株式会社アダストリア
INTERVIEW
構成・文:開洋美 撮影:里永愛
公開日:2017/03/31

ブランドコンセプトと想いを、空間に具現化する

株式会社アダストリア

矢崎美奈子 店舗デザイン部 部長

「GLOBAL WORK」や「niko and…」、「LOWRYS FARM」など、ファッションや雑貨を中心としたブランドショップを国内外に21ブランド、約1300店舗展開する株式会社アダストリア。そのすべての店舗デザインを管理する部署で部長を務めるのが、現在入社10年目となる矢崎美奈子さんだ。「業務は多岐にわたるけれど、その分やりがいの大きな仕事」と話す矢崎さんに、店舗デザインという仕事の魅力や、マネジメントという立場での責任や心構えを聞いた。
Q.矢崎さんのお仕事について教えてください

会社自体はアパレルを中心とした小売業で、私が所属するのは店舗デザイン部という部署です。現在全国に1300店舗あるブランドショップすべての新規オープンや改装の業務に携わるのが、店舗デザイン部の仕事。新店、改装だけでも年間に150店舗ほどあります。新規オープンの場合だと自分たちでデザインをおこして、設計会社と一緒に図面に落とし込み、施工会社に発注をするという、どちらかというとインハウス的な面が大きいかもしれません。

私個人の業務でいえば部員12名をマネジメントする立場なので、基本的には特定の案件はもたず、全体をみるのがおもな仕事です。新たにブランドを立ち上げる、路面店をつくる、といった場合にはプロジェクトに入ることもあります。

「好きなデザインをしていい」が、入社の決め手

Q.アダストリアに入社したきっかけ

今の会社は3社目なのですが、私が入社した当時はまだトリニティアーツという社名でした(2015年に2社が合併してアダストリアに)。もともと大学で建築を専攻していたので、大学卒業後は建築事務所に就職して5年間勤めました。そのあとに勤めたアパレル会社のデザイン部も職種的には今と同じような仕事で、デザインもさせてもらえたのでとても勉強にはなったのですが、そんなタイミングで知り合いが、「会社(トリニティアーツ)を立ち上げるから一緒にやらない?」と声をかけてくれて。

入社しようと思った決め手は、「矢崎が好きなデザインをしていいから」という一言でした。それが10年前の2007年です。今でこそ2万人規模の会社になりましたが、当時は雑居ビルの1室で10人ぐらいからのスタートでした。

でも、どういうわけか当時の社長が「3年目で売り上げ100億の会社にしたい」といつも言っていて、「こんな雑居ビルだし本当かな〜?」と思っていたんです(笑)。でも実際に3年目か4年目で、当時のトリニティアーツが売り上げ100億を達成しました。最初は正直売れないお店もあり、退店も多かったのですが、いろいろなことが軌道に乗りはじめたのが3年目以降でしたね。

Q.アダストリアの社風

風通しがいい会社だと感じています。社員が「こういうブランドを立ち上げたい」と提案した場合に、もちろん社内会議でプレゼンなども通していく必要はあるのですが、社長や会社のトップクラスとも直接話ができるので、意見を言いやすく、アイデアがダイレクトに経営陣に伝わりやすいのはいいところだと思います。日本の企業にありがちな、トップダウンのやり方では決してないですね。あとは中途採用で入社してくる社員も多く、アパレルではないさまざまなバックグラウンドを持った人たちがたくさんいるので、いろいろな文化が融合している雰囲気もあっておもしろいですよ。

新規ブランドの立ち上げは、楽しみと不安が混ざった複雑な気持ち

Q.最近手がけた、印象的なプロジェクト

ちょうど今年の3月に「LAKOLE(ラコレ)」という新ブランドを立ち上げました。内装のコンセプトを考えるところから始まり、1年以上かけて形にしていった大きなプロジェクトです。LAKOLEはアダストリアになってはじめて立ち上げた新ブランドでもあり、これまで手掛けてきた新ブランドの内装にくらべてかかった時間も長かったですね。

LAKOLE ブランドビジュアル

というのも、ブランド自体のコンセプトが「シンプル」や「ミニマリズム」なので、特徴があるようでないところが逆に特徴というか。30~40代の男女がコアターゲットになると思うのですが、ターゲットの年齢層もブランドとしては特に打ち出していません。その中で内装のコンセプトを考えた時に、商品もある中でどこまで内装を主張すべきか、という落としどころを探るのに時間がかかりました。「白を基調にしたシンプルな内装」という要望はあったものの、かといってシンプルになりすぎず、主張しすぎず、というバランスがチームでいちばん頭を悩ませたところです。

3月16日に1号店としてオープンした、イオンモールりんくう泉南店

イオンモールりんくう泉南店

イオンモールりんくう泉南店

いよいよ始動なのでもちろん楽しみではありますが、「本当にかっこいいかな」「売れるかな」というプレッシャーも半分入り混ざった複雑な気持ちです(笑)。新規ブランド立ち上げの時はいつもドキドキですね。

売れる・売れないの経緯を見届けられるのが魅力

Q.このお仕事の魅力

自分たちの会社のブランドを自分たちの想いで形にできて、最終的に売れる・売れないというところまでの経緯を見届けられることだと思います。たとえばデザイン会社にいると、お店ができるまでの過程は見ることができても、その後の業績までは追うことができませんよね。でも自社ブランドだと「売れてるよ」とか、「1年目は苦しかったけど2年目以降は売り上げがアップした」など、現場からの意見もダイレクトに上がってきます。

通常私たちのような部署って、コスト設計やスケジュール管理、お金の調整などがメインで、そんなにクリエイティブなイメージはないと思うんです。でもアダストリアでは、空間のデザインをするのはあくまで店舗デザイン部です。なおかつそれを実現して施工まで管理し、きちんと売れる店にするというところまで責任をもって取り組める。業務は多岐にわたりますが、その分やりがいも大きいですね。

デザインの仕事というと大変なイメージもあるかもしれませんが、私自身、6歳になる子供のお迎えがあるので18時には帰宅します。最初こそ両立は大変でしたが、時間の使い方に慣れてしまえば楽しめるようにもなりました。だから、私のように子供がいる立場の女性でも普通に働ける現場、ということも広く知っていただけたら嬉しいですね。

「お伺い」ではなく、「報告」というスタイルを心がける

Q.仕事をする上で心がけていること

たとえば上司に提案書などを見せて意見をもらう場合、私は「お伺い」ではなく、なるべく「報告」というスタイルをとることを心がけています。「こうしようと思いますけどどうですか?」ではなく、「こうします」という風に。それで問題があればもちろん手直しを加えますが、GOサインが出たらあとは責任を持ってこちらでやる、という形にしています。これは、私が入社した当時から心がけていることです。決めるのは自分たちだという思いも常にありますし、決定権を委ねてしまうと、後々「◯◯さんがこう言ったから」という状況にもなりかねません。それは私を含め部員にも良くないことなので、みんなが「こうします」と言えるようにならなければいけないと、常々思っています。

Q.矢崎さんの会社におけるミッション

私たちの部署は、いいデザインをすることはもちろんですが、インハウスデザインなので、社内でいかに経営陣を納得させるプレゼンをするかがとても重要になってきます。良いデザイン案ができても言葉足らずではもったいないので、プレゼン前は部署内でプレゼンに向けたシミュレーションをし、言い回しや説明の順番に問題がないかを検証する時間を設けています。

売れるお店にすることやオープンにきちんと間に合うかなど、日々考えることはたくさんあるのですが、チームをどうつくっていくかということも常に気にかけています。ミーティングの場でも、それはキャラクターなので、どちらがいいというわけではありません。ただ、そのバランスをうまくとりながら、こういうチームにしたいという想いを形にしていくのが、今の自分の仕事かなと思っています。

Q.今後のビジョン

小売業において、自社内で店舗のデザインを手がけるインハウスデザインの部署はまだまだ少ないように思います。また、そうした部署が実際にあっても、コスト調整やスケジュール調整に追われ、デザイン業務に費やす時間があまりとれない会社も多いと聞きます。

アダストリアもまだまだ進化中ですが、小売業の中にも店舗デザイン部のような活動を行えることが伝えていけたら、インテリアデザイン職を目指す学生達の活躍の場を広げていけるのではないでしょうか。そうすることで、デザイン業界をさらに盛り上げる一助になれればと思います。

Q.矢崎さんのお仕事をほかの言葉で例えると?

「こんなにいいものができたんですよ〜」とか、「こんな展示会を見に行ったらおもしろいと思いませんか?」など、いろいろな方面にアピールして気を引いてもらうことも結構重要な仕事なので、そういった意味では「宣伝屋さん」という言葉が近いでしょうか。

PROFILE
株式会社アダストリア
国内外で17ブランド、約1300店舗を展開するファッションカジュアル専門店チェーン。紳士服小売店として創業した当社は、60余年の成長の過程において、幾度もビジネスモデルの変革を実行。その背景には、変化を恐れず、その時、その時のお客さまにとって最適な答えを探して挑戦し続けるという企業文化がある。

http://www.adastria.co.jp/

矢崎美奈子 店舗デザイン部 部長

武蔵野美術大学卒業後、設計事務所に勤務。その後、アパレル会社の空間デザイン部を経て、2007年に株式会社アダストリアの前身となる会社に入社。​複数の​社内ブランド設計を担当した後、マネジメント業務​に従事。現在は社内ブランドの空間デザインプレゼンテーションを高めるべくチーム向上業務に取り組んでいる。