公開日:2024/06/27
2014年の創業以来、10年にわたり「個店」に特化した空間デザインを手がけてきた、クロノバデザイン株式会社。コンサルティングからデザイン、施工、アフターケアにいたるまでワンストップでオーナーに寄り添い、思いやこだわりの詰まった唯一無二のお店をつくり続けています。
「個店づくりは、街づくりやカルチャーにもつながっていく」と語る同社代表の尾崎勝悟さんに、個店づくりの醍醐味や今後のビジョンなどをうかがいました。
——まずは、クロノバデザインを立ち上げた理由を教えてください。
クロノバデザインでは、オーナーの思いやこだわりが詰まった、そこにしかないお店のことを「個店」と呼んでいます。私が個店の魅力に気付いたのは、コロナ禍前によく訪れていたニューヨークの街がきっかけです。
例えばソーホーという地域は以前、芸術家やデザイナーが集うおしゃれな個店が軒を連ねていました。いまでもアートやファッションの文化が根付く人気のエリアではあるのですが、現在は大型店舗が数多く出店して、参入が難しくなった個店のオーナーたちは隣町へと移っていきました。そしてその街にまたおしゃれな人たちが集まり、新たな街が生まれていく……そうした変化を毎年訪れるたびに感じていました。
20年ほど前のニューヨークは、治安が悪いとされるエリアがたくさんあったのですが、今は減ってきていて、街から街へと歩けるようになっています。それは、個店がその輪をつないでいってくれたおかげではないかと私は思うんです。一つひとつは小さいお店ですが、個店は街をつくり、そしてカルチャーにもつながっているのだと実感しました。
しかし、個店づくりの仕事は、チェーン店や大型商業施設の仕事に比べて下に見られることがありまして……。もともとチェーン店以外のお店に関わる機会が多かった私としては、それが不思議でしかたありませんでした。そうした経験から、街づくり、街の文化づくりに重要な役割を果たしている個店に誇りを持ち、個店専門の会社としてやっていこうとクロノバデザインを立ち上げました。
——チェーン店とは異なる個店づくりの魅力とは何ですか?
個店づくりの魅力は、やはり「オーナーのためにデザインができる」というところだと思います。チェーン店や大型商業施設の場合は、企業の担当者や施設の管理者とやりとりすることが多いですよね。対して個店の場合はオーナーと直接向き合い、一緒にいいお店をつくるのが仕事です。
お客様のなかにある思いやこだわり、やりたいことを細かなヒアリングを通して見つけ出し、デザインコンセプトに落としていく。そうして唯一無二のお店をつくることができるのが、個店づくりの面白さだと感じています。
——印象に残っているお仕事はありますか?
当社は飲食店を中心に、ヘアサロンなど、さまざまな業態のお店をつくっています。どの案件も思い入れがありますが、自由が丘にお店を構えるフレンチビストロ「Le Monde Gourmand(ル モンド グルマン)」の仕事は特に印象に残っています。
オーナーは、パリのレストランでも腕を振るわれてきた一流シェフ。夫婦2人でフレンチをカジュアルに楽しめるお店をオープンしたいと、ご相談にいらっしゃいました。
街の雰囲気に溶け込むような親しみのあるお店がつくれないかと思い、キッチンとお店の外が直接つながるような大きな窓をつくりました。街の人々とのコミュニケーションの場としても重要な役割を担っていて、この窓からお客様が直接予約されることもあるようです。
こちらのお店はその後、ミシュランガイド東京2024に「ビブグルマン」(価格以上の満足感が得られる料理を提供する飲食店)として掲載されました。多くの人に愛されるお店をオーナーと一緒につくることができたことを誇りに感じています。
——個店づくりをするうえで意識していることはありますか?
当社の社員には、よく「2人のお客様の視点を持つように」と話しています。1人は、クロノバデザインに依頼をしてくれた店舗オーナー、もう1人は店舗に通うお客様のこと。
お店づくりには、オーナーのやりたいことやこだわりをデザインに落とし込むことも大事ですが、そこに通う人の居心地も大切です。「自分が通う時にどういうお店だったら嬉しいか」という、オーナーが見落としてしまうような視点を忘れずに、「2人のお客様」が満足するような提案を心がけています。
個店の場合は、人が訪れ、生き残っていくことも非常に重要なんですよね。理想だけではない、そうした店舗のリアルさは忘れてはいけない部分だと思います。時には「この場所はやめたほうがいいんじゃないか」とお話することもありますね。商業施設内のお店と違ってファサードが重要になってくるので、「顔つきがいい場所」という提案をすることもあります。
また、「設備」は個店づくりにおいて最も重要な要素だと考えています。例えば、飲食店における厨房やヘアサロンの洗髪台、焼肉店の空調換気といったものですね。こうした設備はお店の骨格ともいえるものであり、後から変更することが難しいんです。そのため、見積書やプランを提案する前には必ず現場で設備環境を確認するようにしています。
設備面は見た目ではわからないことも多いので、施工までを手がける当社のノウハウを駆使して、納得いくまでしっかり打ち合わせをするように意識しています。
そして、アフターメンテナンスに力を入れている点も当社の特徴です。店舗は営業が始まってからが重要です。施工して終わりではなく、その後のメンテナンスに関しても専門スタッフを入れて対応をおこなっています。
——クロノバデザイン店舗デザイン部門の働き方について教えてください。
当社の店舗デザイン部門には、大きく分けて「現場クリエイター」と「デザイナー」の2つの職種があります。
現場クリエイターは現場におもむき、個店づくりを最前線で指揮するリーダー的な仕事です。そもそも空間デザインは、パソコンや図面上で完結するものではなく、現場でつくっていくものです。だからこそクロノバデザインは、現場で現物を見て現実を知り行動する「三現行動主義」を大切に、現場にこだわり続けています。現場クリエイターは、そんなクロノバデザインの象徴的な存在なんです。
特に個店づくりは、いびつな形の物件や古い建物の場合があり、図面には描き切れない細かなディテールなど、現地で決めなくてはいけないことも結構多いんですよね。一般的な施工管理であれば、デザイナーが書いた図面を基に業者に指示を出していくのだと思います。
現場クリエイターの場合はそうではなく、現場で培った知識と知恵を発揮して自分たちで収まりを考え、デザイナーに「こういう図面を書いてほしい」とフィードバックする機会も多々あります。もちろん現場管理をおこなう仕事ではありますが、現場クリエイターはモノづくりそのものを担う、クリエイティブな仕事だと考えています。
デザイナーも、他のデザイン会社とは働き方が少し違うかもしれません。転職者のなかには、積算業務をしていたり、営業的な活動をしたりと、デザイナーでありながらデザイン以外の業務をしていたという人が多くいました。しかし、当社のデザイナーは基本的にデザインしかやりません。デザインに専念できる環境があるので、デザインをしたいという人にとっては、とても心地よい環境だと思います。
——どんな方と一緒に働きたいですか?
現場クリエイターに関していえば、モノづくりが好きな人。未経験でも、手や体を動かしてモノづくりに関わりたいという人は向いていると思います。
現在当社には、人材派遣会社でサラリーマンとして働いていた人や、アパレルショップの店長、家具の職人さんなど、さまざまなキャリアを持つ社員が現場クリエイターとして働いています。なかには現場経験を積み、チーフとして活躍している人もいますね。建築や内装の知識を持たない未経験の方でも、貪欲に学び、現場で活きる知恵を身につけることができれば、キャリアアップの可能性は広がっていくと思います。
もちろん建築や設計に関するスキルをお持ちの方や、チェーン店をつくってきたという経験者も大歓迎です。最近は企業から個店づくりを依頼されることもありますし、企業が個店オーナーに声をかけ、商業施設内に個店の出店を促すといった事例も増えています。これまでのノウハウが活きる場が必ずあります。
デザイナーは、とにかく空間デザインをやりたい人。その気持ちが強い人と働きたいです。ただし、当社は「個店」という分野が特徴です。「行きつけのお店はどこですか?」と聞かれて、チェーン店を挙げる人は少ないですよね。きっとその街にある、魅力的な個店の名前を答えると思います。そうした、自分が通いたいと思うようなこだわりのあるお店をデザインしたい、という人が来てくれたら嬉しいです。
——最後に、今後の展望を聞かせてください
まずは、日本唯一の個店専門である当社をもっと多くの人に知ってもらうこと。世の中には数多くの個店がありますが、個店を専門とする空間デザイン会社はありません。私たちの力を必要としている方々は多いと思いますので、これからもクライアントに寄り添った個店づくりを追求していきたいです。
また、現在は都市部を中心に事業を展開していますが、これからは地方にもどんどん進出していきたいと考えています。我々がつくっている個店は、見方を変えれば「ミクロな経済」なんですよね。ひとつのお店が繁盛すれば、そのお店に触発され、周辺に新しい個店が集まります。そうしてどんどん個店が広がっていけば、前述のニューヨークの例のように、そこに新たな街、カルチャーが生まれるはずです。地方にもそうした人の集まる「場」をつくっていけたら嬉しいです。
そして、私たちの「個店づくり」はいまや海外にも広がり、ここ数年で高級和食料理店などのお店を海外でデザインしてほしいというご依頼も増えてきました。観光で日本に訪れた方が本場の日本食料理店に触れ、自国でも本物の和の空間を求めるようになったのかと思います。そうした海外のお客様の思いに応え、個店づくりのノウハウを世界中にも届けていければと願っています。
【募集要項】
「個店」をつくる空間デザイン会社 スタッフ募集
日本唯一の「個店」に特化した空間デザイン会社として業界でもユニークなポジションを築く。30年弱のキャリアを通じて、あらゆる空間デザインを手掛けており、デザインだけでなく、設備や施工方法、ブランディング、飲食店経営などそのノウハウは多岐にわたる。「個店が街のカルチャーをつくる」がモットーとしている。