

公開日:2025/11/17

クリエイティブはどのような場所で生まれるのか?さまざまな企業のオフィスを訪問し、その環境をインタビューする連載企画「クリエイティブが生まれる場」。
今回は、多様なクリエイティブ領域のスペシャリストとして、クライアントに合わせて統合的なプランニングをおこなう株式会社EPOCH(以下、EPOCH)に訪問。同社は、映像やWeb制作などのデジタルコンテンツはもちろん、イベントや空間設計などアナログコンテンツも多く手がけている。
EPOCHの立ち上げに携わったクリエイティブディレクターの佐々木渉さんに、オフィス空間の魅力やこだわり、そしてどのような働き方をしているのかをうかがった。
――まずは、EPOCHの立ち上げにいたった経緯を教えてください。
EPOCHの設立は2013年で、代表の石澤秀次郎に誘われて立ち上げに参加しました。石澤と私は、もともと別のクリエイティブ会社の同期として、おもにWebや映像コンテンツの制作をしていました。仕事を通じてさまざまな映像作家と交流する中で、石澤が独立を決意。その際、「一緒にやらないか」と声をかけられたことがきっかけです。

佐々木渉さん
当時は、映像は映像制作会社、WebはWeb制作会社と、それぞれの専門会社に依頼することが一般的でした。しかしEPOCHは、そうした枠にとらわれず、映像とWebの両方を自ら手がけるスタイルでスタートしました。そこから扱うクリエイティブの領域を少しずつ広げ、いまにいたります。
――現在、どのような事業を展開しているのでしょうか?
大きく3つの事業に分かれています。1つ目は「クリエイティブエージェンシー」。クライアントの課題をあらゆる手法で統合的に解決していくチームです。私はこの部署に所属し、戦略や企画制作はもちろん、世の中に話題を生み出すためのPR設計まで、トータルディレクションを担当しています。
2つ目は「プロダクションワーク」です。Webや映像をはじめ、イベントや建築など、多様な分野の制作業務をおこなっています。クリエイティブエージェンシーの部署から制作発注があることもあれば、別の代理店から依頼されることもあります。
3つ目は「ディレクターマネジメント」。当社では、映像監督やコピーライター、アートディレクターなど、さまざまなクリエイターをマネジメントしています。クリエイターとチームを組んで制作することもあれば、クリエイター個人が外部の制作会社と協働することもあります。
本当にさまざまな得意分野を持つクリエイターが在籍しているので、課題解決に対して多角的なアプローチが取れるのが当社の強みです。
――佐々木さんが携わったお仕事の事例をいくつか教えてください。
代表的なのは、2023年にメルカリと開催した「ウチの実家」というイベントです。年末の帰省シーズンに、実家にある不用品の出品を促したいと相談を受けて企画しました。

「ウチの実家」のキービジュアル
家具から小物まで、すべてメルカリに出品されているアイテムだけを使い、疑似的な実家を原宿に再現しました。誰もが懐かしいと感じる昭和・平成レトロな雰囲気を演出しつつ、眠っている不用品にも価値があることを体感してもらうことが狙いでした。
イベントは連日行列が絶えず、10本以上のテレビ番組で紹介されるなど大きな話題になりました。さらに広告・PR企画のアワードも受賞するなど、大きな手ごたえを感じた企画でした。
直近の事例は、「旅先で出会った人ツアー」です。2025年10月に東京・兜町でオープンしたホテル「キャプション by Hyatt」のPRの一環として企画したものです。「人と人・人と街をつなぐ地域に開かれたホテル」というコンセプトを体感してもらおうと、「旅先で出会った人」に連れられて兜町を巡るイマーシブツアーという形に落とし込みました。

「旅先で出会った人ツアー」のキービジュアル
ツアーは「いまから兜町を回ろうとしていたんですけど、一緒に回りませんか?」という声がけからはじまります。登場人物と一緒に金融街として栄えた兜町の歴史や文化、グルメに触れながら、まるで現地の人と偶然出会って街を案内してもらっているようなストーリー性のある体験を楽しめます。
この2つの事例以外にも、広告やロゴ制作、ブランディングも数多く手がけています。しかし、我々の強みは、これらの事例のような体験まで含めたクリエイティブでもあります。統合的な視点を持って、これからも体験価値を提供し続けたいと思っています。
――多様なクリエイティブが生み出されるオフィスについてうかがいます。目黒駅近くの本オフィスに移ってこられたのはいつですか?
2025年6月です。前のオフィスが広尾にあったので、その近くで探していました。制作チームはさまざまな機材を持っていて、映像の試写をすることもあるため、ある程度の広さが必要だったんです。いまのオフィスは約400平米あり、条件に合う物件が見つかって良かったと思っています。
空間設計は、建築設計事務所の株式会社SNARKにお願いしました。建物は3階建てで、デスクの並ぶ1階のメイン作業スペースは一部吹き抜けの開放的な空間です。また、複数の会議室やソファースペースも配置しています。広々としたテラスには、テーブルやパラソルもあり、今後は社員でバーベキューなども楽しめそうだなと思っています。

日当たりの良い、吹き抜けのオープンスペース。窓からは竹林が見え、落ち着きのある雰囲気(photo:石橋優希)

オープンスペースの真上には、リラックスしながらの作業に最適なソファースペース(photo:石橋優希)

2階と3階にある開放的なテラス(photo:石橋優希)
そのほかにも、我々が設置したわけではないですが、本格的なサウナ室もあります。サウナ室の前にあるバスタブには、水の温度を一定に保てる装置も併設されていますし、そのままテラスに行って“ととのう”こともできます。そのための椅子もいくつか買ったのですが、サウナ自体はまだ実際に使用していないので、そのうち試してみたいと思っています。
――オフィスの空間づくりでこだわった部分を教えてください。
一番は“色”です。当社は、多くの個性的なクリエイターが集まっています。なので、多彩なクリエイターそれぞれの個性や作品が引き立つように、あえて会社としてはシンプルな配色にこだわっています。
例えば当社のホームページでは、白背景に黒字のデザインを徹底しています。オフィスリニューアルの際も、白と黒とグレー、そして木材をベースにしてほしいとお願いして、このようなデザインになりました。

モノトーンカラーをメインとした会議室(photo:石橋優希)
――いたる所にアート作品が飾られていますが、それもこだわりでしょうか?
代表の石澤が大のアート好きなんですよ。クリエイティブの会社に勤めている以上、アートにも精通してほしいという想いがあって、いろいろなアートを買い集めているのだそうです。
そのため、作業スペースから階段の踊り場にいたるまでたくさんのアートに囲まれています。ただ、飾れないくらい大きいものを買ってくることもあるので、最近は買う前に一度連絡してほしい……と伝えています(笑)。

エントランスに飾られていたのは、現代刺繍アーティスト宮田彩加さんと共同制作したオリジナルアート。「2つの相反する感覚をコミュニケーションで繋ぐ」という会社の理念を表現している(photo:石橋優希)

佐々木さんがお気に入りのアートは、ルイ・ヴィトンを擁するLVMHグループの職人育成プロジェクトに選出された、新進気鋭アーティスト米澤柊さんの作品
――シンプルな色のオフィスに、アートは良いアクセントになりそうですね。佐々木さんはいつもどこで作業されているのでしょうか?
私は1階にあるメインのオープンスペースで作業することが多いです。当社はフリーアドレスなので、2階のソファースペースでリラックスしながら働く社員もいますが、私は誰かが来た時にコミュニケーションを取れるオープンスペースが気に入っています。
ただ、リモートワークも可能なので、オフィスに人が少ない日もありますね。私自身も、出社頻度は週に半分程度です。各々が自由な働き方をしています。
――社員のみなさんにとってのオフィスを、どのような場所にしたいと考えていますか?
活発なコミュニケーションが生まれる場になってくれるといいですね。働き方に合わせて出社とリモートを使い分けてくれればと思いますが、一方で「出社したい」と感じてもらえるような場所をつくってきたつもりです。開放的なオープンスペースを設けたり、ちょっとした工夫としてビールサーバーを設置したりと、社員同士のコミュニケーションが自然に生まれる仕かけを取り入れています。

1階のオープンスペース
――ほかに、コミュニケーション活性化のために工夫していることを教えてください。
オフィス空間のことではありませんが、活発なコミュニケーションを促す制度や福利厚生が多くあります。例えば、社員2人以上でランチに行くと、1人3,000円分まで会社がランチ代を負担しています。
また、部署を超えたコミュニケーションを深めるために、くじ引きで決まった3~4人でランチやディナーに行くイベントも定期的に実施しています。こちらは1人につき1万5000円まで支給されるので、社員は制度を最大限活用して、ちょっと贅沢な食事を楽しんでいるようです。
――多様な専門分野を持つクリエイターたちと自由な働き方をしているということですが、会社として大事にしている軸はどういうものでしょうか?
コーポレートメッセージである「Be Honest About “Co-Creation”」、つまり「正直であれ」という姿勢を大事にしています。クオリティの高い共創をするために、例えクライアントに嫌われても嘘だけは言わないことを徹底しています。
また、メンバーの増加にともなって、対応できるクリエイティブ領域も広がってきました。そこで意識しているのが、課題解決の手段をフラットに考えることです。
相談された課題に対して、自分の得意分野である映像やWebを制作することが最適解とは限らないですよね。そのため、まずは映像やWebに縛られず、どんな媒体や手段がベストなのかを模索するようにしています。最も価値を提供できる戦略を考え、適した分野のスペシャリストたちによって形にしていくんです。
――そうしたフラットな思考力や提案力を養うために、人材育成の面で工夫していることはありますか?
新卒の社員に対しては、さまざまな分野の経験を積めるようにしています。以前は、新卒を特定のプロデューサーのもとで教育していました。しかし最近は、幅広い経験をしてほしいという想いから、案件ごとに異なるプロデューサーのもとに付かせるようにしています。
そうすることで、EPOCHの強みである統合的なプランニングができる、ハイブリッドな人材に育ってくれることを期待しています。

――高く評価される人の特徴はありますか?
第一に、主体的に行動できる人です。特に、常識的な方法にとらわれず、自分なりに工夫しながら目標達成のために動ける人を評価しています。
以前、映像制作のプロダクションマネージャーをしていた社員が、企画班への異動を希望していました。「実力があるのならいいよ」と伝えると、宣伝会議の販促コンペでグランプリを獲ってきたんです。自分で行動して結果を出せば、希望を叶えられますし評価もするのが当社の特徴ですね。
また、プロデューサーに関してですが、課別独立採算制を取り入れています。プロデューサーそれぞれが経営者という形にしているので、自分の給料を自分で設定しています。給料に対して売上は決まるので、自分で売上をつくっていかないといけない。それにはやりがいの中に苦労もあると思いますが、それができるのがプロデューサーなので、評価される人かなと思います。
――最後に、これからのEPOCHについて、どんな人と、どんなクリエイティブを生み出していきたいですか?
さまざまな領域に興味がある人に集まってほしいです。業界の潮流として、テレビCMにかける予算が減少していたり、クリエイティブにAIが使われるようになってきています。媒体も手法も多様化する中で、これからはあらゆる領域と手法を組み合わせたクリエイティブが必要不可欠です。
そのためにも、いろいろなことを吸収する意欲を持ち、それを楽しめる仲間と共に、ハイブリッドなクリエイティブ価値を提供できる会社をつくっていきたいですね。

(photo:石橋優希)


1985年生まれ。2013年に代表である石澤秀次郎とともにEPOCHを立ち上げる。テクノロジーと映像の組み合わせを強みに、PR視点を持ったインタラクティブコンテンツ、映像、リアルイベント、OOHなど、統合的にプランニング、ディレクションをおこなうことを得意とする