株式会社丹青社
構成・文:開洋美 撮影:木澤淳一郎

公開日:2016/07/04

働き方インタビュー

まずはまっさらな状態で、お客さまの懐に飛び込む

株式会社丹青社

眞田章太郎 デザイナー

大型商業施設や文化空間、専門店など数多くの施設の空間づくりを行う丹青社で、デザイナーとして日々奮戦する眞田章太郎さん。高校時代の交換留学を経てアメリカの大学を卒業後、ニューヨークの設計事務所でデザイナーを務めた経験もある若きエースにとって、仕事を楽しむ秘訣やモチベーションとは?
Q. 眞田さんの現在のお仕事について教えてください

大型商業施設や専門店、エンターテインメント施設といった空間づくりの課題解決を行う、CS(コマーシャルスペース/コミュニケーションスペース)事業部というところでデザイナーをしています。業務内容としてはコンペから企画、デザインと多岐にわたります。基本的には内装設計の仕事なんですけど、最近はプラスアルファの部分も視野に入れて仕事をしていく必要があるなと思っています。

流れとして、まずは、お客さまから現状の課題やこうしてほしいと思う要望をヒアリングして、根本にある問題を見極めます。それに対して僕たちはエンドユーザーの立場で、本当にその空間を良くするための抜本的な解決策を提示して、課題解決に導く。ヒアリングしていくとお客さまでさえ把握できていない課題が根底にある場合も多いんです。

お客さまにとっていちばん良い解決策を一緒に導き出す


Q. お客さまとの距離を近づけるには?

内装工事を依頼された場合でも、内装工事をしなくても解決できる問題もあるので、そういう時はきちんと伝えるようにしています。そこでお客さまに信頼してもらえれば、また何かあった時に声をかけてもらえるんです。今すぐに仕事に直結するかしないかは別として、お客さまにとっていちばん良い解決策を一緒に導き出す、ということを最近は特に意識しながらやっていますね。

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Q. いまのお仕事をする前は何をしていましたか?

ニューヨークにある設計事務所で、デザイナーとして働いていました。高校時代のカナダへの交換留学を経て、アメリカの大学を卒業し、そのまま就職先を見つけました。大学では当初、国際政治学部という今とはまったく違うジャンルの学部に所属していましたが、学生生活を送るうちに「本当にやりたい仕事って何だろう?」と将来が見えなくなった時期があって、思い切って休学したんです。

帰国後はもともとカフェが好きだったこともあり、渋谷と自由が丘のカフェを掛け持ちで朝から晩までアルバイトする生活を約1年送りました。そのカフェがとても気持ちのいい空間で、働くうちにインテリアを勉強したいと強く思うようになったんです。そこから一念発起して再渡米。通っていた大学は総合大学でデザイン学部もあったので、空間デザイン学部に入り直し、一からインテリアや設計、デザインを勉強してニューヨークの設計事務所に就職しました。いま考えると、自分でも行動力があったなと思います(笑)。

Q. 丹青社に入社したきっかけ

アメリカで働いてみてわかったことですが、アメリカと日本では仕事のスタイルもずいぶん違いました。向こうは業務分担が明確で、デザインの中でもラフスケッチを引く人、デザインをする人、それを図面に落とし込む人と見事に部署が分かれていて、自分の作業が終わった後はそのプロジェクトがどうなっているかわからないということもありました。

設計事務所での仕事にも慣れてきた頃、ニューヨークの書店で日本の建築雑誌に載っていた記事に感銘を受けたんです。1から10まで真摯に取り組んだ姿勢が載っていて、自分も日本でこういう働き方がしたいと帰国を決めました。そして帰国後、就職活動中に求人サイトで見つけたのが丹青社の募集。チャンスだと思って応募したところ、縁あって入社に至りました。最初はアメリカと日本の働き方の違いにカルチャーショックを受けたりもしましたが…(苦笑)。

眞田さんの名刺、会社ロゴが目立つデザイン

眞田さんの名刺、会社ロゴが目立つデザイン

Q. 丹青社の社風を教えてください

デザイン、制作、営業が一箇所に集まった会社なので偏りがなく、いろいろなスタイルの社員がいるので刺激を受けますね。たとえばデザイン事務所だったらデザイン目線に偏って物事を考えてしまいがちですが、うちは隣を見れば営業の社員がいる。自分とは違う目線での意見や考え方を聞きながら仕事ができるので、それがいつもとは違った角度から物事を考える良いきっかけになるんです。

いろいろなライフスタイルをもった社員が多いので、秋葉原から今の品川の事務所に移転してからはそこに会社が寄り添ってくれている社風を感じます。デザインの部署以外は社員の固定席を設けないフリーアドレスタイプのオフィスなんですけど、状況に応じて臨機応変に働き方を選択できるという意味では、今の時代にもとても合っていると思います。

Q. 印象に残っているプロジェクト

2014年に担当した、町田にある宝永堂さんという老舗宝石店の内装設計プロジェクトです。3階のフロアにギャラリーをつくりたいという希望で、話が来た時点ではガラスケースを3つ並べてその中に宝石を陳列するというだけの予定でしたが、もう少し工夫ができるのではないかと感じたんです。というのも、実際に陳列するものはかなり値打ちのある骨董品だったので、それだけではもったいない。そんな話をお客さまにもしたところ、結果的にギャラリーが映える空間になるように3階の一部ごと改装する形になったんです。お客さまは僕の祖父と同じくらいの年齢なのですが、僕みたいな若造の意見をちゃんと聞き入れてくれて。それがきっかけで、宝永堂さんで何か改装をやる時には声をかけてくださるようになりました。

宝永堂コレクション(撮影:鈴木賢一)

宝永堂コレクション(撮影:鈴木賢一)

つい最近も1階のメインフロアの改装を終えたばかりなんです。最初は什器を変えるだけという案が出ていたのですが、経年劣化がひどかったことと、若い方にも来店してもらいたいというお客さまの意向もあり、話し合いとプレゼンを重ねた結果、1階を全面改装することになりました。町田に行くたびに覗くんですが、以前は年配の方の来店が目立っていたところ、最近は若い方もちらほらいて。お客さまの希望するブランディングに少しでも近づけていると嬉しいですね。

宝永堂1F(撮影:鈴木賢一)

宝永堂1F(撮影:鈴木賢一)

専門的なスキルは置いておいて、相手と同じ目線で会話する


Q. 仕事をしていて楽しいと思える瞬間と、その秘訣

デザインして絵を描いている時も楽しいですが、最近は打ち合わせが楽しいと思えるようになりました。社内でもお客さまとの打ち合わせでも、自分がこうだと思う「答え」に向けてどんな筋道を立てればうまくいくのか、ここ数年でいろいろ試行錯誤を繰り返しながら学んでいます。打ち合わせってみんなが探り合いで、自分の立ち位置や振る舞い方次第で意見が通る時もそうでない時もあります。対人関係も難しいし、以前は面と向かった話し合いの場に少し苦手意識があったのですが、最近はそういう部分も含めて仕事がおもしろいと思えるようになってきました。

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秘訣は、変に取り繕うことはせず、まずはまっさらな状態でお客さまの懐に飛び込むことだと思います。初対面の打ち合わせは相手が緊張していることもあるので、お客さまから意見を求められてちょっと違うなと思った時に「それは違うと思います。なぜなら○○だからです」と戦闘モードで真正面から意見をぶつけては、かえって事故になりかねない。でも、「いやー僕こっちのほうが絶対カッコいいと思うんですよね」といった言葉のニュアンスひとつでその後の結果が変わってくることもある。

だから、まずはこちら側の専門的なスキルは置いておいて、できるだけ相手と同じ目線で会話することを心がけています。僕がそういうスタンスで臨むとお客さまの緊張をふっと和らげることもでき、結果的に物事がスムーズに運ぶことが多いんです。

Q. 反面、大変な面や難しいと感じるところ

いろいろな人が絡むとその分動くお金も大きいので、責任が重大になってきます。特に内装になると多くの人の協力のもとでプロジェクトが進んでいくので、さまざまな専門的な会社の方と協業することになります。そこをうまくコーディネートするのも僕たちの仕事で、連携ミスやコミュニケーションミスが起きることで大きな損害を被ってしまう可能性もあるので、そういう点でこの仕事の難しさを感じますね。

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Q. この仕事のいちばんの魅力

僕がこの会社に入って最初に担当した案件が、メガネ専門店のJIN’s GLOBAL STANDARD(ジンズグローバルスタンダード)というお店の内装でした。当時は多店舗展開しているお客さまの課題解決を行う、SE(ストアエンジニアリング)事業部にいた頃で、入社して3ヵ月くらいでした。当時SE事業部は社員数が少なく、ちょうど営業から話がきた時は僕以外の社員が出張で出払っていたので、僕に白羽の矢が立ったんです。そこからコンペに向けたプレゼン資料をつくるのですが、アメリカと日本では用語も違えば丹青社に入社してから細かな図面を引くのも初めてだったので、てんやわんやで(笑)。

「ここは木にしたい」「ここは鉄にしたい」という僕の漠然としたイメージを制作担当に伝え、具体的な施工方法を検証しつつ、なんとか絵をつくってコンペに出したところ、僕のデザインを採用してくださったんです。この時の内装は、僕が帰国を決めたきっかけでもある建築雑誌にも掲載してもらいました。

JIN's GLOBAL STANDARD イオンモール浜松市野(撮影:山田誠良)

JIN’s GLOBAL STANDARD イオンモール浜松市野(撮影:山田誠良)

オープン初日、僕が内装を手がけた店にお客さんが入ってくる姿を見て猛烈に感動して、施設のトイレにこもってしばらく号泣しました(笑)。あの時の感覚をもう一回味わいたい一心で仕事を続けているので、魅力といわれるとそこですね。年齢を重ねて慣れてしまった部分もあると思うんですが、あれを超える感動を味わいたいというのが今の仕事のモチベーションでもあります。

会社の利益に貢献しながら、自分のやりたい仕事も取りにいく


Q. これからどんなお仕事をしていきたいですか?

案件によって一喜一憂するのではなく、淡々といいものをつくり続けていける職人のようになりたいですね。まだまだ浮き沈みがあるので、コンペはコンペでしっかり勝ち取って自分の担当する案件も残していけるような、安定したリズムをつくり出すのが理想です。これまでに内装を手掛けた案件は大型店、専門店、エンターテインメント施設とひと通り経験してきましたが、やっぱりJIN’sが原点というか、自分の中では専門店を手がけたい気持ちが強いんです。ただ、会社にいる以上は会社としての利益に貢献しながら、その中で自分のやりたい仕事も取りにいく、そんなスタンスで働ければと思っています。将来的には、この会社でできる最大限のところまでいくのが今の目標ですね。

Q. 眞田さんのお仕事をほかの言葉で表すと?

社内、社外どちらにおいても、どの立ち位置でどんなパフォーマンスをするかで仕事の進め方が変わってきます。時には目的達成のために演じることも必要な仕事だと感じています。そういった意味では、求められた役を演じる「役者」に近いかもしれません。でも単に演じるだけではなく、その中で常に最大限のパフォーマンスを発揮できるだけのスペックは常に持ち合わせておく必要があると思っています。

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たとえば宝永堂さんの1階の改装の時、僕は当初言われた什器だけを変えたバージョンの図案と、全面改装した場合の図案の2点を準備していきました。最初こそ全面改装の図案は隠しておいたものの、いざ出してプレゼンしてみると皆の気持ちが全面改装に向けて動き始めるのを感じました。こうした一つひとつの手応えが自信につながっているからこそ、まずは細かいことは考えず、お客さまの懐に思いきって飛び込めるんだと思います。

PROFILE
株式会社丹青社
「こころを動かす空間創造のプロフェッショナル」として、店舗などの商業空間、博物館などの文化空間、展示会などのイベント空間等、人が行き交うあらゆる空間づくりの課題解決をおこなっている企業です。調査・企画から、デザイン・設計、制作・施工、運営まで、空間づくりのあらゆるプロセスをサポートしています。

http://www.tanseisha.co.jp/

眞田章太郎 デザイナー

ニューヨークの設計事務所「Walker Group/CNI」での経験を経て、2007年に丹青社入社。専門店を中心に大型施設・アミューズメント施設・飲食店など幅広くデザインを手がけている。代表作:宝永堂(Design Award by Nagoya Mosaic-Tile 銀賞受賞)、JIN's GLOBAL STANDARD(JIN's)、AKB48 CAFE&SHOP AKIHABARA、イセタンハウス