を決めるのに2か月、その後3か月ぐらいで開発をしています。モバイルゲームをそのままVRに移植するというのは様々な課題があり、VRに移植したときにちゃんと楽しめるように色々工夫をしました。モバイルからVRへのUIの置き換えであったりとかというのを、最初にスクウェア・エニックスさんと相談しつつ詰めていく必要があったので、そこに時間がかかったところはありますね。

実は裏話でいうと、この「乖離性ミリオンアーサー」のイベントで使用した「HTC Vive Pre」(台湾のHTC同社が開発したPC向けヘッドマウントディスプレイ)は日本初公開となったので……けっこう綱渡りな部分がありました。はたしてちゃんと公開できるのか?という心配があったので、去年の年末はまったく気が気でなくて…年末感ゼロでしたね(笑)。でもすごく楽しかったですし、現状、弊社で一番クオリティーが高いVRコンテンツもこれかなと思います。

「カヤックから出るVRは凄い」というところを維持し続ける


Q.カヤックの社風を教えてください

以前にいたほかの会社と比べると、表現が難しいんですけど自由というか、仕事外のことで何かつくろうとなった時に、すごくフットワークの軽い人たちが多いですね。「何かそれ面白そうじゃん!」って言ってすぐに一緒につくったりという状況になりやすいです。前向きな社風ですので、新しいものに自ら参加できるといったところが楽しいですね。

Q.VR部リーダーとしてのミッションについて

カヤックからクオリティの高いVRコンテンツを出していくことだと思っています。ここ3年くらいVRを追っかけてきているので、VRコンテンツにおいて何が優れていて、何が新しいかというのは理解しているつもりです。あとはそこからズレないように「カヤックから出るVRは凄い」というところを維持し続けるというのがミッションですね。

もうひとつ自分のミッションだと思っているのが、VRをきちんとビジネスとして成功させることです。いまはお客さんからこういうVRコンテンツをつくりたいというご依頼でビジネスとして成り立っていますが、今後それがずっと続いていくとは限らないというか。たとえば、iPhoneが出て数年間はPRのためにアプリとしてつくってほしいという依頼が沢山ありましたが、それが数年経つと徐々に少なくなって、今ではけっこう大規模なゲームや長く使えるようなアプリでないとビジネスとして成り立たなくなっているという経緯があります。VRでも似たような流れになることは間違いないので、VRにおけるビジネストレンドをきちんと追っかけて、そこに則したものをつくって、ビジネスとして着地させていきたいですね。

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単純にもっと息の長いVRコンテンツをつくっていかなきゃなと思っています。長く楽しんでもらえる何回も使ってもらえるというのは、永遠のテーマなところもありますので、年単位で持つようなVRコンテンツを4〜5年後にちゃんとできるといいなと思っています。開発期間でそれぐらいかかっちゃうかも知れませんけど(笑)。

VR部のメンバーたちがつくりたいものというか、モチベーションがあるとところにぶつけられるようなテーマを提供する、そこには気をつけるようにしています。もちろん全部が当てはまるわけではないですが、そこに上手くはめ込むこめることで、チームの能力を100%からそれ以上まで引き出すことができるかなと思っています。リーダーと言っても単純に言い出しっぺなだけのところもあるので、本当はそういうのは得意じゃない部分もあるんですけれど(笑)。

Q.この仕事の面白さとやりがい

VRに絞っていうと、やはり魅力的な世界そのものをつくって、そこに没入できるということを仕事にできる機会ってあまりないことなので、それ自体が価値があるというか得難い経験だと思っています。

VRという表現に限らず、弊社が常に新しい表現や唯一無二の表現にこだわって仕事をしているので、仕事そのものから刺激をすごく受けます。大変なこともあるというのと表裏一体なんですけど(笑)。ハードルが常に高くて、それを越えた結果得られるものはすごくあって、仕事しながら感動することが常にあるというのが、僕には合ってると思います。

Q.原さんお仕事をほかの言葉で表すと?

うーん難しいですね……。自分はエンジニアだけでなく、指示書や企画書も作成しています。自らチームの異動をしたり、エンジニアからデザイナーへの転向、エンジニアでも別のジャンルのエンジニアになったりする人もいます。なろうと思えば何にでもなれるというのが、カヤックの特色のひとつであると思っています。いまの仕事が苦手だからとかではなく、いまの部署の仕事はマスターしたから、新しいスキルを身に着けるために異動する、スキルを掛け合わせることで”強い自分”をつくってきたという感じですかね。

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PROFILE
面白法人カヤック
鎌倉に本社を置き、事業内容は「日本的面白コンテンツ」。経営理念である「つくる人を増やす」のもと、ソーシャルメディア上で拡散されやすい(バズる)コンテンツの企画・開発を行う。そのクリエイティブ領域は、Webキャンペーン・特設サイト・アプリから、近年ではリアルな場でのインタラクティブイベント、デバイス制作と多岐にわたる。2014年東証マザーズ上場。 http://www.kayac.com/

原真人 エンジニア

面白法人カヤックVR部リーダー兼エンジニア。主にUnityを用いたコンテンツ開発に携わっている。2014年にシドニアの騎士のVR体験コンテンツ「継衛発進体験装置」を手がけ、2015年にはGear VR向けゲームデモ「Little Witch Pie Delivery」を開発。Oculus Storeにリリースした。 同年7月、VR需要のさらなる高まりに対応するため、カヤック内で「VR部」を発足。現在は受託開発を中心にVRコンテンツ開発に取り組んでいる。