株式会社イトーキ
タイトルロゴ:かねこあみ 編集:堀合俊博(JDN)

公開日:2020/06/01

働き方インタビュー

【HOW WE WORK REMOTELY vol.5】イトーキ

株式会社イトーキ

田中啓介 商品開発本部

山本洋平 商品開発本部

宮田亜由子 CMFデザイナー

コワーキングスペースやシェアオフィスの普及、時差出勤・フレックス制度といった働く時間の変化、さらには働き方改革による副業の解禁など、ここ数年、さまざまな働き方についての議論が進んできました。そんな中、COVID-19の感染拡大という状況を受けた急速なリモートワークへの切り替えが進む2020年は、これからの働き方について考えていく大きな区切りとなる年になりそうです。

多様化が進む働き方のひとつの選択肢として、今後の「リモートワーク」のあり方について考える「HOW WE WORK REMOTELY」。今回は、オフィス家具メーカー「イトーキ」の実践例をご紹介します。「明日の『働く』を、デザインする。」をミッションに掲げる同社は、オフィス空間を手がけるメーカーとして長い歴史を持つとともに、2018年には新しい働き方を実現するためのオフィスとして「ITOKI TOKYO XORK」をオープン。時代の流れとともに変化する働き方についての情報を発信し続けています。

デザイン情報サイト「JDN」では、イトーキのインハウスデザイナーとプロダクトデザイナーの柴田文江さんとのコラボレーションによって生まれた「vertebra03」について取材しましたが、“「働く」と「暮らす」を越境するワークチェア”という同製品のコンセプトは、リモートワークが進むいまの状況を言い表した言葉だと思います。商品開発本部の田中啓介さんと山本洋平さん、CMFデザイナーの宮田亜由子さんに、日々のリモートワーク実践例をご紹介いただきました。

Q.リモートワークは実践していますか?

田中啓介さん(以下、田中):数年前から在宅やオフィス以外の他のスペースでのリモートワークを、おおよそ週1回のペースで実践していましたが、いまは週の大半を在宅でのリモートワークにシフトしています。自分の所属している組織の実践率は100%で、なにか理由のある場合に上長の判断で、それぞれのタイミングで出社をしています。

山本洋平さん(以下、山本):僕は2019年の後半くらいから、会社や部の理解もあって月に2、3回ほどリモートワークを実施していました。打ち合わせがない日や、黙々と事務作業的なタスクが続きそうな日は家でやろうという感じです。

新型コロナの感染拡大後、特に3月後半ごろから週2~4日のペースでリモートワークに切り替えています。現在月島オフィスの半数が開発メンバーですが、オフィスに来て仕事をしているのは2~4割くらいでしょうか。本部からオフィス出社時のルールを厳しくする通達メールもあったため、出社率もどんどん減っています。

宮田亜由子さん(以下、宮田):在宅もしくはカフェなどでのテレワークを月1、2回程度行っていましたが、このコロナの騒動からほぼ毎日在宅で仕事をしています。業務上、実物のサンプルを確認しなくてはならない時だけ上長から許可を得て出社できるようなスタイルで働いています。

Q.リモートワークのメリットは何だと思いますか?

田中:ひとりでじっくり考える時間や、作業を淡々と進めるなどの場合は、自宅に快適な作業環境がある人はリモートワークの方がむしろメリットがあると感じています。家族の事情で家に居なくてはいけない場合も、スケジュールの調整次第で対応が可能になります。ミーティングの出席者を調整するのにも、リモートワーカー同士であれば移動時間や参加拠点のファシリティの予約などを考慮しなくてもいい場合もあるので、メリットと言えるかもしれません。

山本:オフィスでの仕事よりもノイズがないので、事務的なタスクや集中作業のスピードが上がる気がしています。

それに、通勤時間と身支度にかける時間(1~3時間/日)がなくなるので、その分仕事時間に充てられています。「自分のこの仕事は、どの場所/どういう環境でやるのが最適か?」という意識が育つように感じていますね。これは、イトーキが勧めているABW(Activity Based Working)の働き方のベースとなる考え方です。

宮田:とにかく時間の使い方にゆとりができたように思います。通勤自体を苦に思っていた訳ではありませんが、休憩時間や朝夕の時間を自分や家族のことに使えることで、いままでよりも暮らしが豊かになっているように感じます。この前、昼休みの時間にずっとやりたかったグリーンの植え替えをしました(笑)。

宮田さんのご自宅の仕事環境。椅子はどちらも「vertebra03」。

宮田さんのご自宅の仕事環境。椅子はどちらも「vertebra03」。

Q.逆に、リモートワークのデメリットは何だと思いますか?

田中:決議を目的とするような会議のファシリテーター役は、参加人数が増えれば増えるほど空気を読みづらく、表情を読みながら進行させるような手法が取りづらいですね。アイデアブレストなど、大きな一覧性のある壁を使ってまとめたり、収束させていくようなやり方の会議や、アナログ資料(カタログや素材サンプル、デザインサンプル)をアイデアソースに、メンバーと共有しながら方向性を固めていく会議など、そういった場面はやはりリアルな場が必要だと感じています。弊社のような商材は、試作品をつくって体感し、調整を繰り返しブラッシュアップをしていくような商品開発プロセスが大事なので、それがリモートではできない。

また、どうしても部屋に閉じこもってばかりだと、アイデアソースが偏ったり、思考が発散しづらいので、現場に行くことや移動による刺激が欲しくなってきますね…。

山本:致命的なのは、サンプル/試作品の確認ができないことですね…。それに、リモートで仕事を進めるにあたっては、マネージャーがチームのメンバーを信頼することが不可欠だと思います。うちのマネージャーも、もしかしたら不安になってるかもしれません…。

社外の方とのコミュニケーションに関しては、Web会議やLINEなどのコミュニケーションツールを共有していないことが多いので、やりづらさを感じています。社内に関しても、他の開発テーマの進捗など、ノンバーバルなコミュニケーションによる「肌感」が伝わらないのもデメリットだと思います。

また、通勤にかけていた運動量が丸ごとなくなったので、運動不足です。オフィスで無意識に立ったり歩いたりしている運動量ってそれなりにあったんだなと、AppleWatchで可視化されて気付きました。トイレに行くだけでもオフィスではそれなりの距離を歩きますが、自宅では数歩で済んでしまうので。

あとは、単身赴任者などは、ワンルームの部屋でダイニングテーブル&ダイニングチェアすらなく、ソファとローテーブルで仕事するしかないため、姿勢がとてもつらいという話をいくつか耳にしました。自宅にワークスペース環境を整える必要があるので出費もかかりますね。

宮田:大人数での会議、特に自分がプレゼンテーションしなくてはならない場では、どうしてもやりづらさを感じます。普段から会議では空気を見ながら言葉を選び進めるタイプなので、参加者全員の顔が見えないのはとてもしんどいです。

逆に、インカメラに写っている自分を見て、「随分オーバーリアクションだな」とも思います。うまくリアクションを相手に伝える方法があればいいんですが…。あと、業務でつながりはないけどお昼は一緒に食べていた同僚とはすっかり分断されてしまいました。さみしい!

Q.リモートワークのために使用しているツールや、おすすめのものを教えてください。

田中:集中しながらもほどほどの雑音が欲しくなるので、久しぶりにアンプとスピーカーの配線をつないで、スピーカーから音を出してみました。

あとは作業するにあたって、適度に身体をサポートするための椅子はやはり必要だと思います。

ツールに関しては、iPadで「Google Meet」をつなぎ、資料はノートPCで確認という使い方をしています。ちょっとした相談事や情報共有には、Google Meetのメッセージ機能を使うと早いですね。

山本:Google ハングアウトのチャットを使った打ち合わせはすごくいいです。チャットツールのやりとりは、若い人はLINEに慣れているというのもあって、フィジカルの打ち合わせよりも年齢や上限関係にかかわらず、言うことがはっきりするように思います。やりとりの履歴も勝手に残るため議事録をとる必要もないので、多くの打ち合わせはチャットで代用できそうです。

運動不足解消と仕事の効率化のために、自宅にもスタンディングデスクとモニターアームがあればいいなと思い、Amazonで3万円以下の電動昇降デスク脚を購入してしまいました。オフィスよりも、自宅ワークスペースにこそこういったデスクは必要な気がします。

あと、IKEAの「メステルビー」を使っています。テーブルの上に置くと即席スタンディングデスクになりますよ。

山本さんのご自宅の仕事環境

山本さんのご自宅の仕事環境

宮田ノートPC2台の同時使いが定番化しています。Web会議が日に2、3件入るので、1台はほぼ会議専用機です。資料を読み込む顔がWebカメラに大きく写りこむことも少なくなっていい感じです。Google Meetは以前から他拠点との打ち合わせに使用していましたが、このタイミングで随分使いこなせるようになりました。

Q.リモートワークを通して気付いたことや、感じたことを聞かせてください。

田中:効率的な働き方として、オフィス以外の場の活用も有効だと感じました。通勤時間を作業時間へ、もしくは通勤時間をプライベートな時間に使うことで、仕事にいい影響があるように思います。

これからは、オフィスは人と人とのコミュニケーションで生まれるアウトプットのためや、家にはない施設や装置を使用した高度なアウトプットを出すための場に特化していくと思います。イトーキでは、「OFFICE VISION 2020」としてオフィスの近未来シナリオを研究していますが、こういったことが加速するのは間違いないと思います。

今後、在宅ワーク環境が与えるワーカーへの健康の影響や作業効率の低下など、時間が経過するにつれて影響が現れてくると思います。その時に、働く場の環境構築のプロとして、仕事を通して考えていることを回答していくことが、私どもの責任だと感じています。

山本:前項でも触れましたが、ポストコロナでは働く場所の意識が大きく変わり、オフィス家具を提供する企業としても、よい面と悪い面どちらにおいても大きな影響があると思っています。

今後、場所を自ら選ぶという働き方が広まり、柔軟な働き方が許容されるような社会に変化していくのはいい傾向だと感じています。

宮田:自社オフィスの仲間たちと働くことももちろん刺激がたくさんありますが、家族の仕事している様子や、家族とその同僚のコミュニケーションも新鮮でおもしろいなと感じています。家が狭いので同じ空間で1日仕事をしていますが、ツールの違いから考え方の違いまで、いろいろなことが目新しく興味深いです。この状況が終息したら、多業種の人が集まるシェアオフィスでのリモートワークにも挑戦してみたいなと感じました。

田中さんのご自宅の仕事環境

田中さんのご自宅の仕事環境

Q.リモートワークをする上で「こんなものがあればいいのに」などのアイデアがあればお聞かせください。

田中:請求書や契約書など、紙で捺印を取り交わす必要のあるものの処理方法をデジタル化するにあたって、ルールづくりが必要だと感じています。いまは業界や会社ごとのダブルスタンダードになっているのではと思います。

今後、オフィスが全員出社を必要としない特化した機能を持った設備になっていく場合、自宅のファシリティを一部経費として考えるような仕組みも必要ですね。自宅のワークスペースにおいても、会社負担で身体の負荷を軽減させるような法整備が進むといいなと思います。

山本:「自宅にワークスペースをつくる費用を誰が支払うのか?」であったり、「これからどんな仕組みやサービスができてくるのか?」について考えています。モニターやプリンター、チェアなどはサブスクリプションになり、企業が支払うようになるのかもしれません。

これまで通勤費用として会社が負担していた費用が、自宅のワークスペース構築のための費用に一部シフトするイメージでしょうか。その時、もともと通勤にかける時間は無駄だと考えた場合、高めの家賃でオフィス近くに住んでいた人はどうなるんだろう?なども気になります。

宮田:カラーの仕事をしている身としては、モニターの色再現性がこれを機に改善されていったらとてもうれしいんだけどなぁと思います。もちろん、最終的な現品の確認は必須ですが、ある程度みんなが同じ色を見ているという前提で会話をしたい!

Q.最後に、リモートワークを実践している方に、メッセージやアドバイスがあればお聞かせください。

田中「働く=とりあえずオフィス自席に座っている」ということではないということ。働くということの本質が見えてくることで、いままでの慣習にとらわれることなく自分の仕事にとって最適な働き方をしたいと思っている人にとっては、いまの状況は後押しとなるのではと思います。自分もまだまだ慣れないことも多く模索しながらですが、さまざまな場で心身ともに快適に働くことができる環境について考え続けていきたいと思います。お互い頑張りましょう!

山本:コロナは働き方を見直す大きな機会で、世界中すべての人が平等に経験していることだと思います。大袈裟に言えば、今後人間が働くこととどう関わっていくのかということを、好転させることができるタイミングでもあると捉えています。この時期の気づきをどんどんシェアしていくことに、大きな意味を感じています。

宮田:私たちはいま、これまでの慣習やルールが見直され、新しい働き方が生み出されていく大きなきっかけの中にいます。そんな状況下で人々をリードしていくのは、やはりデザイナーやクリエイターの感性や行動だと感じています。こうやってさまざまな意見を集め、交わしていくことで、新しい時代につなげていければと思っています。

PROFILE
株式会社イトーキ
「明日の『働く』を、デザインする。」をミッションにかかげるオフィス家具メーカー。オフィス空間をはじめ、公共空間、専門空間、そして生活空間まで、人をとりまくさまざまな「空間」「環境」「場」づくりをサポートしている。
https://www.itoki.jp/

田中啓介 商品開発本部

大学ではプロダクトデザインを専攻。1998年イトーキ入社後、空間デザイン部門を経て商品開発部門へ。商品企画、プロダクトデザイン室にてソフトシーティングなどを中心としたデザインを担当。現在はチェアを中心とした商品企画に取り組んでいる。(写真:加藤麻希)

山本洋平 商品開発本部

大学では機械工学を専攻、自動車エンジンの燃費向上の研究などに従事。2010年にイトーキ入社、基礎研究部門で人間工学視点でのチェアの機構研究や福祉用の起立補助イスの機構開発などを担当。2016年から商品開発部門でミーティングチェアを中心とした商品企画に取り組んでいる。

宮田亜由子 CMFデザイナー

多摩美術大学テキスタイルデザイン専攻卒。卒業後は内装材メーカーに勤務し、企画とデザインを担当。国内外のライフスタイルトレンドに触れる中で、多様化が進むオフィスでの働き方・インテリアに興味を持つようになり、2018年にイトーキへ。前職での経験を活かし、CMFデザイン担当として商品開発に取り組んでいる。(写真:加藤麻希)