Whatever Inc.
タイトルロゴ:かねこあみ 編集:堀合俊博(JDN)

公開日:2020/05/01

働き方インタビュー

【HOW WE WORK REMOTELY vol.1】Whatever Inc.

Whatever Inc.

小野里夏 グラウンドコントロール

相原幸絵 プロデューサー

髙谷優偉 アートディレクター/デザイナー

石川達也 クリエイティブディレクター/コピーライター

コワーキングスペースやシェアオフィスの普及、時差出勤・フレックス制度といった働く時間の変化、さらには働き方改革による副業の解禁など、ここ数年、さまざまな働き方についての議論が進んでいます。そんな中、COVID-19の感染拡大防止に向けて、多くの企業がリモートワークへの切り替えを急速に実施し、2020年はこれからの働き方について考えていく大きな区切りとなる年になりそうです。

多様化が進む働き方のひとつの選択肢として、今後そのあり方が問われていく「リモートワーク」。緊急事態宣言発令という大きな出来事を経て、わたしたちは離れたままどのようにつながり、どのようにチームワークを発揮すればいいのでしょうか?そして、オンラインが前提となった時代における「人と会うこと」の意味とは?

新連載「HOW WE WORK REMOTELY」では、さまざまな企業やデザイン事務所の実践例を通して、リモートワークのメリット/デメリット、在宅仕事にまつわる悲喜こもごもなど、さまざまな声をご紹介したいと思っています。【vol.1】の今回は、クリエイティブ・スタジオ「Whatever Inc.」の実践例をご紹介。先日、オンラインビデオ通話ツール「Zoom」で使用することができる背景画像「Zoomoji」を発表したばかりの同スタジオは、東京、NY、台北、ベルリンといった多拠点で活動をしており、設立当初からリモートワークを制度として取り入れています。

東京オフィスでグラウンドコントロールを担当する小野里夏さん、外出自粛期間を機に本格的にリモートワークをはじめたというプロデューサーの相原幸絵さん、かれこれ6年間大阪からリモートで仕事をしているデザイナーの髙谷優偉さん、NYのオフィスメンバーとして、もともと日本とはリモートで仕事をしているクリエイティブディレクターの石川達也さんに、お話をうかがいました。

Q.リモートワークはいつから実践していますか?

小野里夏さん(以下、小野):「Whatever Inc.」は、2014年4月の会社設立当初から、リモートワークを実施しています。クリエイター職に関しては出社義務がないので、いわゆる“どこでも仕事ができる仕組み”を取り入れています。

大阪・岡山在住のメンバーや、NY、台湾、ベルリンのオフィスのメンバーとは、基本がリモートでのコミュニケーションです。その他のリモートワークの実践率は40%ほど。自宅からリモートで会議に参加した後に出社したり、早めに帰宅して自宅作業に切り替えたり、個々でワークスタイルを確立している印象です。現在はこの状況化なので、完全にリモートワーク(基本在宅)を実施しています。

乃木坂にある「Whatever」東京オフィス

乃木坂にある「Whatever」東京オフィス

Q.リモートワークのメリットは何だと思いますか?

相原幸絵さん(以下、相原):おしゃべりな自分としては、オフィスにいる時と違って誰とも気軽にしゃべれないことが寂しくもあるのですが……。一方で、リモートワークだとひとり作業なので自然と集中力が増すということに気付きました。

あとは、手作りランチで健康に気を遣えるところもいいなと思っています。リモートワークをはじめてから、自炊がより楽しくなりました。

髙谷優偉さん(以下、髙谷):家族4人で暮らす自宅で作業をしていますが、ミーティング以外の時間を自分でコントロールできるのが大きいメリットだと感じています。できる限り17時から21時を家族の時間として使えるように、その他の時間をうまく調整して仕事するようにしています。もちろんその通りに進まない日も多々ありますが、それでもリモートワーク前と比べて随分と仕事と生活の両立がしやすくなったのを感じています。

石川達也さん(以下、石川):無意識にですが、自分のことをいままで以上に考えるようになりました。リモートワークになると、何かに所属しているという感覚が少なからず薄れることになるので、いい意味で精神的に独立するような気がします。複数人の飲み会ではなく、ひとりで飲んでいるような感覚に近いかもしれません。向き不向きはあるとは思いますが、個人的には大きなメリットです。ただ、頑張って仕事をしているというような姿勢を見せることが難しいので、ファクトファースト・結果ファーストになります。

あと、オンライン会議だと誰かが考えたりしている間の「無言」がなくなるので、効率はものすごくいいなと。だらだらと長い無駄な打ち合わせがなくなります。

Q. 逆に、リモートワークのデメリットは何だと思いますか?

相原:ミーティングなどに関しては問題ありませんが、撮影や編集作業のように直接対面でディスカッションしながら行う作業には向いていないと思います。

髙谷:ビデオ会議の際、小さな声での発言が聞き取りづらかったり、表情や仕草が見えないので、細かなニュアンスが汲み取りにくく、そういった部分でコミュニケーションの精度が落ちているのを感じます。ちょっとした質問もしづらかったり。「隣にいたらなあ」と思うことが多々ありますね。

ネットワーク回線が悪いとオンラインミーティングの時に話している途中で会話が途切れて円滑に進まなかったり、社外の方とのやりとりに関しても、企業ごとに異なるツール・サービスを使っている場合のすり合わせ時間や、それらのツールにエラーが起こったり。そういった、ネットワークやデバイスなどの環境によって生じる時間のロスがもったいないなと感じる時があります。

on / offの切り替えに関しては、off→onはすぐにできるのですが、on→offに関しては、ものすごく意識しないと気持ちが切り替えにくいです。出社や帰宅、終電といった区切りもないので、体調を崩さないよう意識して睡眠時間を確保するようにしています。通勤・移動が意外と運動になっていたことも実感しますね。

石川:自分を律せないタイプの人だと、自宅で仕事するのは難しいかと思います。あとは、仕事をしている間の時間が不透明になるので、マネージメントが多少難しくなるかもしれません。マネージャーは、スタッフに対して「大丈夫?」と気にかけたり、精神的なケアをする必要性が増えるような気がします。

余談ですが、NYからリモートで映像をつないでもらい撮影のロケハンをしてみるなども試してみましたが、はっきり言って無理でした(笑)。

乃木坂にある「Whatever」東京オフィス

Q.リモートワークのために使用しているツールや、おすすめのものを教えてください。

小野:ミーティングに関しては、「Zoom」を使っています。その他のコミュニケーションは社内外どちらも「Slack」とメールが中心で、社外の方とはメッセンジャーでやりとりすることもあります。

社内で使用している作業ツールとしては、「G Suite」(Drive、スプレッドシート、ドキュメント、スライド、カレンダー)を中心に、「Dropbox」や「Dropbox Paper」、あとはプロジェクト管理ツールとして「Basecamp」「Asana」を使用しています。クラウドの共有サーバーを使用することで、どこからでもファイルにアクセスできる環境をつくれるので、リモートワークをする上ではとても重要だと思います。

相原:リマインダーがおすすめです。ひとりで作業に没頭していると時間を忘れがちなので、1時間ごとに体を動かすようにしたり、意識的にコーヒーブレイクを挟むようにして、気分転換をしています。

あとは、自宅の中できちんと仕事環境を整備することをおすすめします。リモートワークになってから急に腰痛がひどくなり、オフィスのディスプレイと椅子を自宅に持ち帰って使用しているのですが、痛みの改善のほか、作業効率も上がりましたね。

Q.リモートワークを通して気付いたことや、感じたことを聞かせてください。

相原:オフィスにいる時のようにカジュアルに社内のメンバーと会話をすることができない分、リモートワークにおけるミーティングはそこで全ての課題を確認・解決しないといけないので、通常のミーティングよりも密度が濃く感じます。アジェンダを用意したり、漏れのないように事前の準備をしたりして、できるだけ円滑に進められるよう心がけています。

それから、移動時間が削減できるので、その分ミーティングの本数や作業時間が増やせるのがいいなと思っています。今までリモートワークをされていなかった方達も、今回の状況を受けて、リモートでもできることがたくさんあるということに気付かれたと思うので、これを機にリモートでのミーティングがもっと一般的になるといいなと感じています。

髙谷:リモートワークには、「向いてる or 向いてない」がある気がしています。自分がどちらに向いているのか、あるいはどの環境だと働きやすくて、効率がいいのかなど、今回のことをきっかけにあらためて考えるタイミングなのかなと。

個人的には、かれこれ5年半ほど在宅リモートワークなのですが、仕事をしている隣に家族がいて、仕事と向き合ったり家族と向き合ったりを1日の中で繰り返すという環境がもはや日常です。むしろ久しぶりにオフィスに行くとちょっと緊張したり。

石川:現在NYオフィスで働いているのですが、みんながリモートだと「自分だけ他の国」みたいな感覚がなくなり、「みんな違う部屋」という感覚でフラットに仕事ができることに気付きました。

リモートワークは、働く人と人の距離を広げてくれます。日本中、世界中、どこにいたって一緒に働けるようになる。だからこそ仕事をしながらも、地方を点々としながら暮らしたり、1か月だけ他の国で暮らしてみることだってできる。距離にしばられない働き方が、場所にとらわれない生き方に反映されていくと素敵だなあと感じます。

Whateverが制作したZoomで使用できる背景画像「Zoomoji」

Whateverが制作したZoomで使用できる背景画像「Zoomoji」

Q.リモートワークをする上で「こんなものがあればいいのに」などのアイデアがあればお聞かせください。

相原:一部の編集室では取り入れられていますが、映像再生などに遅延がなくスムーズに共有できるシステムが一般的になると、ミーティングの質も上がるし、地域や国を超えた作業がしやすくなり、今後リモートワークや、地域を超えた人たちとの仕事の可能性が広がっていくだろうなと感じています。

髙谷:自宅でのリモートワークだと、閲覧できる資料(デザイン書・カラーガイドなど)に限界があります。企業の資産である資料がデータベース化されて、いつでもどこからでも見ることができるような仕組みが導入されたらいいなと思います。

Q.最後に、リモートワークを実践している方に、メッセージやアドバイスがあればお聞かせください。

相原:どんな環境でもモチベーションを上げたり楽しんだりするカギはあるはずなので、それを探ること自体も楽しめるといいですね。

髙谷:仕事・プライベート、そのどちらもが充実してこその生活だと思うので、自分のベストな環境をあらためて考えながら、それが実現できる働き方を探すのもありかも?

石川:いつの間にかAmazonで欲しいものを探しているのに気がついたら、速攻でパソコンを閉じ、ベランダに行ってスマホのメモで作業してみたり、紙とペンで手を動かしてみたり、とにかく家の中でも環境を変えることをおすすめします。

PROFILE
Whatever Inc.
誰も見たことがないようなアイデアを考え、あらゆる方法でそれを実現していくクリエイティブスタジオ。東京、ニューヨーク、台北、ベルリンの拠点を活かし、世界を舞台に広告やブランディングから、テレビ番組、ゲーム、プロダクトなどのコンテンツや新規事業開発まで、さまざまな分野のモノづくりを手がけている。https://whatever.co/

小野里夏 グラウンドコントロール

生まれも育ちも埼玉県。20代半ばに飲食業界から東京にある広告制作会社「BASE」のバックオフィスにキャリアチェンジ。経理や総務、Pマークの個人情報監査責任者などの傍ら、オウンドメディア「街角のクリエイティブ」の立ち上げに参画し、編集・ライター業務担当。その後、Webコンテンツの提供から、講座、トークイベント、ワークショップ等の企画・実施などを行うオンラインサロンの運営などにも従事。 2017年7月に 「dot by dot」へ入社し、総務、広報を担当。2019年より Whateverに所属。会社のコア・バリューが息づくように働きかけるGround Controlとしても活動中。

相原幸絵 プロデューサー

エージェンシーサイドからプロダクションサイドまで、クリエイティブにまつわる様々なRoleをこなすプロデューサー。大学で映像を専攻し、2005年に映像制作会社・太陽企画に入社。CM、MV、ショートフィルムやイベントなど多岐にわたる仕事で活躍し、Cannes Lions、One Show、D&AD、Webby Awardをはじめとする広告祭で幾多の賞を受賞している。2015年に渡米し、PARTY New Yorkにジョイン。映像のみならず、インスタレーション、イベント、デジタル、プロダクトなど幅広い案件のプロデュースを行ってきた。2019年よりWhatever所属。

髙谷優偉 アートディレクター/デザイナー

1983年生まれ。鋼の肉体と、ガラスのハートと、デリケートな肌をもつデザイナー。Cannes Lions、The Webby Awards、ADFEST、文化庁メディア芸術祭、グッドデザイン賞、Tomorrow Awards 他、多数受賞。絵本を描いて、我が子にだけこっそり読ませるのが趣味。三度の飯よりドラゴンボールが好き。

石川達也 クリエイティブディレクター/コピーライター

クリエイティブエージェンシー「GROUND」にて学んだ後、渡英。自らクライアントを開拓し、数々のブランディングを手がける。帰国後、フリーランスとして活動を開始。映像やブランディング、広告キャンペーンを中心に活動する。ヤングカンヌライオンPR部門 日本代表や、 D&AD、カンヌ広告祭をはじめ世界的広告賞を受賞。その後、株式会社BSPK™を設立。2019年よりCo-createrとしてWhatever NYに所属。
BSPK™:bspkcr.com
Twitter:https://twitter.com/t_i_1207