株式会社ロッキング・オン・ホールディングス
執筆:室井美優(Playce) 写真:加藤麻希 取材・編集:岩渕真理子(JDN)

公開日:2025/06/26

働き方インタビュー PR

「カルチャー」への探求心。ロッキング・オンのインハウスデザイナーが語るクリエイティブの本質

株式会社ロッキング・オン・ホールディングス

田中力弥 (クリエイティブディレクター)

大橋麻里奈 (アートディレクター )

『ROCKIN’ON JAPAN』などの雑誌をはじめ、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』などの音楽フェス、Webメディア、アパレル、アーティストマネジメントと、音楽を核とした多角的な事業を展開している株式会社ロッキング・オン・ホールディングス(以下、ロッキング・オン)。「まだ見ぬ音楽体験を創出する」という理念のもと、音楽文化の継承と発展に向けた挑戦を続けている。

今回は、同社のイベント部クリエイティブディレクターの田中力弥さん、アートディレクターで『ROCKIN’ON JAPAN』副編集長も務める大橋麻里奈さんにインタビュー。同社のインハウスデザイナーとして働く魅力やこだわり、業務で求められる視点についてうかがった。

シンプルながらも人の心を動かす、ロッキング・オンらしさ

——はじめに、現在のお仕事の内容を教えてください。

田中力弥さん(以下、田中):僕はおもに、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』『COUNTDOWN JAPAN』『JAPAN JAM』をはじめとした、ロッキング・オンが手がける音楽フェスのトータルデザインを担当しています。ロゴやグッズ、広告、ステージ・装飾など、ビジュアルに関わることは基本的に何でも手がけています。

フェス以外にも雑誌のアートディレクションなど、ほかの事業に関わることも多いですね。入社して約25年、会社を横断しながらさまざまな案件に携わっています。

田中力弥さん

田中力弥さん

大橋麻里奈さん(以下、大橋):私はメディア部に所属し、おもに雑誌『ROCKIN’ON JAPAN』のアートディレクション、デザインを担当しています。毎月約10件前後の撮影があるのですが、その企画や現場のディレクションもおこなっています。

他社ではデザイナーが撮影現場に行くことはあまりないと思いますが、私たちの場合は現場におもむき、細かく撮影から関わっています。

大橋麻里奈さん

大橋麻里奈さん

——さまざまな案件を担当されているお二人が、日頃から力を入れていることや、デザインする上で大切にしていることを教えてください。

田中:一番エネルギーが必要なのは、フェスのロゴデザインですね。ロッキング・オンのフェスは、毎回ロゴを変えるのが特徴なんです。たとえば、2024年の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』は25周年という節目で、夏は蘇我、秋はひたちなかという2会場で開催しました。それぞれ、ロゴもマーチャンダイズもそれぞれに合わせて考える必要がありました。

正直、大変でしたね(笑)。ですが、毎年違うロゴにしているので「今年はイマイチだ……」と思いたくないんです。それは僕にとっての小さな達成感に繋がっています。

『ROCK IN JAPAN FES 2025』のロゴ

『ROCK IN JAPAN FES 2025』のロゴ

田中:ロゴはシンプルなだけに、すごく難しいんです。たったひとつのロゴで、日本最大級のフェスを表現しなくてはいけないし、販促物や広告、グッズに展開しても耐えられるデザインでなければいけない。だからこそ心がけているのが、「足し算」ではなく「引き算」のデザインです。

最小限の要素で、いかに強く印象を残せるかを意識しています。そこは、雑誌づくりをしている大橋も、通じる部分があるんじゃないかな。

大橋:たしかに、ロッキング・オンには情報をシンプルに、素早く、力強く伝えるデザイン表現が多いですよね。そうしたデザインに惹かれたのも、入社を決めた理由のひとつです。

私が日々の制作で大事にしているのは、「どれだけ人を巻き込めるか」。いまこのデザインを届けるべき相手は誰で、どうすればその人の心を動かせるのか……。そこを常に考えています。

もちろん、シンプルに見せた方がいい場合もあれば、あえて凝った手づくり感を出した方が届くこともあります。大事なのは“どう見せるか”より“誰に何を伝えるか”。その感覚を磨きながら、日々デザインに取り組んでいます。

洋楽雑誌『rockin'on』 邦楽雑誌『ROCKIN'ON JAPAN』 カルチャー誌『CUT』

左から洋楽雑誌『rockin’on』、邦楽雑誌『ROCKIN’ON JAPAN』、カルチャー誌『CUT』

田中:「どうすれば届くか」は、僕も現場に足を運ぶたびに考えます。僕が手がけるグッズやアパレルは、参加者が直接手に取るものです。雑誌もそうですが、そもそも僕らがつくったものを消費者に“お金を払って買ってもらえる”って、本当にすごいことだと思うんです。だからこそ、「全力を出し切って、ようやく消費者の目線に立てる」くらいの厳しい目標を自分に課しています。

いまやフェス参加者の世代も価値観もどんどん変化しているなかで、自分が止まってしまったら、ますます届かなくなる。キャリアに甘えたり、手癖でつくったりしないように、常に現場感覚を持ち続けることが大切だと感じています。

会社の「アイデンティティ」をつくるインハウスデザイナー

——ロッキング・オンのインハウスデザイナーは、田中さんと大橋さんのお二人のみとうかがっています。貴社のインハウスデザイナーならではの特徴を教えてください。

田中:僕たちのおもな役割は、コンテンツの軸となる部分のディレクションをすること。一般的にデザイナーはレイアウトや仕上げを担当することが多いと思いますが、ロッキング・オンでは、企画の初期段階から制作会議や編集会議に参加し、ゼロベースから一緒にコンテンツを考えていきます。

僕はロッキング・オンに入社する前、名古屋のデザイン制作会社で働いていました。当時は、写真や原稿といった素材がすべて揃った状態で手元に届き、それを“整える”ことがおもな仕事でした。でも次第に、もっとビジュアルの根幹から関わりたいという想いが強くなり、たどり着いたのがロッキング・オンだったんです。

ここのインハウスデザイナーは雑誌やイベントの全体像を考える立場にいるので、いわゆる“会社が考えたことを具現化する人”ではない。むしろ、“会社のアイデンティティをつくる人”という感覚ですね。自分たちのアウトプットがそのまま会社のイメージに繋がるからこそ難しさもありますが、それ以上に面白さがあると思っています。

——お話を聞いていると、デザインを「仕上げる」だけでなく、コンテンツの「中核」にもデザイナーが深く関わっていることが伝わってきます。

大橋:まさにそこが一番の特徴ですよね。私も前職では、田中さんと同じ理由でフラストレーションがたまっていました……(笑)。「ここを根本的に変えた方がいいんじゃないか」と思っても、自分の担当範囲ではないからと諦めることが多々ありました。でもいまは、企画の根本から関わることができるので、大きなやりがいを感じています。

私は『ROCKIN’ON JAPAN』で副編集長をしていることもあり、表紙や特集のコピー案を自分から出すことも多いです。デザイナーと編集者がそれぞれの視点で意見を出し合い、ブラッシュアップしていくことで、一貫性のある企画が生まれる。そうした制作環境は、ロッキング・オンの魅力だと思います。

雑誌のデザイン

雑誌のデザイン

田中:それが当たり前の環境なんですよね。コピーについて「この表現どう思う?」と編集者から相談されることもあれば、逆に僕らが「ここはこういう構成の方が伝わるんじゃない?」と提案することもあります。デザイナーだから、編集者だからという役割を超えて、お互いがフラットに意見を言い合える会社だと思います。

大橋:あと、「PDCAを回しやすい」というのもロッキング・オンならではの特徴かもしれません。1年に3つのフェスを開催しているので、売れるデザインを見直したり、レイアウトを変えたりと、現場で見つけた気づきを次のイベントに活かすことができるんです。そのスピード感は、会社全体に根付いています。

田中:リアルタイムで改善していくんですよね。たとえば、5月に開催される『JAPAN JAM』の現場に行くころには、夏の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』のグッズデザインは、ほぼ最終段階まで進んでいます。でも、『JAPAN JAM』で実際に来てくれたお客さんの反応を見て「もっとこうした方がいい」と思えば、入稿直前でも全員でデザインを考え直すんです。そうしたブラッシュアップは、日常的にやってますね。

フェスグッズ

フェスグッズ

ユーザー、そして時代に向き合い挑戦し続ける

——ここからは会社の魅力、社風についてうかがいます。入社して感じた貴社の魅力について教えてください。

田中:「時代に合わせて、柔軟に変化していく姿勢」こそが、一番の魅力じゃないかなと思います。僕が入社した1997年当時は、出版業界がまだとても元気な時代で、会社の体質もまさに“出版社”そのものでした。

でも、フェスやイベントの開催、Webメディアの立ち上げなど、時代の流れに応じて事業も大きく変化していったんです。多くの企業や組織は、歴史が長くなるほど変化に対して慎重になりがちですが、この会社には変わろうとするエネルギーがあると思います。

要するに、ユーザーファーストの会社ですよね。「いま求められている姿は何か」という意識が常にあって、そこを目指してこれからもどんどん変わろうとしている。働いている身としても面白いですね。

大橋:私たちが扱っている「音楽」も、まさに時代の移り変わりが激しいものですよね。だからこそ常にアップデートし続ける姿勢が求められますが、ロッキング・オンは上層部との距離が近く、決裁までのスピード感がとても早い。つまり「やってみたい」と思ったことを、すぐに形にしやすいんです。

さらに、ポテンシャルがある人にはどんどん仕事を任せてくれる社風も、魅力だと思います。私は入社して1年後に、いきなり雑誌のアートディレクターを任されました。前職でもエディトリアルに携わっていましたが、フォトディレクションはほぼ初めてで正直不安でしたね(笑)。

でもこの会社は、「この人ならできる」と思ったら、思いっきり任せてくれるんです。努力とやる気があれば、いろいろなことにどんどんチャレンジできる環境があると思います。

あらゆるカルチャーへの好奇心が、最良のクリエイティブに繋がる

——では、どんな方がロッキング・オンに向いていると思いますか?

田中:音楽や映画などのカルチャーに興味があって、「ここで何かを表現したい」と思える人、ですね。僕自身も、音楽やファッションなどのカルチャーが大好きで、「デザイナーとしてここに入りたい」というより、「ロッキング・オンという文化に関わりたい」という気持ちの方が強かったです。そこは大橋も同じだと思います。

つまり、カルチャーやコンテンツを生み出すことに対してある種ハングリーな人の方が、居心地よく働けるんじゃないかな。

大橋:その姿勢は本当に大事ですね。音楽だけでなく、ファッションや映画、アートなどあらゆるカルチャーに対して「好き」と思える気持ちや、知識が自然に繋がっている人の方が、仕事を楽しめると思います。逆に、それがないと少し苦労するかもしれません。

ロッキング・オン

大橋:私は、邦楽の雑誌を担当していますが、邦楽だけ知っていればいいわけじゃない。「このバンドは海外のあのバンドが好きだからこういう表現にしよう」、「この映画の世界観から表現を考えよう」、「このファッションショーの世界観が合うんじゃないか」など、いろいろな要素を掛け合わせて考える力が必要なんですよね。

もちろん、最初から知識が豊富じゃなくても大丈夫です。ただ、あらゆることに興味を持ち、自分なりに掘り下げていける人。それは大前提だと思います。

田中:僕や大橋がデザインのインスピレーションを得ているのは、いうなれば日常生活なんです。「このライブ最高だったな」「このショーかっこよかったな」みたいな経験が自然とストックされて、そのなかから「あの時のものが、この企画で使えるかも」と自然にアウトプットへと繋がっていくイメージですね。

一方で、常に「アイデアを探さなきゃ」「ネタを見つけなきゃ」と構えてしまうと、何もかもが仕事になって、ストレスもプレッシャーも大きくなってしまいます。だからこそ、カルチャーへの感度が高く、自然体で楽しめる人が向いていると思います。

大橋:そして、コミュニケーション能力も大切ですね。ひとつの企画を依頼するとしても、どんなコミュニケーションを重ねるかによって、アウトプットの質や方向性がまったく変わってきます。私たちの仕事は、多くの関係者と関わります。全員でよりよいクリエイティブを生み出すためにも、相手を惹き込むコミュニケーション能力が欠かせないです。

新たな仲間とともに、まだ見ぬ音楽体験を目指して

——将来入社するデザイナーとは、どのような仕事をしていきたいですか。

田中:その人のキャリアや適性に応じて、どの領域に関わってもらうか柔軟に考えていきたいです。僕や大橋も、もともと「これをやりたい」と明確に決めていたわけではなく、自分の得意なこと、興味のある分野を会社とすり合わせながら、いまのポジションにたどり着きました。ですので、新しく入ってくださる方にも、意識している強みだけでなく、まだ気づいていない適性を一緒に見つけながら、キャリアを広げていってほしいと思っています。

大橋:ロッキング・オンは全社で80名程度の会社なので、プロデューサーやディレクター的な立場になりたいという意識を持った人を求めています。もちろんデザイナーを増やしていくのですが、少数精鋭の会社なので、多角的な視点を持った方とご一緒したいと考えています。

ただ、こういう話をすると「労働環境がハードなのかな」と心配されるかもしれませんが、そこは安心してください(笑)。疲弊するような働き方はしていません。効率的で合理的に、楽しく働ける環境だと思っています。いまはデザイナー2人ですが、お互いにフォローし合えるデザイナーチームをつくっていく予定です。

ロッキング・オン

田中:すごく健全ですよね。毎日徹夜、休日出勤してひいひい言いながら仕事をする、みたいなやり方は会社としてもNGですし、クオリティの高いアウトプットには繋がらないと思います。

一方で、健全な労働環境のなかで、いかにして最高のクリエイティブを生み出すかを考える必要があります。そういう意味では、働き方も含めて、前向きにアップデートし続けていける会社でありたいですね。

——最後に、ロッキング・オンのインハウスデザイナーとして、今後の展望をお聞かせください。

田中:僕と大橋の2人だけでこの会社の全クリエイティブを担うのは、現状も、将来的にも厳しいというのが正直なところです。「ここもっとやりたい」「もっとクオリティを上げたい」と思っていても、手が回らなくて歯がゆい思いをしてきました。そのためにも、まずは体制をきちんと整えて、手が届いていない領域や、いまつくっているもののクオリティをさらに高めていく。そこがいま一番大事にしたい部分です。

大橋:そうですね。音楽シーンを前進させたい、拡張させたいという想いを抱えながらも、現状やりきれていない部分がまだまだあります。デザイナーが関われるフィールドも広いので、新たな仲間と一緒にチャレンジしていけたら嬉しいなと思っています。

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ロッキング・オン

PROFILE
株式会社ロッキング・オン・ホールディングス
洋楽誌『rockin'on』の出版社としてスタートし、現在は出版・イベント・Web事業を中心に、アーティストマネジメントやアパレル事業にも進出。音楽を核とした多様な事業を展開している。

田中力弥 (クリエイティブディレクター)

名古屋のデザイン制作会社を経て、1997年入社。雑誌のアートディレクターを務めた後、現在はイベント部にて『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』をはじめとするフェスのロゴやオフィシャルグッズ、ステージデザインなどのデザイン全般を手がけている。そのほかにも『CUT』のアートディレクションも担当。

大橋麻里奈 (アートディレクター )

高校でファッション、大学でデザインを専攻。デザイン制作会社で経験を積み、2013年にロッキング・オンに入社。現在はメディア部にて、おもに『ROCKIN'ON JAPAN』のアートディレクションとデザインを担当。